圭介、冬のボーナス編 第1話 明宏・愛生同盟誕生
読んで下さる皆様、心より感謝致します。
ゆっくりと物語を進めますので、気長にお付き合い頂ければ幸いです。
12月中旬の昼下がり。
冬の冷たい空気とは裏腹に、圭介の心はポカポカ春の陽気だった。
「♪ボーナス、ボーナス、12月のボーナス〜♪」
リビングで独創的すぎる歌を披露しながら、ステップまで踏む浮かれ兄。
(まずい…!愛生と明宏に聞かれたら“圭介サンタの資金”がバレる…!)
自分の軽率な鼻歌に、慌てて口を押さえる圭介。
しかし――すでに遅かった。
ソファの後ろ。
忍者のように気配を消し、耳をそばだてる影が二つ。
「今年も圭介サンタ、予算バッチリみたいですぜ…兄者の鼻歌、聞き逃しませんでしたぞ…」
愛生、にやり。
「クックック…圭ちゃんのボーナスは、我ら“明宏・愛生同盟”が有効活用するとするか…?」
明宏、悪代官みたいな笑み。
「明宏どの…そちも悪よのう…」
わざとらしく扇子を広げる愛生。
「お代官様ほどではございませぬ…ぐふふふ…」
悪役ボイスで乗ってくる明宏。
「クックック…」
「ハッハハハハ…!」
二人そろって怪しい笑いがリビングに響く。
そんな小芝居を、きょとんと見つめているのは――
事情がさっぱり分かっていない、いとこの花音。
(にょん? 愛生ちゃんと明宏、何ごとにょん?)
小首をかしげる花音であった。
ピロピロ♪
圭介のスマホが震えた。
「ん?誰だろ……あっ、里香ちゃんだ!」
画面に表示されたメッセージは──
> 先週の山中湖、運転ありがと、
一緒に釣りして嬉しかったよ♡
圭介、固まる。
(……え? え? ええええ!?)
“山中湖から1週間後にくるお礼LINE”という謎タイミングにも気づかず、
圭介の脳内では花火大会が開幕していた。
「うおおおぉぉぉ……!
里香ちゃんが“嬉しかったよ♡”って!!
♡って!? ハートだよ!? ハート!!」
リビングで大きめの独り言を叫ぶ。
愛生と明宏と花音は、隣の部屋の壁越しに聞いていて
「何だコイツ…」と引き気味である。
圭介は急いで返信を打ち込む。
> こちらこそ、ありがとう。
いつでもお手伝いするからね
送信。
送った直後に心臓がギュイーンと跳ね上がる。
(や、やばい……これキモくなかったよね!?
“いつでもお手伝い”って便利屋みたいじゃない!?
いやでも優しさは伝わるよね!?
どう!? 里香ちゃんどうなの!?)
圭介が部屋の中をウロウロ不自然に歩き回っていると──
ピコン♪
里香からスタンプが届いた。
可愛いキャラが
「ありがと♡」 と跳ねているスタンプ。
「うひゃあああぁぁぁ……!!
スタンプ!! 里香ちゃんからスタンプ!!
これは……これは脈ありじゃ……ない? いや、ある? いや、どっち!?」
天にも昇る心地でメロメロの圭介。
その胸に芽生えた恋心を──
愛生と明宏は、部屋の入口の隙間から
無表情で見守っていた。
「兄ちゃん、ちょろすぎる…」
「デレすぎ、フラグ弱すぎ」
「2人とも、ちょっと静かにして、里香ちんのスタンプ見たいにょん」
と花音も参戦。
圭介だけが天国、
他3人は冷静。
そんな温度差が生まれた冬の午後であった。
翌日の昼休み。
いつものメンバー――里香、穂乃花、愛生、花音が机を寄せてランチタイム。
「もう十二月中旬だね〜。今年もあと少しで終わっちゃうね〜」
穂乃花がほわっとした笑顔で言うと、
「お兄ちゃんね、今日ボーナス出るんだって」
と愛生がさらっと爆弾を置く。
「えっ、ボーナス!?」
里香の目がギラッと光った。完全に金額計算の顔だ。
「今年はお兄ちゃんに何買ってもらおうかなぁ〜」
愛生が頬に手を当ててうっとり。
そこで花音が、お嬢様スイッチをカチリ。
「圭介お兄様は、いつも愛生ちゃんや明くんをお世話してらして、さらにプレゼントまで要求されるなんて……お可哀想で不憫ですわ!」
「いいの、いいの。圭介サンタだから」
愛生は悪びれゼロ。
「てかさ、学校なんだからお嬢様喋りやめて。いつもの“にょん語”でいいじゃん」
里香が突っ込むと、
「わたくし、学校では上品なお嬢様キャラで通しますの。にょん語など使用しませんわ」
と花音は真顔で宣言。
愛生が穂乃花に向き直る。
「穂乃花ちゃんは、クリスマスどう過ごすの?」
「私はね、自分でケーキ焼いたりして、弟や妹に食べさせるから忙しいよ〜」
穂乃花は本当に天使の笑顔。
その瞬間、小悪魔ペアの愛生と里香は沈黙。
(家族のためにケーキ焼くって……次元が違う……!)
と内心で土下座していた。
学校の帰り道、路線バスの揺れに合わせて、明宏のテンションも上下していた。
「圭介サンタにBコンタクトミノーとフィッシングウェアー買ってもらうぞ!」
窓に映った自分へガッツポーズ。釣具の単語だけ異常にキラキラしている。
「愛生ちゃんは〜、かわいいグッズをいっぱい買ってもらうんだ〜」
愛生はすでに“もらう物リスト”をスマホにメモ済みで、画面がピンク色で埋まっている。
その隣で、里香がゆっくりと口角を上げた。
ニヤリ。
そしてスマホで圭介にLINEを送る。
(絶対なんか企んでいる顔だ…)
「お兄さん、なんか可哀想……」
穂乃花は、兄の財布をそっと思いやって胸の前で手を組む。
「圭兄ちゃん、また無理して頑張っちゃうんだろうな……」
花音はため息をつきながらも、どこか心配性なお姉さん顔。
それぞれの“プレゼント欲”と“兄の財布への同情”を満載して、
バスはゴトゴトと夕暮れの道を走っていくのだった。
その頃、圭介は里香からのデートのお誘いを受け、嬉しくて鼻歌が止まらなかった。
週末、里香ちゃんと2人きりでショッピングモールデート──この事実だけで、脳内は常春である。
「ルンルン♪ 里香ちゃんとデート〜♪」
”社会人男性とは?” と問いたくなるほどの軽やかさで、玄関で靴を履きながらスキップ気味。
圭介が社会人になってからの毎年恒例イベントといえば、
クリスマス前の買い物3人組 — 圭介・愛生・明宏。
そして圭介はボーナスで妹と弟2人分のプレゼントを購入するのが毎年の約束。
だが今年は構図が違った。
今年は 里香との2人のプランが加わった。
つまり、
「2人きりでラブラブなプレゼント選びが待っている!」
…などという淡い幻想を抱いている圭介である。
だが真実は別方向から牙をむく。
2人きりということは──
里香のプレゼント単価が跳ね上がるフラグである。
しかし圭介はその事に、1ミリも気付いていなかった。
「いや〜、里香ちゃん、どんなの欲しがるかなぁ〜♪」
浮かれた声が廊下に響く。
その姿は、まさにクリスマス前のサンタ…ではなく、狩りに来た令嬢に気付かず笑うカモそのもの。
圭介はただ、幸せそうに浮かれていた。
迫りくる里香の“プレゼントパワー”に震えるべき未来を、何も知らずに。




