11 女スパイはデシャバリオヨネる
女性側の手配は、今まで培ってきた人脈をフル動員する。とくに侍女は、なかなか出会いに恵まれないものなのだ。親御さんたちの伝手も限られている。二つ返事で参加者が集まった。
一方、軍隊の士官といえば激務で女性と接触する機会なんて皆無。でも、みなさん、エリート中のエリート。貴族の他に平民も多い。これが意外と人気がある。嫡男以外は、婿の需要ということ。将来有望なイケメンが選り取り見取りなのだ。軍服姿は素敵だしね。
侍女の皆さんは主家の要望に絶えず気を配る仕事だ。そして士官の連中は部下を使い、組織を動かすために周囲への気配りもバッチリ。ほら、最適の組み合わせだよね。
演奏は軍楽隊が引き受けてくれることになった。いつもの演目と違うけど、張り切っているという。お仲間の幸せのためだからね。でも楽器構成は大丈夫なんだろうか。ラッパと太鼓ばかりで鼓膜が破れないか、とか、心配のタネは尽きない。出席者がダンスに慣れていないから、皆さんが耳に馴染んでいる曲をユックリ静かに演奏してくれるようにお願いした。同じ曲の繰り返しでいいからね。アーカス公爵邸で聞き出した曲目を参考にお教えしておいた。
会場は御屋敷の玄関ホールを使う。
気の合った二人が語り合う軽食コーナーを設ける。若い男性の食欲が分からないから多めだ。サンドイッチの他、サラミとかウインナーといった味の濃い腸詰を揃える。女性でも摘めるように一つ一つは小さくする。女性用の主力はクラッカーやビスケットなどの焼き菓子系。飲み物はアルコールは無し。何かあるといけないからね。親密に話し込んでほしいから椅子を用意する。
人手は我が邸宅だけでは足りず、奥様の縁で他家へ応援をお願いする。裏方用にも飲食スペースを用意する。
今日、私は大本営の総指揮官だ。会場の隅で動かない。各所のチェックは侍女と執事、侍従さんに任す。お茶会で動き回りすぎた反省だ。お出迎えは奥様と坊ちゃんを使う。へへへっ。
手持ちぶたさにしている士官を見つけると、頭の中の名簿を繰る。壁の花となっている令嬢や侍女と照らし合わせてマッチングする。そして、さりげない風を装って女性へ誘導する。最初だけ、どっちかが食いつきそうな話題を振ってやれば、あとは野となれ山となれだ。元々、両者はくっ付きたくてウズウズしている。ほんの少し背中を押してやれば動き出す。磁石と同じ。一旦、くっついて仕舞えば、引き離すのは至難の業。はははっ。
こっちは小娘だけれど、一六〇センチの背丈が少し役に立つ。ちょっと見、年上と見なされる。ほほほっ。
あれっ、チャールズさん、汗だくだ。走って駆けつけたのか。こりゃあマズい。
侍従さんに洗濯場へ案内してもらう。水で洗い流せば汗が引く。男物の肌着を借りてサッパリとした男前の出来上がり。戻ってきたところにお似合いのナンシーさんを引き合わせる。誠実で将来有望、婿として最適物件だぞ。
「きゃっ」
場にぞぐわない悲鳴が上がった。慌てて近寄ると、ドレスが汚れている。ジュースが掛かったのだ。背の高いデクノボウ然とした男が平謝りのテイだ。ぶつかったのだろう。
「マリーさん! テレジアさんを控室へお連れして。ドレスは直ぐに洗いに出して」
「ジェシーさん、ドレスを貸して! 控室に持ってって」
「そこのデクノボ……、じゃあなかった、デクスターさん、悪いけど、割れたガラスを集めて。その辺りを掃除して」
「テレジアさんの用意できそう? じゃあデクスターさん、迎えに行って。エスコートよ」
あっ! キャサリンさん、どうした? 足を引き摺っている。靴擦れか。慣れないダンスだものね。
直ぐにイスを二脚、持ってきてもらう。ヒョウキンと評判のジェームズさんを横に座らす。お互い、これで退屈しないはず。彼、誤解されやすいけど根は真面目なんだよ。話し込めば信頼に足る人だって分かる。ぜったい、大事にしてくれるよ。頑張ってね。
ハプニングが起こるとテンテコマイだ。でも、楽しい。お察しの通り、これらがステキなキッカケになるのだ。
お客様を送り出し終わると、充実感が込み上げてくる。これで何組のカップルが誕生するのかな。数ではないと思うものの、男女が笑顔で語り合う様子はいいものだ。この国の経済に貢献する。
さて、後片付けと、裏方さんたちの慰労が待っている。もうひと踏ん張りだ。
組織へは、婚活パーティーを開催とだけ報告しておいた。これをいったい、どう解釈するのかな。グインランド軍は浮かれポンチと判断するのだろうか。
「デシャバリオヨネ」は検索してみてください。




