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13 御曹司は落ちる

 そんなこんなで一年が経って、運命の出会いがあったんだ。


 そう、ブルーベルだね。

 偶然て恐ろしいね。運命って本当にあるんだね。公爵家と縁が切れていて良かったって、心の底から神様に感謝したよ。

 ブルーベルのね、あの眼を見たとき、ビビーって衝撃が走ったんだ。生まれて初めてだった。これからも無いと思うよ。生涯に一度の瞬間だったんだ。えっ? ロマンチスト過ぎるって? まあ、許してくれよ。男子は夢を見るもんなんだ。妄想癖ともいうね。


 もちろん、タライに跨る両脚も、可愛いペチャパイも、それ以外も全部見たよ。全て憶えている。もちろん、恥ずかしいアソコも……。ハハッ。目蓋に焼き付いている。絵に描けって言われたらできるよ。でも、やんない。ボクだけの宝物だからね。


 イレーネに追い出されたとき、一瞬、振り返ったんだ。二度見(にどみ)だね。それをマーサに見つかった。今まで女の子に興味を示したことがなかったから、もう、即座にバレた。母上にチクられるのは必定ね。ストッコランド出身の平民だっていうけれど、ブルーベルなら、なんだっていいんだ。まあ、貴族の常識では本妻がいて、妾っていう形もあるけれど、ボクの信条は誠実だからね。一夫一婦制だよ。両親の影響かな。


 廊下ですれ違うと、睨みつけてきた。そりゃあ、そうだよね。でも、その(まなこ)がいいんだ。上背があるから歳の割に大人びた感じだけど、瞳の中に勝気と好奇心が同居しているんだ。もう、最高! 抱きしめたい! 脚立の上で作業しているのを目にしたときは、スカートを覗き込みたくてウズウズしちゃったよ。


 ブルーベルが眼で訴えてくるんだ。乙女の純潔を奪ったんだ。責任を取れってね。もう、直ぐにでもそうしたかった。そうしたいって胸が張り裂けそうだだったよ。毎夜、夢に出てくるんだ。夢の中なら、色々と出来るね。あんなこととか、こんなこととか。だから下履きは、いったん洗って出さなければいけないんだ。

 あれっ? これって、ボクの思い込みかなあ。単なる早とちりなのかなあ。


 で、ブルーベルが侍女に正式採用となった。それも母上直属だよ。


 誰が見たって花嫁修行なんだ。うん、ボクの妻になるための特訓ね。両親が認めてくれたんだって、うれしかったなあ。未来のダレーラ侯爵夫人として恥ずかしく無い素養を身に付けるためね。

 でもブルーベルは、なんのために、こんなことになっているか、ちっとも分ってないんだよ。単に、楽しいから取り組むと考えているようだって。これから訪れる未来なんか考えていないんだって。


 会いたい! 無性に会いたい!

 それで口実を思いついたんだ。母上へのお菓子のプレゼントだね。もちろん、持って行ったお菓子はブルーベルも口にしてくれるから、ボクの点数稼ぎにもなる。でも、その席でブルーベルの方を振り向くことが出来ない。もどかしいね。見たいけど見れない。でも、すぐ近くにいるっていう感覚がたまらないんだ。あー、ブルーベルが吐き出した空気を吸っているんだって……。だれだ! 変質者だっていうのは?


 流行作家の新刊もお菓子と一緒だよ。女の子好みの純愛小説だね。うんうん、ボクとブルーベルも、純愛だからね。許されるのはキスまでだよ。キスだけでいいんだ。その先は要らない。ギッタンバッタンなんか論外だよ。だから、(かす)かな触れ合いだけで、別れざるを得ない悲恋物がいいんだ。余韻が残るわけよ。


 それで、あの感想にはビックリしたんだ。

 乙女チックな感想をくれるとばかり期待していたのに……。それが冷静に「初キスのギコチナさが、よく描かれている」って言ったんだよ。もう、ビンタを食らった気分だった。貴方は夢想が過ぎる、現実を見よ、って叱られたと感じた。


 そう、このとき、目が覚めた。

 両親がボクの配偶者に求める条件を思い出したんだ。なるほど、これが両親の眼鏡にかなった点なのか。それからボクは冷静にブルーベルを見るようになった。色恋沙汰ではないんだって、常に確認するようにしたんだ。

 母上の真剣さがよく分かってきた。母上としては自身の後継者だよね。なにせ、社交界を牛耳らなければいけない。母上もお祖母(ばあ)様にシゴかれたっていってたなあ。ウチは厳しいんだよ。母上は王族の娘だったけど容赦なかったって。


 そうしたらブルーベルの真価が見えてきた。これを母上は一瞬で見抜いたんだ。一目惚れで浮かれたボクとは大違いだ。

 修行はイチからで大変だね。王侯貴族でも通用する作法を身につけなければならないからね。母上は厳しいんだ。でも、しばらくしたら基礎が終わった。速攻だよ。なんでも、ここへ来る前から一応のレベルにはなっていたんだって。平民の身なのに不思議だね。


 そして、お茶会だ。段取りからやらせてみたら、嬉々として取り組んだって。ものの見事にやり遂げて、屋敷中の者は口をアングリ。


 ボクは陰から応援することしかできない。これはこれで辛いんだよ。

 何か手伝えることがあるかって母上に尋ねたら、ダンスのレッスンに呼ばれた。相手をしろって。これ、お手伝いではなくて、ボクの役得だよね。ブルーベルの手を握れるんだよ。あの華奢な柳腰に触れらるんだよ。もう、天国! あっ、ダメだダメだ。浮かれてはダメだ。ブルーベルに見離されてしまう。

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