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うちの愛生ちゃん  作者: 横溝 啓介
1年2学期
101/119

圭介、冬のボーナス編 第2話 里香と圭介のデート 上

読んで下さる皆様、心より感謝致します。


ゆっくりと物語を進めますので、気長にお付き合い頂ければ幸いです。

土曜日。

ついに、圭介と里香の“デート(?)”当日が来た。


「俺、昨日床屋行ったし…服もオシャレしたし…今日はバッチリだもんね!」


──などと本人は言っているが、髪を切ろうが服を整えようが、相変わらず「平均よりちょい下の一般人」のままであった。だが本人だけは輝いている気分である。


デートプランは、映画→ランチ→ショッピング。

健全そのもの、いや純真そのもの。下心は雪より白い。


ショッピングモールのセントラルガーデンに早めに到着した圭介は、胸を高鳴らせながら待つ。


(今日の里香ちゃん…絶対オシャレして来るよね…! かわいいだろうなぁ…!)


期待MAXのまま10分ほど経ったところで、


「おまたせー」


里香が現れた。


……が。


(あれ? あれ? え、普段と…全く同じ服装なんだけど!?)


圭介、心の中で崩れ落ちる。

オシャレという二文字は見当たらない。むしろ「これでデート感出すのは無理じゃ?」まである。


そんな圭介の心境など知らず、里香は首をかしげた。


「ん? 圭介、どしたの?」


「い、いや〜、今日もかわいいなぁ〜って思っちゃって!」


ガッカリしたなんて言えない。

圭介の語彙は“かわいい”に逃げ込む。


「あっそう。で、どうすんの?」


「え? どうするって?」


「はぁ〜……まったく」


やや呆れ気味の里香。

(デートに誘っといてノープランとかじゃないよね?)

と言いたげな目。


「あっ、そうそう! まずは映画行こ!」


圭介が慌てて提案すると、里香は内心で、


(映画…面倒だけど、いきなりショッピングだと物欲丸出しだし…まぁいいか)


と計算したうえで、


「いいよ、映画行こうか」


と微笑んだ。


(よ、よかった……とりあえず映画はOKなんだ……)


圭介は胸をなで下ろし、

“デート”なのか“買い物付き添い”なのか曖昧な2人の一日が、静かにスタートした。


映画館のフロアに足を踏み入れた瞬間、圭介の胸は希望でパンパンに膨らんでいた。


「里香ちゃん、どの映画見ようか?」

わざとらしく自然体を装う圭介。


「う〜ん、どれにしようかなぁ」

ポップコーン片手に、ポスターを眺めながら悩む里香。


しかし──圭介には、密かに温め続けた“作戦”があった。


◆圭介の秘策①:ラブロマンス作戦


(よし…ラブロマンスだ。暗がりでそっと手を繋ぎ、主人公とヒロインが結ばれる頃には、俺と里香ちゃんも…むふふ…。そしてキスシーンで、自然と俺たちも…むふふふふ)


圭介、脳内で勝手に盛り上がりすぎて、顔が若干にやけている。


◆圭介の秘策②:ホラー作戦


(いや、ホラー映画もアリだ。恐怖でドキドキした里香ちゃんが俺に抱きついてきて、「キャー!」なんて言っちゃって…そこで俺が優しく抱き寄せて…むふふふふふふ)


完全に“浅い男の作戦会議”である。


本人だけは「完璧!」と自画自賛しているが、周りから見ればただの雑な妄想だ。


◆しかしその頃、里香の脳内──


(はいはい、映画はなんでもいいの。とにかく“早く上映して”“早く終わるやつ”。

早く終わらせてランチして、落ち着いた状態でショッピングしたいんだよね!)


里香の表情は穏やかだが、完全に“コスパ優先の映画選び”である。


二人の視線は同じポスターを見ているのに、

考えている方向は真逆だった。


上映スケジュールを眺めながら、

圭介は「どの作戦で行こうか…」と夢の世界に浸り、

里香は「どれが一番早く終わるかな…」と現実的に計算していた。


そんな二人を乗せて、映画館の空気は今日も平和に流れていた──。


「里香ちゃん、これ観よ!」

圭介が自信満々に指差したのは、ガッツリ2時間半のラブロマンス。


—長い、重い、眠い、無理—

里香、0.2秒で却下。

「う〜ん、ちょっと違うかな〜」と、愛想だけは120点。


「じゃあ、こっちは?」

圭介が次に示したのはホラー映画。


その瞬間、里香の表情が“真顔ガチ”に変わった。

「ホラーなんか絶対ムリ。私こういうの苦手なの」

言い方が鋭利。拒否力S級。


圭介の2大作戦、秒速で瓦解。


そこで里香が、めんどくさそうに指を伸ばす。

「ねぇ圭介、これでいいんじゃね?」


「えっ……これ……?」

圭介、ポスターを二度見。


そこに描かれていたのは——

『ピノノちゃんといっしょ! ママのいうこと聞けるもん!』

幼児向けほのぼのアニメ。上映時間45分。


(これ、幼稚園の子たちが観るやつ……!)

圭介、脳内で崩れ落ちる。


一方の里香は、

—上映時間短い、終わるの早い、ランチへ直行、ショッピングゆっくり。完璧—

という合理的すぎる判断で、すでに決定ボタンを押す気満々。


「じゃ、これね。チケット買ってきて」

圭介に命令する里香。


圭介の恋愛作戦、開始前に全滅。

だが彼はまだ気づかない。

——このデート、主導権は最初から最後まで里香に握られているという事実に。


映画『ピノノちゃんと一緒、ママのいうこと聞けるもん』──そのタイトルが掲示されたスクリーン1の前に立ち尽くす圭介。


「スクリーン1って……入り口の真横じゃん。幼児向けへの配慮が完璧すぎる……って、いやいや、感心してる場合じゃねぇ!」


ようやく我に返る圭介。


周囲にはポップコーンを抱えた親子連れ、はしゃぐチビっ子、チビっ子、そしてチビっ子。

完全に場違いな圭介と里香、なぜか一番うしろのカップル席にひっそりと座ることに。


上映が始まると、スクリーンではピンクの羊・ピノノちゃんが「ママのいうこと」を聞けるかどうか奮闘中。

ひたすら可愛い。ひたすらほのぼの。

圭介の作戦1も2も、1ミリも入る余地なし。


隣を見ると、里香はポップコーンを頬張り、ふつうに楽しそう。

時折クスクス笑うたび、周囲の幼児と何ら変わらないテンションである。


そして、ふとした瞬間に圭介の方を見て──


「これ、意外と面白くね?」


雑に放たれる一言。

ラブロマンスもホラーの吊り橋効果も存在しない、完全に“ピノノちゃんの世界”が場を支配する。


こうして、圭介のロマン砕け散り事件は、ピンクの羊とともに静かに幕を閉じたのであった。


ピノノちゃん映画が終わり、照明がつく。

周囲のチビっ子たちは「ピノノちゃ〜ん!」と元気よく退場していくが、

その中に混ざる高校生と社会人――場違い感がすごいのは言うまでもない。


圭介(……予定だと今ごろ、ラブロマンス映画で涙ぐむ里香ちゃんの手をそっと握ってるはずだったんだけどなぁ)

45分で終了したピノノちゃんの破壊力は凄まじい。圭介の計画表はもう真っ白だ。


とはいえ、気を取り直してランチで巻き返すしかない。


「よし、ここは少し奮発して美味しいランチをご馳走するぞ」

圭介は胸の中で気合を入れた。


が、その一方で里香は違う計算式を弾いていた。


(お目当てのバッグのためにも…ランチは節約しよ。圭介のお財布、削れちゃ困るし)

※ただし、バッグを買わせる気は100%ある。


ショッピングモール内のレストラン街。

圭介は1番高級な店の前で振り返り、


「里香ちゃん、このレストランはどうかな?」


とキラキラした目で提案する。


が。


「んー、そこでいいよ」


と、里香が指さしたのは――

よりによって、お手頃価格のファミレス。


「えっ、ファミレスでいいの!?」

圭介は本気で驚く。


「うん、ファミレスでいいよ」

にっこり微笑む里香。

※天使の笑顔だが、内心は「バッグ優先」。


こうして2人はファミレスに入店した。


席についた瞬間、圭介は感じ取る。

長年の経験が教えてくる “無言の圧力”。


――水とおしぼり、持ってこい。


にっこり笑う里香。

だがその背後に、確実に“圧”がある。


「すぐ持ってくる!!」

圭介、反射レベルのスピードで立ち上がり、

素早く水とおしぼりを取りに行くのであった。

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