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うちの愛生ちゃん  作者: 横溝 啓介
1年2学期
108/119

爆釣そして行きつけの店へ

読んで下さる皆様、心より感謝致します。


ゆっくりと物語を進めますので、気長にお付き合い頂ければ幸いです。

アジが次々と釣れ、船上が一気にお祭りムードになった頃。

圭介はふっと立ち眩んだ。


「……ちょっと、揺れますね……」

「圭介くん、大丈夫?」


沙代里はすぐ気づき、そっと肩に手を回す。

(さ、触れるのは“ソフトタッチに留める”……留める……留めておく!)

自分に言い聞かせながら、あくまで控えめに距離を詰める。

しかし控えめと言っても、巨乳はどうしても控えめにはならない。

肩に触れる柔らかい圧。

圭介の理性はさっきから揺れっぱなしだ。


「立っちゃダメ、座って。はい、お水。ほら、大きく息して。吸って、吐いて〜」


船酔い初心者にありがちな“母性モード看護”が炸裂し、

圭介の心拍数はアジより早く跳ねていた。

源蔵と三郎はというと――


「見ろ三郎!今日のは型が違うぞ!」

「ほぉ〜源蔵、そのアジは惚れ惚れするのぉ!」


テンション最高潮でまったく気づかない。

そんな騒がしさと、沙代里の柔らかい介抱の中で、

圭介はどうにか持ち直し、船は無事に港へ戻った。


◆寄港後:三郎&源蔵の“行きつけ”

船から上がると、三郎がビールを片手に言った。


「さぁ帰るぞ圭介くん! 行きつけの店でアジを料理してもらうんじゃ!」


源蔵もすでに上機嫌。


「ワシの釣った分は刺身じゃな。いや、タタキもええのぉ!」


着いたのは、昭和の香りしかしないスナック兼食事処。

カウンターの奥のマスターは慣れた様子でアジをさばき始めた。


「おぉ、今日もええアジじゃ。任せな!」


すでに三郎も源蔵も焼酎のロックで乾杯。

船より揺れていないのに、店内の二人はゆらゆら揺れている。


◆宴会開始:沙代里の演歌タイム

料理が並ぶ頃、三郎がマイクを握った。


「まずはワシからいくぞい!」


演歌スイッチが入る。

続いて源蔵――

そしてお約束のように二人の指名が来た。


「沙代里ちゃ〜ん、一曲頼むわい!」

「頼むぞ〜! ワシとデュエットじゃ!」


沙代里はニコッと立ち上がる。

(まぁ、圭介くんも見てるし……ここは先輩として華を添えておこう)

マイクを持ち、三郎とデュエット。

その後、源蔵ともデュエット。

どちらも昭和の名曲、演歌の鉄板。

沙代里は意外と声が通り、店内の拍手が沸く。


「沙代里ちゃん、歌上手いなぁ!」

「いや〜聞き惚れたわい!」


沙代里は照れながら席に戻り――


「さ、最後は……もちろん、この流れだよね?」


三郎がマイクを圭介に渡し、にやり。


「圭介くん、沙代里ちゃんとデュエットする番じゃ!」

「え、ぼ、僕は歌は……」

「断るのはなしじゃ!」

「若いもんの番じゃ!」


半ば強制的にステージへ引っ張られる圭介。

沙代里は隣でにっこり微笑む。


「圭介くん。逃げてもムダだよ? ほら、立って」


さらに腕を軽く取られる。

船の上では封印されていた距離感が、ここで完全復活。

沙代里の胸元が近い。

香水の香りがふっと漂う。

(……やばい、またドキってしてる……)

沙代里はマイクを片手に、もう一方の手で軽く圭介の背中を押す。


「大丈夫、私がちゃんとリードしてあげる。

 ね、圭介くん」


にっこり。

その優しい笑顔に、圭介は完全に観念した。


「男と女のラブゲームだラブゲーム!! 男女で歌うならこれしかねぇ!!」


半ば強引に、圭介と沙代里へマイクが押しつけられる。

沙代里は酔ってほんのり頬を赤くしながら、

圭介のほうへ体を向け、

にやりと悪戯っぽい笑み。

そして音楽が流れ――

二人は“まさかの昭和歌謡デュエット”へ突入した。


沙代里:

「飲み過ぎたのは貴方のせいよ〜」

圭介:

「弱い女のいとしさを〜」


見つめ合う二人。

沙代里の視線はやけに近い。

普段は職場のデスクワークで地味めの格好なのに、

今日は化粧も整って、やけに綺麗だ。

そして近い。

歌詞のせいで妙に雰囲気も甘い。

その空気に圭介の胸がドクンと跳ねる。

爺さん二人はさらに大盛りあがり。


「いいぞ若いの!!」

「もっと寄れ!! 寄れ寄れ!!」

「そうだその距離感だ!! 昭和の恋はそういうもんじゃ!!」


圭介(心の声)

いやいやいやいや……やりづらい……!

沙代里(心の声)

あは…圭介くん照れてる…かわいい…

歌い終わると、源蔵と三郎は拍手喝采。

店全体が“昭和の恋愛コント”のような空気に染まっていた。

――そして。

源蔵「よし、最後は沙代里ちゃんで締めじゃ!!」

三郎「若いのが一番ええ!! なんか可愛い曲歌ってくれ!!」

沙代里はにこっと笑い、マイクを握り、

曲名を入れる。

流れは一転。

響いたのは――


早見沙織『可愛くてごめん』

テンポの違いに、源蔵と三郎は一瞬固まり、

口をぽかんと開けて固まる。


沙代里:

「私が私の事を愛して何が悪いの 嫉妬でしょうか〜♪」


源蔵&三郎

「えっ…何だこの曲…?」

「わ、若い…若すぎるわい……」


完全に置いていかれる昭和勢。

沙代里はステージ気分で可愛く振り付けも入れて歌いきる。


「チュッ、可愛くいてごめん

生まれてきちゃってごめん♪」


圭介は、

その“職場では絶対見せない沙代里”に、思わず息を呑む。

沙代里:


「チュッ、可愛くてごめん♪

ムカついちゃうでしょ ざまあ〜♪」


最後のウインク。

酔いと可愛さのミックスで、

圭介は心の中で思わずつぶやく。

――あれ……沙代里さんって…こんな可愛かったっけ?

昭和の爺さん二人は理解不能なまま口を開けて固まり、

ただ一人、圭介だけが少しだけ胸を高鳴らせていた。


◆帰宅した圭介 — 家の空気が妙に重い

アジ仕立船でのドタバタと大盛り上がりのカラオケ大会を終え、

圭介が帰宅すると――玄関でまず愛生の表情はどこかムッと尖っていた。


「……ふーん、お魚いっぱい。……おかえり。」


とだけ言うと、怪訝そうに眉を寄せ、そのままスタスタ自室へ引きこもってしまう。

続いて花音。

買物帰りなのか手にしたバッグを下ろしながらアジを見て、


「……アジ、きらいにょん。にょん……」


と、珍しく語尾も弱め。

それだけ言うと、愛生と同じくそのまま自室へ消えていった。

――家の空気、重ッ。

残されたのは明宏。


「アジフライにしてくれ。オレ腹減った」


だけ言い、ソファにドンと座ってテレビをつける“いつもの明宏”。

先日の釣り具店で沙代里にスプーンを買ってもらい、すっかり餌付けされてご機嫌である。

圭介は苦笑しながら台所へ。


◆母とアジを捌きながら、圭介の思考は迷走する


「ずいぶん釣ってきたねぇ。じゃあ下処理手伝って」


母と並び、まな板にアジを並べ、包丁を入れ始める圭介。

ザクザク……とウロコを落としながら、今日の出来事が頭の中で渦巻く。

(愛生……なんであんなに不機嫌?

釣りに行ったのが面白くなかったのか?

それとも……沙代里さんと一緒だったから?)

そう考えると、愛生が朝から妙に張り付くような視線を向けてきたのを思い出す。

大好きなお兄ちゃんが“大人の女性”と一緒に釣りへ行った。

それだけで高校生の愛生には充分モヤる理由なのかもしれない。

(……花音ちゃんも、なんであんなに静かなんだ?

“アジ嫌い”は多分言い訳だよな……)

花音の圭介への懐き具合は、たしかに「弟妹として」以上のものを感じる時がある。

(花音ちゃんの“圭介大好き”って……

 兄として好きなのか?

 それとも……異性として……?)

考えれば考えるほど混乱する。

三枚おろしになったアジを母が皿に並べる。その横で圭介は手を止めたまま天井を見つめる。

(うわあああ……余計わかんねぇ……)

母がぽつり。


「圭介、女の子ってね……難しいものよ」

「……それな」


今の圭介には、母のその一言が刺さりまくった。

こうして、アジの下処理をしながらも、

圭介の頭の中は愛生と花音の機嫌の理由でいっぱいになるのだった。

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