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うちの愛生ちゃん  作者: 横溝 啓介
1年2学期
112/119

花音の推し事 入り待ち

読んで下さる皆様、心より感謝致します。


ゆっくりと物語を進めますので、気長にお付き合い頂ければ幸いです。

入り待ちの列に並んでいた花音――いや、ハンドルネーム“ラムネちゃん”のところへ、

ふわりと香水の匂いをまとわせた数人のお姉様グループが近づいてきた。


「おはよ〜ラムネちゃ〜ん。今日も可愛いわねえ〜」


ころんとした団子頭に、クリーム色のもこもこアウターが特徴の**みゅんさん(60代)**だ。


その横から、ソバージュヘアが朝日にきらめく**ゆんゆんさん(50代)**が顔を出す。

白のふわモコニットに、白ポーチという全身“清楚”アピールの装備をキメている。


「ほんとよ〜。ラムネちゃん、クリスマスライブ来なかったから心配したんだからぁ」

(※心の声:若いライバルが一人いないと、やっぱりイベントは平和だったわ〜♪)


「おはようございます、みゅんさん。みゅんさんも今日、相変わらず可愛いですね」

にこり、と“営業スマイル”を返すラムネちゃん。

――この子、こんなに社交スキル高かったっけ?

愛生プリンちゃんは目をぱちぱち。

みゅんさんはラムネの紫×黒の量産型コーデを見ると、


「あら〜今日も安定の量産型ちゃんねぇ。紫だと目立たなすぎず可愛いわ〜」


と、うっとり褒めてくる。

するとラムネちゃん、すかさず返す。


「みゅんさんもお団子頭、すっごく若々しくて可愛いですにょん。 お若くして頑張ってますね」

(※さりげなく“頑張って若作り”と言っている)


お姉様方の笑顔に、にっこりと“対抗心の火花”が散ったのを愛生は見逃さなかった。

ゆんゆんさんが、今度は愛生をじぃーっと見つめる。


「お隣のお友達も……芋くて可愛いわねぇ〜」

「えっ……芋くてって、わ、私のこと!?」


と素で反応してしまう愛生。

するとラムネちゃんがひそっと囁く。


「プリンちゃん、気にしちゃダメにょん。

 この界隈では“芋い=地味=推しに警戒されない”という意味で褒め言葉(?)にょん」


どこが褒め言葉なんだろうと、愛生の頭の上で“?”が爆増する。

だが一つだけわかった。

――ここは戦場だ。

トモくん推しのライバル同士、見た目は笑顔でも腹の内ではマウントが飛び交っている。

そこへ、完全一般人の愛生が巻き込まれたのである。

「今日もガチ恋勢同士、よろしくね、ラムネちゃん♡」

「こちらこそですにょん♡」


笑顔の裏に修羅がいる。

愛生は思った。

花音ちゃん、普段の甘えん坊どこ行ったの!?

こうして、初めての“推し活バトルフィールド”へ放り込まれた愛生だった。


◆メンバー登場〜花音の順番争い〜

境内に響くような黄色い歓声とともに、

ついに――トモくんを含む《新百合ヶ丘01カラト》のメンバーが姿を現した。

「きゃーーーっ!! 来た来た来た来た!!」

一斉に駆け出すファン達。

花音も、みゅんさんも、ゆんゆんさんも例外ではなかった。

「あっ、か、花音ちゃ……!」

愛生が呼び止める暇すらない。

3人は“ライバル心の塊”となって一直線にトモくんへ突進。

ぽつん、と取り残される愛生。

(ま、待ってよおぉ……!)

慌てて駆けだした愛生の視界の先――

そこには、長身で端正な顔立ち、王子様のような気品をまとった、

センター・トモくんが立っていた。


『うわ……すご……。ほんとの美形ってこういう顔なんだ……』


思わず見惚れる愛生。

すると、トモくんがふっと優しい笑顔を向け、

ファン達一人ひとりに声をかけ始めた。


「みゅんさん、おはよ」

「ゆんゆんさん、おはよ」

「ラムネさん、おはよ」


まさかの“年齢順”の丁寧あいさつ。

その順番に、3人の温度差ありすぎるリアクションが爆誕する。


「みゅんが1番〜〜♡」

と舞い上がるみゅんさん。


「2番目……でも3番目より全然良い!!」

とゆんゆんさん。


そして――花音ラムネは口角だけ笑って、

目だけ一ミリも笑っていない。

《勝ち誇った視線で見下ろすみゅん&ゆんゆん》

VS

《氷点下スマイルのラムネ》

愛生プリンは巻き込まれたくなくて距離を3cmだけあけた。

だがトモくんはすぐに会場へ入ってしまい、

3人の“順位バトル”は強制終了となった。


「気にしないによん。プリンちゃん行こ」


と花音に手を引かれる愛生。

(いや今、めちゃくちゃ気にしてた顔だったよ!?)


「クリスマスライヴは行かなかったの?」

と恐る恐る愛生。


「クリスマスライヴの日は、みんなでお買い物したからライヴには行かなかったにょん」


さらっと答える花音。

その瞬間――愛生の脳裏に、

圭介の頬へ花音がキスした、あの日がよみがえる。

(あの日……花音ちゃん、ライヴ行かずに……

 お兄ちゃん優先したんだ……!?)

そして、ひとつの結論が浮かぶ。

(……お兄ちゃん、トモくんに勝ったんだ)


花音にとって、“最推し”の存在は――

もしかしてアイドルだけじゃないのかもしれない。

こうして愛生はまたひとつ、

花音という名の“天使系・地雷系ハイブリッド女子”の

不可解ポイントを理解させられるのであった。


◆ SNS巡礼の旅・開始 ◆

花音――いや、今日は“ラムネちゃん”だ――に手を引かれ、愛生と花音はライヴ会場近くの道を駅へ向かって歩き出した。


「え、花音ちゃん……駅? 電車乗るの?」


愛生が恐る恐る尋ねると、


「うん。これからトモくんSNS巡礼の旅に行くにょん!」


朝5時起床のテンションそのままに、花音は胸を張って答えた。


「えっ……SNS巡礼って、何……? 開場までファミレスとかでまったり待つんじゃないの……?」


愛生の声が震える。

花音は躊躇なく宣言した。

「開場まで、まだ4時間以上もあるにょん。

だから、トモくんがSNSにアップした場所をまわるにょん!」


キラキラした瞳で言い放つ花音。

そのオーラは、天使界隈でも地雷系でもなく、完全に“ガチオタ界隈”のそれ。


「え〜〜〜……。

わ、私……いったいどうなっちゃうの……?」


愛生は自分がとんでもないとこに足を踏み入れたことを、ようやく理解し始めていた。

SNS巡礼。

開演まで4時間以上。

地雷系量産型コーデのラムネちゃんのハイテンション。

推し活女子の戦場。

愛生は悟った。

――今日1日は、とてつもなく長丁場になるんだ……。

それでも、花音に手を握られたまま、愛生は電車へと連行されるのだった。


電車に揺られて数駅。

まだ開演まで4時間以上あるというのに、花音は愛生の手を引いてスイスイ歩いていく。


「ねぇ、花音ちゃん。いったいどこ行くの……?

 駅からどんどん離れてるけど……」

「ついたにょん」


花音が指差した先には、

以前、新百合ヶ丘01カラトがクリスマスライヴを開催したライヴハウスがドーンと構えていた。


「……ここって、クリスマスライヴの会場じゃなかった?」

「そうにょん。まずはここで記念撮影するにょ〜ん♡」


愛生は首を傾げる。

※過去のライヴ会場に来た理由が1ミリもわからない。


「はいっ、愛生ちゃん、写真お願いにょん!」


反射的にスマホを構えると、

花音は“この日のために練習したであろう可愛いポーズ”を決める。

(え、なんでこの角度の光にこだわるの?

 なんでこんなにポーズが手際いいの?)

パシャリ。

花音は満足そうに写真を確認し、次の目的地へ歩き出した。


◆ライヴハウス近くには多摩川が流れている。


「ここも撮るにょん!」

「えっ、ここは……?」

「トモくんが夕日をバックに写真アップしてた場所にょん。今はお昼前だから夕日ないけど……“同じ構図”が大事なの!」


そう言うやいなや、花音はトモくんと全く同じポーズで立つ。

愛生は半ば呆れながらも写真を撮ってあげる。


「はい、OK! 次いくにょん!」

(まだ……あるの?)


◆駅へ戻ると思いきや、花音は反対方向へズンズン進む。


「花音ちゃん……駅、あっちじゃない?」

「次はここにょん!」


着いたのは、オシャレなカフェ。


「……ここって?」

「トモくんがこないだ寄ったカフェにょん!」


堂々と入店する花音。

席につくと、キラキラの瞳でメニューを見つめる。


「トモくんが飲んでたのと同じ、カフェ・オ・レひとつ♡」


注文してすぐ、愛生の方へぐいっと身を乗り出す。


「ねぇねぇ、愛生ちゃん。かにょんが飲んでるところ撮って〜♡」

「……何の記念?」

「SNSにアップするにょん!“トモくんと同じ場所、同じ飲み物、同じ角度”でアピールするの!」

(そ、そういう……“好き好きアピール巡礼”……!)


理解した瞬間、愛生はずっしり疲れた。

けれど花音は、写真を撮り終えた愛生にふわっと微笑む。


「かにょんね、1人で巡礼するより、愛生ちゃんと一緒の方が楽しいの。ありがとうにょん♡」

「……」


愛生は悟る。

――今日は、“地雷系量産型の天使”花音ちゃんの

トモくん大好きアピールに丸1日つき合わされる運命なのだと。

ため息をひとつつきながら、

愛生はカフェ・オ・レを飲む花音の写真をもう一枚撮ったのだった。


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