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うちの愛生ちゃん  作者: 横溝 啓介
1年2学期
100/119

圭介、冬のボーナス編 第1話 明宏・愛生同盟誕生

読んで下さる皆様、心より感謝致します。


ゆっくりと物語を進めますので、気長にお付き合い頂ければ幸いです。

12月中旬の昼下がり。

冬の冷たい空気とは裏腹に、圭介の心はポカポカ春の陽気だった。


「♪ボーナス、ボーナス、12月のボーナス〜♪」

リビングで独創的すぎる歌を披露しながら、ステップまで踏む浮かれ兄。


(まずい…!愛生と明宏に聞かれたら“圭介サンタの資金”がバレる…!)

自分の軽率な鼻歌に、慌てて口を押さえる圭介。


しかし――すでに遅かった。


ソファの後ろ。

忍者のように気配を消し、耳をそばだてる影が二つ。


「今年も圭介サンタ、予算バッチリみたいですぜ…兄者の鼻歌、聞き逃しませんでしたぞ…」

愛生、にやり。


「クックック…圭ちゃんのボーナスは、我ら“明宏・愛生同盟”が有効活用するとするか…?」

明宏、悪代官みたいな笑み。


「明宏どの…そちも悪よのう…」

わざとらしく扇子を広げる愛生。


「お代官様ほどではございませぬ…ぐふふふ…」

悪役ボイスで乗ってくる明宏。


「クックック…」

「ハッハハハハ…!」

二人そろって怪しい笑いがリビングに響く。


そんな小芝居を、きょとんと見つめているのは――

事情がさっぱり分かっていない、いとこの花音。


(にょん? 愛生ちゃんと明宏、何ごとにょん?)

小首をかしげる花音であった。


ピロピロ♪

圭介のスマホが震えた。


「ん?誰だろ……あっ、里香ちゃんだ!」


画面に表示されたメッセージは──


> 先週の山中湖、運転ありがと、

一緒に釣りして嬉しかったよ♡


圭介、固まる。


(……え? え? ええええ!?)


“山中湖から1週間後にくるお礼LINE”という謎タイミングにも気づかず、

圭介の脳内では花火大会が開幕していた。


「うおおおぉぉぉ……!

里香ちゃんが“嬉しかったよ♡”って!!

♡って!? ハートだよ!? ハート!!」


リビングで大きめの独り言を叫ぶ。


愛生と明宏と花音は、隣の部屋の壁越しに聞いていて

「何だコイツ…」と引き気味である。


圭介は急いで返信を打ち込む。


> こちらこそ、ありがとう。

いつでもお手伝いするからね


送信。

送った直後に心臓がギュイーンと跳ね上がる。


(や、やばい……これキモくなかったよね!?

“いつでもお手伝い”って便利屋みたいじゃない!?

いやでも優しさは伝わるよね!?

どう!? 里香ちゃんどうなの!?)


圭介が部屋の中をウロウロ不自然に歩き回っていると──


ピコン♪


里香からスタンプが届いた。


可愛いキャラが

「ありがと♡」 と跳ねているスタンプ。


「うひゃあああぁぁぁ……!!

スタンプ!! 里香ちゃんからスタンプ!!

これは……これは脈ありじゃ……ない? いや、ある? いや、どっち!?」


天にも昇る心地でメロメロの圭介。

その胸に芽生えた恋心を──


愛生と明宏は、部屋の入口の隙間から

無表情で見守っていた。


「兄ちゃん、ちょろすぎる…」

「デレすぎ、フラグ弱すぎ」

「2人とも、ちょっと静かにして、里香ちんのスタンプ見たいにょん」

と花音も参戦。


圭介だけが天国、

他3人は冷静。


そんな温度差が生まれた冬の午後であった。


翌日の昼休み。

いつものメンバー――里香、穂乃花、愛生、花音が机を寄せてランチタイム。


「もう十二月中旬だね〜。今年もあと少しで終わっちゃうね〜」

穂乃花がほわっとした笑顔で言うと、


「お兄ちゃんね、今日ボーナス出るんだって」

と愛生がさらっと爆弾を置く。


「えっ、ボーナス!?」

里香の目がギラッと光った。完全に金額計算の顔だ。


「今年はお兄ちゃんに何買ってもらおうかなぁ〜」

愛生が頬に手を当ててうっとり。


そこで花音が、お嬢様スイッチをカチリ。

「圭介お兄様は、いつも愛生ちゃんや明くんをお世話してらして、さらにプレゼントまで要求されるなんて……お可哀想で不憫ですわ!」


「いいの、いいの。圭介サンタだから」

愛生は悪びれゼロ。


「てかさ、学校なんだからお嬢様喋りやめて。いつもの“にょん語”でいいじゃん」

里香が突っ込むと、


「わたくし、学校では上品なお嬢様キャラで通しますの。にょん語など使用しませんわ」

と花音は真顔で宣言。


愛生が穂乃花に向き直る。

「穂乃花ちゃんは、クリスマスどう過ごすの?」


「私はね、自分でケーキ焼いたりして、弟や妹に食べさせるから忙しいよ〜」

穂乃花は本当に天使の笑顔。


その瞬間、小悪魔ペアの愛生と里香は沈黙。

(家族のためにケーキ焼くって……次元が違う……!)

と内心で土下座していた。


学校の帰り道、路線バスの揺れに合わせて、明宏のテンションも上下していた。


「圭介サンタにBコンタクトミノーとフィッシングウェアー買ってもらうぞ!」


窓に映った自分へガッツポーズ。釣具の単語だけ異常にキラキラしている。


「愛生ちゃんは〜、かわいいグッズをいっぱい買ってもらうんだ〜」

愛生はすでに“もらう物リスト”をスマホにメモ済みで、画面がピンク色で埋まっている。


その隣で、里香がゆっくりと口角を上げた。

ニヤリ。

そしてスマホで圭介にLINEを送る。

(絶対なんか企んでいる顔だ…)


「お兄さん、なんか可哀想……」

穂乃花は、兄の財布をそっと思いやって胸の前で手を組む。


「圭兄ちゃん、また無理して頑張っちゃうんだろうな……」

花音はため息をつきながらも、どこか心配性なお姉さん顔。


それぞれの“プレゼント欲”と“兄の財布への同情”を満載して、

バスはゴトゴトと夕暮れの道を走っていくのだった。


その頃、圭介は里香からのデートのお誘いを受け、嬉しくて鼻歌が止まらなかった。


週末、里香ちゃんと2人きりでショッピングモールデート──この事実だけで、脳内は常春である。


「ルンルン♪ 里香ちゃんとデート〜♪」

”社会人男性とは?” と問いたくなるほどの軽やかさで、玄関で靴を履きながらスキップ気味。


圭介が社会人になってからの毎年恒例イベントといえば、

クリスマス前の買い物3人組 — 圭介・愛生・明宏。

そして圭介はボーナスで妹と弟2人分のプレゼントを購入するのが毎年の約束。


だが今年は構図が違った。


今年は 里香との2人のプランが加わった。


つまり、

「2人きりでラブラブなプレゼント選びが待っている!」

…などという淡い幻想を抱いている圭介である。


だが真実は別方向から牙をむく。


2人きりということは──

里香のプレゼント単価が跳ね上がるフラグである。


しかし圭介はその事に、1ミリも気付いていなかった。


「いや〜、里香ちゃん、どんなの欲しがるかなぁ〜♪」


浮かれた声が廊下に響く。

その姿は、まさにクリスマス前のサンタ…ではなく、狩りに来た令嬢に気付かず笑うカモそのもの。


圭介はただ、幸せそうに浮かれていた。

迫りくる里香の“プレゼントパワー”に震えるべき未来を、何も知らずに。

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