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06 女スパイは沼る

ここまででブクマと評価ポイントはゼロです。これはいつものことで理解できるとして、PV値の合計が、たった200ほどなのです。いくら底辺作家でも、こんなに読まれないことは今までに経験がありません。それで、題名とか章立て、あらすじ、キーワードを頻繁にいじっています。ご愛顧いただいている方には申し訳ないのですが、しばらくお見逃しください。

 次の日から、メイドの役割を順繰りに回らされた。

 まず最初は、ハウスメイドで、お屋敷中の掃除だ。屋外は、落ち葉を掃く。室内は主に拭き掃除。廊下やエンタランス、居室の桟、窓枠、家具、ランプシェードや花瓶などだ。常にチーフとなるメイドと共に作業をする。物が壊れたり無くなったりしたときの対策だ。

 指導してくださるメイドさんが言う。


「その花瓶、気を付けてね。骨董品で滅茶苦茶に高いのよ。割ったら一生、タダ働き、お給金は無しよ。

 ビビったあ? ウソよ。よその御屋敷では、そういうこともあるんだって。他にも折檻とかっていうけど、うちは、そんなことは無いから安心して。一生懸命にお仕事しても粗相することはあるわよねえ。

 でもね。盗みとか、お屋敷のことを外で喋るとかだと、お手打ちだよ。ココロしてね。はははっ」


 ギクっときた。


 廊下の途中で、リカルド坊ちゃんと擦れ違う。背は私より少し高い。全体に気品はあるけど顔は渋め。好みは分かれるかな。

 タライの恨みがあるので、キッと睨みつけてやる。すると、目を逸らされた。心の中で、この野郎、と罵倒する。この男にハニトラは無理かなあ。玄関ホールのランプを脚立に乗って磨いているときにも通りかかった。なぜか恥ずかしくなってスカートを引っ張ってしまった。


 二週間後は厨房に配属となった。家庭ならまだしも御屋敷用の調理なんて無理だから下働き。床掃除は重労働だ。モップで隅々まで拭きまわる。このお屋敷のキッチンは広い。芋やニンジンの皮むきは、お手のもの。ナイフの扱いは得意中の得意。腸詰は初めてで、教わりながら慎重に作業する。女スパイとしては、どこか毒を仕込めるところはないかなどと考えてしまう。

 皿洗いは数との(たたか)い。黙々とこなす。スプーンやフォーク、ナイフといったカトラリー磨きは細かい部分に神経を使う。食器収納庫は、とてつもなく広い。パーティーを開くものね。

 調理場の五人は皆さんベテランだ。手際には見とれてしまう。使用人と御家族のメニューはほぼ一緒で、肉の質が良くてデザートが付くくらい。配膳はハウスメイドの担当。坊ちゃんはブロッコリーが苦手で、目を瞑って食べるらしい。あはっ、私と一緒か。

 その坊ちゃんが厨房を覗いた。「なんか無いか」とチーフに強請(ねだ)る。心得たとばかりにソーセージを紙に包んで渡す。あっ、それ、私のつくった出来立て! かぶりつきつつ発した言葉は「なんか不格好だな」だった。チーフはニコニコと私の方に視線を寄越すものだから、真っ赤になる。私の存在に気が付いた途端に坊ちゃんは、くるっと身を翻して出て行ってしまった。


 次に洗濯係へ回った。

 ランドリーメイドという技能職だ。十人もいる。カーテンや椅子カバー、敷物などの調度品は計画的に順繰りに行うという。

 使用人の衣服も洗う。名前が書いてある。ご家族のものは質が良くて別扱いだ。名前ではなくて、それぞれの印が刺繡されている。坊ちゃんは頭文字の「R」だ。

 一番経験豊富なメイドさんがいう。


「この頃、坊ちゃんの下履きが濡れて出されるのよねぇ。ご自身で一度洗っているみたい。何か知ってる?」


と、意味ありげに私の顔を覗いてくる。さも犯人だと言わんばかり。そんなこと知らんわ。えっ? 弟と一緒?


 近頃は洗剤が改良されて汚れが落としやすくなったらしい。水切り用の絞り器が入ったので楽になったといっている。私は初めての経験だった。染み抜きは知識が要る。手取り足取り教わったが、これは数をこなして覚えるしか無い。


 最後は侍女頭のマーサさんのところだった。侍女室と呼ばれ、イレーネさんとジェシーさんも、ここの所属である。ほかに五人いて、お屋敷中を動き回る。今まで回ってきたメイドさんたち全員の司令塔という位置付けのようだ。他家では執事の役割りの大半が侍女室だという。こりゃあ大変だ。

 変わっているのは皆さん、男性のようにズボン、スラックス姿ということ。聞けば、こっちの方が動きやすい。いざとなれば直ちにスカートに履き替える。スカートとどちらでも好きな方でいいとのこと。マーサさんとジェシーさんはスカートだ。私はお仕着せのメイド服スカートで過ごした。


 一方、執事室は執事長を頭として、予算管理とか侯爵領との連携、それに王宮や軍務大臣関係らしい。いうなれば執事室が侯爵邸の表の顔といったところ。それに対して侍女室は、御屋敷中の血管というか神経系統で、裏の顔といえるかな。執事室と侍女室は隣り合っていて、両者の連絡は密だ。なるほど、これがこう、あれがああなっているのか。上手く説明できない。いひひひっ。


 私は各部署間の連絡役を言付(ことづ)かる。厩舎や使用人宿舎棟もつぶさに知った。御屋敷の全体像を掴めたということ。屋敷の敷地内は目を瞑ってでも歩けるようになった。


 こりゃあスパイとして好都合だ。

 えっ?! 逆に、ここまで知っては、抜けられないということかな?

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