第4話 躾
宿屋で部屋を取った私たちだったが部屋に入るなり私は今シルビアの目の前で正座させられていた。
「いいクレア、これからは私があなたのご主人様という事を肝に命じなさい。」
「はい……シルビア様。」
「まだ目つきが反抗的ね……」
「そ、そんなことありません……」
するとシルビアは右手を大きく振りかぶった。私は瞬時に目をつぶった。しかし、なかなかその手は振ってこない。私は恐る恐る目を開けるとシルビアは手を下ろしていた。
「ビビりすぎ、そんな簡単に手を出さないわよ。誰かさんと違ってね。」
「うぅ……」
耳が痛い私の事を言っているのだから……
「とりあえず、これからはあなたを再教育するわ。姫としてではなく、平民としての常識と金銭感覚、その他いろいろね!」
「はい、よろしくお願いします。」
(悔しい……けど知らないと生きていけない……)
私は嫌々ながらも頭を下げて教えてもらう事を選んだ。じゃないと恐らく生きていけないのだから。
「まぁお願いの仕方は合格ね。じゃあまず、今の所持金はいくらあるの?」
「えっ?まさか……」
パシーン!
「盗むわけないでしょ!そんなことしないわよ!これから北に向かうんだからその為よ、ここから北上するとしたら途中の町で稼ぐのは難しいわよ。」
「わ、わかりました。」
私は頬をさすりながらお財布を渡した。
「ひーふーみー……うーん少し足りないわね。あと2日は働いてきなさい。」
「えっ?出してくれないんですか?」
パシーン!
「ここの宿代と食事代出してるのにさらに奢って貰おうなんて図々しいにもほどがないかしら?」
「えっ?ここは半々じゃないんですか?」
次の瞬間にはシルビアは私の頬をつまみあげていた。手を出さないと言ってたのに嘘つきだ。
「そんなことしてたらお金が貯まる前に冬になって北上出来なくなるわよ!馬車もそんなに本数ないの。限られた時間で限られた事をするの!いいわね!」
「は、はい……でもじゃあ何故南に下らないのですか?」
「……本当に何も知らないのね。」
また凄い呆れた顔で言われたのは流石にショックでした。私が無知すぎるのが悪いのだけど……
「ここから南の方には馬車は出てないのよ。正確には2ヶ月前の大雨で橋が流されたり崖崩れが原因で今はというのが正しいのだけど……」
「そ、そんなはずありません!あの大雨での災害には私が予算を貰って渡したはずです!何故まだ馬車も通らないほど直ってないのですか?」
「私に言われても知るはずないでしょ?ただね、お金があるからすぐ直るわけじゃないわよ。事故がもう起きない様に対策を練ったり、二次災害にならない様に慎重に作業したりと現場には現場の苦労があるの。まぁ上から指示を出すだけの人間には分からないでしょうけどね。」
「……」
今の言葉には流石にムカついた。だけど事実だ。私が現場に向かった事はない。予算と指示を出してあとは現場任せ……これで下を責めるのは間違っている。
「ついでに言っておくけど、この国のインフラ整備は結構いいわよ。安全かつ丁寧にやってくれてるわ。おかげで馬車に乗ってても揺れないし酔わない。」
「他の国は違うのですか?」
「違うわよ。クレアが思ってる以上にね。じゃあ足を崩しなさい。痺れてきてるでしょ。」
「あ、はい。」
(ずっとこのままかと思った。)
私への復讐かと思ってたけどそんな事はないという事はわかった。
「じゃあこれからの約束事ね。」
「はい。」
「まずこの宿はキッチンを借りて食事を作れます。そうする事で宿代を安くできるからです。」
「はい。」
「なので交代制でやります。後2日だから明日の朝は私が、夕方はクレアが、その翌日は私がって感じね。お昼は朝の人がお弁当を作って持って行く。だから私が作るわ。」
「えっ?いいんですか?」
「いいわよ。料理は好きだし。クレアは好き嫌いはないのでしょう?」
「はい。大丈夫です。」
「ちなみに私はピーマンとニンジン嫌いだから」
「はい……」
つまり出したらどうなるか分かってるよな?って事なのだろう。とりあえず報復する時の為に覚えておこう。
「よろしい。あとは門限ね。この国に限らずどの国のどの町も夜は治安が良くないわ。日が沈むまでには帰ってきなさい。帰って来なければ鞭打ちします。」
「は、はい……」
罰は嫌だけど、それだけ私の事を大切にしてくれてるのだろうから了承した。
「他にもあるけど今は門限と食事ね。お金は無駄遣いしない様にね。あ、そうそう。所持金以外のお金は絶対使わない様に!なるべく稼いだお金だけで生活する事、いいわね?」
「は、はい。」
「あと、外では私の事を呼び捨てで構わないわ。下手に勘繰られるのは嫌だから。」
「はい……」
私に拒否権はない。拒否すれば叩かれると学習したから黙って従うことにします。
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