第6話 看病
それからまた2日……馬車に揺られて着いた2つ目の町……
「寒い……」
「そりゃー、寒いわよ。もうすぐ最北端なんだから。」
私の寒いを軽く一蹴してくる。でも、そういう寒いじゃない……そう言おうとした時だった。私のおでこにシルビアの手が置かれた。そして……
「……ちょっとクレア!アンタ熱があるじゃない!なんで早く言わないのよ!」
「えぇ……」
「ああー!もう体調の変化にも気が付かないなんてほんと子供ね!ほらこっち!今日は少し高めの宿に泊まるわよ!」
言い方はムカつくが今は反抗する体力はない。シルビアが私の手を引いてサクサクと歩いていく。しかし私の足元はフラフラだ。少しずつ遅くなる。
「もぅ!歩けないなら言いなさい!ほら、おんぶしてあげるから乗って!」
「うん……ありがとう……」
私は素直に乗ることにした。たぶんフラフラの足でこれ以上歩いたら倒れる。そうなるともっと迷惑をかけてしまう。それは避けたかった。そして私をおんぶするとシルビアは走ってくれた。
「はぁ、はぁ……」
「そ、そんなに走らなくても……」
「うるさい!黙って寝てなさい!」
何故そんなに切羽詰まってるのが分からなかった。でも必死に走ってたシルビアはかっこよかった……だけどそんな事絶対言わない。今日出来る私の唯一の反抗だから……
目が覚めると私はベッドの上にいた。そしてその横には椅子に腰掛けて寝ていたシルビアがいた。
(ずっと……看病してくれたの?なんで?)
私には分からなかった。お城ではあんな酷い事をした私を何故助けてくれるのかが……
「ありがとう……」
私は素直にお礼を言う。寝てて聞こえてないと思うけどそれでも言いたかった。そしてこれ以上迷惑はかけたくない……だからさよならしようと思う。私はベッドから抜け出て……出て……
「あれ?」
出ようとしているのに出られない……何故か、片手が抜け出ない。それを確認すると戦慄が走った。私の右手首に手錠がしてあったのた。しかもその先にはシルビアの手首と繋がっていたのだ。そしてこれだけ動いていれば当然……
「ねぇ、何してるの?」
シルビアも起きるわけだ。私は恐る恐る顔を上げた……
「お、おはようございます……」
「はい、おはよう。それで何してるの?」
私はポタポタと汗が出ていた。生半可な嘘をつけばビンタが飛んでくる。だけど逃げ出そうとしたなんて言ったら強烈な往復ビンタが……つまりどうやろうとビンタは免れない。私は一か八かにかけた。
「ちょ、ちょっとトイレに……」
「あらそう。じゃあ付いて行ってあげるわ。まだ上手く歩けないだろうし。」
「そ、そんなことはないですよ……ってあれ?」
私は立った途端に尻餅を付いてしまった。
「当たり前でしょ?3日間も高熱でうなされてたんだから。」
「う、嘘ですよね……」
「本当よ、一時は命も危なかったんだからね。」
「……ごめんなさい。迷惑ばかり……」
「ええ、ほんと……心配ばかりかけて……ほら、立てるかしら?」
私はシルビアが差し出した手を握る事が出来なかった。
「……」
「何立てないの?」
「もう……見捨てて行ってください……」
「はぁ?何言ってるの?」
「私はシルビアさんに酷い事をしました。なのにここまでしてもらう理由はありません。今回、いえ、もしあのまま東の国に行っていたら死んでました。もう充分です。置いて行ってくださ……」
私が最後まで言う前に両頬をシルビアの手で包まれてた。
「全く……本当に考え過ぎるのね。セレナ様の言う通りだわ。」
「なんで……セレナが?」
「何故かは知らないけどあなたが何かの為に悪い事してたのをセレナ様は知っていたのよ。」
「えっ……?」
「全く、1人で抱え込まない!今回だって体が不調なら早く言って欲しかったわ。たぶんあの寒いってのでようやく分かったのでしょうけど……その前の日から何かしら不調はあったはずよ。」
私は少し思い返す。確かに少し食欲が無くなって味を感じられなかった。後少し体が重かった。
「思い当たる点があるみたいね。」
「はい……」
「旅ではそんな些細な変化が命取りになるの。分かったかしら?」
「はい……」
「さぁ、立てるかしら?」
私は足に力を入れるも立てなかった。まだ熱はある様だ。私は無理と判断して首を横に振った。
「しょうがないわね。よいしょ!」
「わわ!私重いですから!」
「……クレアはここ3日殆ど何も食べてなかったから3日前より軽いわよ。トイレ行って戻ったらベッドで大人しくしてなさい。くれぐれも脱走なんてしない様に……したら許さないから。」
「は、はい……」
目が本気だった。つまりは先程脱走しようとしていた事はバレていた様で……私は用を済まして再びベッドに連れ戻されるとそのまま横になって待つことにした。
待っていると入ってきたのはシルビアともう1人女の人だった。
「お、目を覚ましたのならもう大丈夫ね。あなたは流行病に罹ったのよ。」
そう笑顔でいう彼女はどうやらお医者様らしい。
「この町のお医者さんよ。なんとか助かる様に尽力してくれたのよ。」
「ありがとうございます。」
私は深々と頭を下げてお礼を言う。
「ふふふ。いいお姉さんを持って良かったわね。」
「はい?」
「お姉さんね、顔を真っ青にしてウチに来たのよ。この子を助けてくださいって。」
「そ、そうなんですね。」
私は横目でシルビアを見ると顔を背けていた。どうやら照れてるらしい。
「そうね。後2、3日ゆっくり休んだら治ると思うから無理はしないで休みなさい。お薬は食後に飲んでね。それじゃあ。」
「「ありがとうございました!」」
先生が部屋から出ると私はシルビアを見る。すると直後にビンタが飛んできた。
パシーン!
久しぶりの痛みに懐かしさを覚えた。
「い、いきなり……しかも病人に何をするんですか⁉︎」
「う、うるさい!黙って寝ろ!」
顔を真っ赤にしてそのまま部屋から出て行ってしまった。
「な、何を怒ってるのよ……」
モヤモヤしながら布団に潜り込んで私は眠るのでした。
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