第9話 一線を超えるか……超えないか
【エピソードタイトル、超え→越え】 結論から言いましょう……断られました。野宿確定です。そして毛布なども買えず火を起こせる物も買えず……とてつもなく拙い状況です。
「ど、どうしますか?」
「仕方ないわね……盗むわよ……」
シルビアの発言に私は絶句した。そして間髪入れずに止めます。
「だ、ダメですって!」
「クレア……時には生きるために必要な事もあるのよ……」
「でも、そんな事したら他の人が困ります!だからダメです!」
「甘ったるい事言ってんじゃないわよ!このままじゃあ2人とも凍死よ!死ぬくらいなら犯罪を犯して生き残った方がいいわ!」
「それでも……それでも私は犯罪だけは出来ません!シルビアさんは待ってて下さい!もう一度頼んでみますから!」
(……あなたは間違えなかったわね。)
「はぁ……しょうがない……年下のわがままに付き合いますか。」
私は村に戻って頭を下げて回った。しかし……
「何でよそ者の、しかも見ず知らずの人間にあげないといけないんだ?」
「いえ、お金は払います。ですから……」
「金なんてこの村では価値はねぇーよ。この村にくる商人も皆物々交換だ。」
「でしたらこちらからも食料と衣類を……」
「女物のしかも小娘の衣類なんてこの村で何の需要があるんだ!食料も携帯食ばかりそんなもんも要らん!帰れ!」
ドアをバタンと閉められ交渉決裂だった。5軒中2軒は話し合いをさてくれたが3軒はもう出てくれもしなかった。ここまで閉鎖的な村があるとは思わなかった。日ももう落ちていて辺りは真っ暗だ。いよいよ腹を括らないといけなくなってきた。凍死か犯罪か……を。
「ちょっとアンタ……」
振り返ると中年の女性が立っていた。
「マッチが欲しいんだろう?」
「は、はい!」
「しーっ!他の村人にバレるとうるさいからね。」
私は口を手で閉じた。そして女性は懐からマッチの箱をくれた。
「数本しか入ってないが……持っていきな。」
「良いんですか?」
「あぁ、それでアンタ達が犯罪を犯さないのなら安いもんだからね。」
「……ありがとうございます!」
私は深々と頭を下げてハッと思い出す。
「あ、あの!何と交換しますか⁉︎」
「ふふふ。そう来なくっちゃね。じゃあそのカバンの中の服を2着くれるかい?」
「は、はい!」
女性は私のカバンから2着服を取ると満足そうに帰って行った。その後この女性は私のあげた服2着で大金を得て村を出て行ったらしい。
「これでなんとか犯罪を犯さずに済んだわ。」
「そうね……」
後ろから現れたのはシルビアだった。
「全くその根性に免じて盗みは辞めるわ。」
「盗みはやめて下さい。」
この人は常識を教えてるのではない。恐らく生きていく術を教えてくれている。私も先程一線を越える考えを持ってしまったのだから。村から少し……いやかなり離れた私たちは今日休む場所を探していた。辺りは一面の銀世界だ。
「あの……どうしますか?このままだと2人で仲良く凍死ですよ。」
「クレア……まだ体力ある?」
「え、ええ……まぁ……」
「よし!じゃああれをやるか……」
「えっ?あれとは?」
「雪で寝る場所を作るわよ!」
「えっ?雪でですか?」
「そうよ。何もないけど雪は沢山ある。ならば雪を使わないと勿体無いわよね。」
「わ、分かりますが……暖かいのですか?」
「ええ、意外とね。まず雪を集めて。」
「は、はい。」
私は言われた通り雪をかき集める。集めていると段々熱くなってくる。なかなかの重労働だった。
「あ、集めましたよ……」
息が上がってて上手く話せない。そしてめちゃくちゃ汗かいた。シルビアはというと火を起こして料理をしていた。
「はい、ご苦労様とりあえずスープと干し肉よ。食べて栄養補給しなさい。」
「は、はい……」
(飴と鞭の使い分けが本当に上手い人だ……)
「そう言えばスープになる水は何処から取って来たんですか?」
「何言ってるのよ?こんなに雪があるのよ。上の部分は土が付いてないのだからそれを鍋に入れて溶かせば水になるでしょ?」
「……お腹壊しませんか?」
「死ぬよりマシよ。」
サバイバルだ。間違いなくこれはもうサバイバルだ。もちろん生き残りたい。だから私はこの一線を越えた。生き残る為に多少の不衛生は気にしないという1つの線を……
「戴きます。」
それでも食べれば温まるし、体力も回復する。食べなければ始まらないんだ。何事も……
ここまで読んで頂きありがとうございました。
次回更新もお楽しみに!
面白い、続きが気になるという方はブックマークをしてお待ち頂けると幸いです。