07 女スパイは指令を受ける
ブクマ、ありがとうございます。ご期待に添えるよう頑張ります。
御屋敷の外へ出る用事といえば買い物がある。必ず侍女さんかメイドさんと一緒だ。これじゃあ組織との連絡ができないなあ。
そう思っていた矢先、“父親”が面会に来た。そう、あのグレインだ。実をいうと、この男、大嫌い。最初に会ったときに、
「味見をしたかったのに、本国からは『生娘のままで出せ』という指示なんだなあ」
と、イヤらしい眼で見てきた。だから、二人っきりになるのは避けたかった。けど、連絡方法を聞かなければならない。採用面接の折に使われた部屋が、使用人と家族の面会室だった。
「おい、ここ、厳しいな。身体検査されたぞ」
そうだろう。肯くのみだ。私の恥ずかしい検査の件は黙っておいた。
「調べたら、ここの主人は奥方にベタ惚れだな。だが、一人息子がいる。急がなくてもいいが、よく観察して隙を見つけて落とせ」
それができれば苦労は無い。タライ事件はあったし、未だ口を利いたことが無い。すれ違うときはキッと睨み付けてやる。すると相手は小さくなる。可愛い。こっちから夜這いを掛ける手があるかな。
「それでこれからの連絡方法だが、北西角に生垣があるだろう。あそこにフタ付きの筒を仕込む。そこへ報告を入れろ。指示もそこに入れておく。週末だ。いいな」
「分かりました。敷地内は自由に動けます。時間をもらえれば、なんとか指示通りにできます」
「ただ、くれぐれも疑われないように用心しろ。いま、国同士がキナ臭いんだ。ここのネタが重要になる。大臣と息子の動きに注意しろ。例えば、帰りの遅い日が続くとか、長く留守にするとか、そんな事があったら知らせろ。いいな」
「了解しました。報告はスンフラ語にします」
「おう、そうしろ」
ところで、私が一番、気に掛けていることはお金だ。家族の生活の糧で、私がこんな危ない橋を渡っている根本理由だ。
「私のお給金は受け取っていますか。家族に転送してくれてますよね。スパイのお手当てと併せて……」
「おうっ。任せておけ。ちゃんと送っているぞ」
いやいや、それが怪しい。ピンハネされている可能性が高い。いや、こいつなら絶対にやってるって。計算は苦手なのに、こういうことには聡いんだよなあ。
なんでスンフラ国はこんな奴を手先に使っているのだろう。誰が見たって信用なんかできっこない面なんだけどなあ。単に言葉ができるということだけか。
こうなったら私の手元へ支給される分を節約して、貯めておこう。送るチャンスはきっとある。お屋敷の皆さんの目を盗めるようになるのは先になるだろうが。
「お前がお屋敷勤めとなったことは知らせている。心配するな。便りが来たら連絡用の筒に入れておく。楽しみに待ってろ」
そういうと、私のお尻を撫でて出て行った。
この野郎、いつかヤられるかもしれない。用心しなければ……。そのときは痛い目に会わせてやる。それまでは、か弱い小娘のフリをして爪を隠し通す。こっちには覚悟があるんだ。一気にカタを付ける。家族まで累が及ばないように確実に息の根を止める。ハニトラを仕掛けようというほどの女をなめるな。