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うちのあおいちゃん

この物語では家族愛、とりわけ兄妹弟間の愛情をテーマにしました。

ゆっくりと書き進めますので、どうか気長にお付き合い下さい。

 ぽかぽかとした4月の日差しに包まれながら、俺はうたた寝をしていた。

頬に当たる暖かく柔らかな風を感じながら、ゆっくりとまぶたを開ける。


春の柔らかな光を背に受けながら、母の美都子はベランダで洗濯物を取り入れ、

弟の明宏はリビングのソファーに座りプリンを食べながらテレビを見ている。


穏やかで暖かい気候もあり、どうやら俺は昼寝をしていたようである

ふと壁時計を見ると針は午前9時半を指していた。


まずい、大変な寝坊を犯してしまい仕事には大遅刻になってしまう。

俺は急いで身支度を整えようと試みる。

慌てる様子を見かねたのかリビングから声がする


「お兄ちゃん、慌ててるけど、どうしたの?」


女の子の声に誘われてリビングを見ると

そこには妹の愛生と弟の明宏がプリンを食べながら座っている。


「何慌ててるの、今日は日曜日だよ」


愛生から日曜日と教えられ、仕事は休みだったのかとホッとしたのもつかの間に、ふとゴミ箱を見ると

なんと捨てられたプリンのフタには俺の名前「圭介」と赤マジックでデカデカと書いてあるではないか

どうやら二人は俺の大好物であるプリンを何事もないように食べている。


「愛生ちゃんと明くん、お兄ちゃんのプリン食べたでしょ」


「休日の楽しみであるジャンボプリンを勝手に食べないでよね、お兄ちゃん悲しいなぁ」


俺は呆れた口調で妹の愛生と弟の明宏を叱りつけたかったが、

反発が恐いから優しく主張するのが精一杯だった。


「だって俺、中学生の子供でしょ金ないから買えないもん」


明宏はそっぽを向きながら全く悪びれる素振りも見せない


「私の物は私の物だけど、お兄ちゃんの物も私の物だから食べてもいいんだよ」


妹の愛生はニコニコと満面の笑顔で答える始末であり、

俺が優しく主張したせいなのか、2人共に全く悪びれる素振りもない


プルンとした滑らかな食感に爽やかな甘さとカラメルの苦味が格別なプリン

しかも休日のお供には普通サイズはちと物足りない。

従ってジャンボサイズを選び2個も購入というプチ贅沢を楽しもうという

俺の計算し尽くされた庶民の楽しみを妹弟に奪われてしまった。


仕方ない、強く注意を促し反発されるのも嫌だから新たに購入しようと判断

俺はプリンを買いに近くのコンビニへ向かうことにした。


「二人に食べられたから、仕方なくプリン買いにいってくるからね」

妹弟に対して小さな声での嫌味が精一杯の抵抗である、


「コーヒー牛乳買ってきて」

買って来てやるとはひと言も言っていないが、明宏はミルクコーヒーが大好きだから仕方ない


「は~い、愛生ちゃんはお兄ちゃんと一緒にお買い物行く〜」

手を上げて元気に直立する愛生


「いいよ、ついておいで」


「うん」


俺は無意識に右手を差し伸べると愛生は両手で俺の手をギュッと握り返した時、

何故か切なく胸が締めつけられるような気持ちになってしまった。


愛生は玄関を飛び出してしまい

俺は慌てて財布の入ったカバンを手に取り後を追いかける

外に出ると愛生は私を見て、にこりと微笑みかけてくる姿が愛おしくて、

何故か照れくさくて目をそらしてしまった。


コンビニへ向かう道中、愛生は数歩先を歩き、俺は後ろをついて行く

街中至る所に花々が咲き、春の暖かな風は花々の甘い香りを運び、

まるで愛生は花々の精霊に囲まれた天使のように見えて可愛いかった。


程なくコンビニにて目的のプリンとコーヒー牛乳を購入したが、愛生は何も購入しない、

何も買わないなんて彼女はお散歩したいだけなのかと疑問に感じた。


しかし愛生はニコニコとご機嫌で自宅とは真逆の方向に歩き出した。

愛生の背中が、一定の距離を保ったまま前を行く。

俺が少し早足になると、それに合わせるように彼女も歩幅を広げる。

まるで意図的に、追いつかせないようにしているかのようだった。


「愛生ちゃん、お家は逆の方向だよ」


小さく声をかけても、振り返る気配はない。

なのに――次の瞬間、彼女は不意に立ち止まり、ふいっとこちらを振り返った。


その顔に浮かんでいたのは、どこか企みを秘めたような幼い笑顔が可愛くて笑ってしまった。


「着いたよ」と、指を差す


そこは自宅ではなく、ハンバーガーショップだった。


「愛生ちゃん、ハンバーガーじゃなくてお家に帰るんだよ」


と、声がけしたが時すでに遅く、愛生は素早く入店し、俺に相談もなく注文を開始する。


「チビっ子セット4つとチーズバーガーとハンバーガーと」


愛生は目的のチビっ子セットを含めた家族4人分の注文を終えると当然のように

「ほら、支払って」と言わんばかりに右手がこちらへ差し伸べられる。


「愛生ちゃん、お財布は持って来てないの?」


「えっ、私、もちろん持ってないよ」


「もしかして、俺に支払ってくれってことなの?」


「うん、そうだよ、お礼に私のチーズバーガーお兄ちゃんにあげるからね、私優しいでしょ」


「奢ってもらったチーズバーガーを分け与えるのが優しい、それ変でしょ」


と、言い返したがニコニコと笑顔の妹を見ていると、それ以上何も言えなくなってしまった。


愛生はチビっ子セットの袋をぎゅっと抱きしめることはなく、

俺に袋を持たせながら足取りも軽く家路に向かっていた。

袋の中からは、まだ開けてもいないおもちゃのカサカサという音が微かに響く

またしても買わされてしまった自分自身に失望しつつも愛生が喜ぶのなら、それでも良いかと思った。

夕日を背に歩く愛生の影は長く伸び、「おもちゃはなにが入ってるかな?」と小さくつぶやいては、

目をきらきらさせて歩いていく。

街中が真っ赤に染まり、圭介と愛生の顔も真っ赤に染まる


「お兄ちゃん、顔が真っ赤だよ」


「愛生ちゃんも真っ赤だね」


2人共に真っ赤だねと笑いながら家路ついた。


「これがお母さん、こっち明くん、これが愛生ちゃんでしょ、最後にお兄ちゃん」


ハンバーガーとオモチャを運搬したのは兄である俺だが、食卓に並べるのは愛生である

愛生自ら購入したような振る舞いだが、細かい事は気にしないようにしよう


「あら、愛生ちゃんが買ってきてくれたの、お母さんうれしいわ、お昼ご飯作らなくて良くなったわ」


母は昼食作りが免除になり喜んでいる


明宏にはハンバーガーの他にコンビニで購入したコーヒー牛乳を渡す。


食卓に4人分の食事を分けたが、おもちゃ4つはもちろん愛生の元に確保

ハンバーガーを食べながらおもちゃの箱を開封しようと試みると


「愛生ちゃん、おもちゃは食べ終わってから開けなさい。」


と、母に叱られ少し膨れる愛生を見て、俺もついつい笑ってしまい明宏も呆れ顔で微笑む


プリンの他にチビっ子セットを買わされてしまったが、家族が笑顔で過ごせるのなら

まぁいいか、なんて考えていた。


結局、愛生はチーズバーガーを私に渡すことはなかったが、気にしないでおこう。









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