第8話 距離感
5日間の療養の末ようやく完治した私たちは出発していなかった……
「ほら!そっち早く片付けて!」
「はい!」
またしてもアルバイトをしていた。理由は1つ私の治療費がかかり過ぎたのだ。
「シルビアさんはそのままホールお願い!クレアさんは洗い場入って!」
「「はい!」」
2人で同じ職場で働いている。お互い四六時中一緒は嫌だから別の職場が良いと思ってたがシルビアが病み上がりで心配だからと今回は同じ場所だ。
(なんか……優し過ぎる……逆に怖い……)
何か企んでるのではと思えてしまうくらいに優しいのだ。それが私は怖く感じてしまう。
「ほら、クレア!手も足も止まってる!動かないとお金貰えないよ!」
(ちょっと止まっただけでもシルビアからの叱責が飛んでくる……やっぱり普通通りなのかな?)
そう思ったが後々になって思う。これは常に心配してくれていたのだと……
「おつかれー!今日は忙しかったし、2人ともよく働いてくれたから給金も弾んでおいたよ。あと、夜食を用意してあるから食べていってくれ。」
「えっ?いいんですか?」
「店長の俺が言ってるんだから食って行きな。」
私はシルビアと目を見合わせ頷いた。
「「ありがとうございます!」」
2人で頭を下げてお礼を行って夜食を食べさせて貰った。
「そういや2人はこれから北に向かうんだったよな?」
「はい、そうですが?」
「そうか、なら早めに出た方がいいぞ、今年は雪が早く降ってるらしいからな。通れなくなるぞ。」
意外な情報に私たちは焦った。私は隣にいるシルビアの顔を見て聞いた。
「どうします?」
「うーん……とりあえず食べましょう。宿に帰って考える……いいわね。」
「はい……」
でも、答えは分かってた。出発するのだろう。
「明日の朝一に出発するわよ。今のうちに荷物は片しておいて。」
「分かってます。必要な荷物は全てトランクに入れました。早めに寝ましょう。」
「分かってるみたいね。よろしい!じゃあ明日の朝一は日の出前よ。起きなかったら起きるまで殴るから……」
目が怖い……絶対起きないと永眠させられてしまうかもしれない。私は早く眠りにつくのだった。
私が起きるともうシルビアは準備をしていた。
「おはよう、ビンタの前に起きて良かったわね。」
「お、おはようございます……その目は怖いので辞めて下さい……」
昨日の夜から目が怖かったけど目の下にクマが出来ていて更に怖くなってたので流石に抗議した。
「安心なさい、外ではしないから……クレアの前でしかしないわよ。」
本来なら私の前だけでしか見せない顔というのは嬉しい物のはず……だけどこれほど怖い顔を私以外には見せないというのは逆に嫌だった。何故かって……私だけがこんな怖い思いをするなんて理不尽だからだ!
準備を済ませて朝一の馬車に乗り込んだ私たち。明るくなるに連れて草木の色が違う事に気づく。もう大半が枯葉だ。
「シルビアさん。見て下さい。ほとんど枯葉ですよ!」
「すー……すー……」
シルビアは寝ていた。馬車で眠るのは初めてみた。よほど疲れてたのか、昨日は寝ていないのか……私は静かに大人しくしてシルビアが起きるのを待つことにしました。
「そう……それで今に至るわけね。」
「はい……ごめんなさい……」
私たちはどこにいるのかと言うと……山の中であった……ここより先は既に積雪していた為、本来の
目的地の大分前で止まってしまったのだ。
「……まぁ過ぎたことを言ってもしょうがないわね。近くに村はあるんでしょ?」
「は、はい!ただ閉鎖的な村で泊めてくれるかは分からないそうです……」
「……最悪野宿ね。その村に泊めて貰える場所がなかったら少し先へ進んで野宿しましょう。食料はあるから火を起こせるマッチと毛布を買いましょう。」
「あの……もしなかったら?」
「その時は村にある馬小屋か家畜小屋でも借りましょう。藁でも暖は取れるわよ。」
全く未知の体験だ。出来れば泊めて貰える場所がありますように……と願うばかりだ。
ここまで読んで頂きありがとうございました。
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