第1話 毒姫
「ねぇ、喉が渇いたの。何か持って来てくれない?」
「はい、かしこまりました。」
私の名前はクレア・フィード18歳。一応これでもこの国の姫だ。だけど人は私の事をこう言う……『毒姫』と……その理由は分かってる性格だ。
「お待たせしました。紅茶です。」
「ふざけてるの?」
「はい?」
「なんで紅茶だけなの?何かお菓子も持って来なさいよ!気が利かないわね!」
「……申し訳ありません……」
メイドは下がって行った。何か言いたそうなのは分かる。当たり前だこの前クッキーと一緒に持ってきて喉が渇いたと言ったのに何でお菓子まで持ってくるの?と問い詰めたのだから。
(ごめんね……)
我ながら性格が最悪である。だから心の中では謝る。でも、こうしないと婚約者に選ばれてしまう。誰かを犠牲にするのなんて良くない。だけど選ばれなければ私は自動的に追い出されてあの子達からはざまぁと思われる。そして私は自由になれる。だがそこへ面倒なのがくる。
「クレア様……あまり他のメイドをいじめないで下さい……」
「うるさいわね。私の勝手でしょ?」
「いいえ、いけません……他のメイドをいじめるくらいなら……くらいなら……私をいじめて下さい!」
私はツンとした態度で無視をした。彼女はメルシー。私の専属メイドだが、この性格だ。罵倒され引っ叩かれても毎日私のところへ……計画に支障はないが本当はこんな事をしたくない私にとっては1番な厄介者なのだ。
「今度は無視ですか?放置ですか?いいですよ!私は耐えてみせます!愛しのクレア様の為ならばー!」
もはやこの変態にはどう接するのが正解なのかわからないのだった。
そして夜には両親からのお説教だ、毎度のこと姫としてのなんちゃらとか毒姫と呼ばれてるという不甲斐なさとかをじっくりと言われる。話半分で私は聞いて自室に戻る。
「はぁ……疲れた。」
やりたくてやってるわけではない。けれど私はあの方と結婚は出来ない……
「失礼します。」
そんな事を考えていると部屋の扉をノックする音がした。そして許可を出して入って来たのは昼間私に文句を言われたメイドだった。
「何か?」
私は不機嫌そうに聞いた。あくまでもメイド達には高圧的に接する。それが今の私のスタイルだ。
「クレア様……私はこのお仕事向いてないのかもしれません……なので辞めようと考えております。」
「そう。じゃあ辞めちゃえば?」
「止めないのですか?」
「私にはあなたを止める理由がないもの。それにあなたの辞める辞めないを私は決めてはなられないわ。あなたが決める事だもの。てか、なんで私に言ってくるの?」
「やはりクレア様は毒姫ではなかったのですね。」
「はぁ⁉︎な、何言ってるのよ!」
「気にしないでください。私だけが知ってれば良いんです。失礼しました。」
「こら、勝手に納得しないで説明しなさい!あと、貴女名前は?」
メイドは一礼して顔をあげると部屋の扉を開ける……そしてこちらを見た。
「今は言いません……その時が来たら言いますね。」
それだけ言うとパタンと扉を閉めて出て行った。追いかけようと思えば追いかけれた。だけど追う気にならなかった。
その翌日からあのメイドをお城で見ることはなかった。というより今までもそこまで気にして見てた訳ではないからほとんど覚えていない。
「あ〜ん……クレア様!私にも叱責とムチを下さい!」
「ええい、寄るなこの変態が!」
「あぁん!罵倒されましたー!」
「あーもう!気持ち悪い!」
私の世話をするのはメルシーだけとなった。まぁ他の子を傷つけなくて済むのは有難い。しかし、四六時中この変態の相手をしないといけないのも苦行だった。
そしてその日が来た……
「クレア……お前の婚約はなくなった。」
「そうですか。」
私は淡々と答えた。
「何か言う事はあるか?」
「次の婚約相手は妹のセレナですか?」
「そうだが?」
「なら良いです。」
それ聞いてホッとした。そうならなければ私が毒姫になった意味がない。
「で、クレアよ。お前には明日にもこの城から出て行ってもらう。」
「かしこまりました。」
「なんだ。やけに素直だな。」
「ええ、未練などありません。これまでお世話になりました。」
「なんだ急にしおらしくなりおって……初めからその様な態度ならば婚約者はクレアお前で良かったのだぞ。」
「いえ、お断りします。では、さようなら……お父様、お母様。」
そうして私が向かったのは自室ではなく、妹のセレナの部屋だった。
「入るわよ。」
「あ、お姉様……」
セレナはベッドに横になっていた。身体が昔から弱く病弱な為に基本部屋から出て来ない。今日も少し熱が出ていた。
「いいわよ。起き上がらなくっても……身体は大丈夫?」
「はい。問題ないです。」
「そう……セレナ、あの方との正式に婚約される相手が決まったわ。」
「そう……ですか。おめでとうございます。」
「ええ、おめでとうセレナ。あなたよ。」
「えっ?」
「何驚いてるのよ。当然でしょ?」
「いえ、おかしいですよ……私よりお姉様の方が王妃に相応しいのですから。」
「あー……セレナはあまり外に出ないから知らないけど……私は巷では毒姫と言われるくらい性格悪いらしいのよね。」
「そんな事はありません!お姉様は聡明でどこまでも先を読まれる方、端的な行動をする事などあり得ません!」
私は少し昔を思い出す。ある日の夜お父様達が話していた事を……私はたまたま通りかかりその話を聞いてしまったのだ。そしてそっと扉の隙間から部屋の中を覗きこむ。
「では、婚約者はクレアで決まりだな。」
「そうですね。それでセレナはどうするのですか?」
「あの子は病弱だ。かと言って外に出せば他国の人質になりかねない。ならばやる事は1つ……幽閉する。」
父のその言葉を私は信じられなかった。いつもセレナには激甘な父が裏でこんな事を考えているなんて思いもしなかったのだ。
「あなた!何を考えているのですか!?他にも選択肢はあるでしょう!」
「他に選択肢などない。セレナは病弱で他の貴族連中の嫁にあてがったとしても病弱な娘を嫁がせたとしてこちらに牙を向くやもしれんのだ。そうはならなくても必ず不満は溜まるのだ。」
「だからって……」
「それに若い娘が2人もいてもし間違いがあったらどうする?国民からは王室への疑心が芽生えるやもしれんのだ。そうなるくらいならばいっそセレナを死罪にしてしまおうとも考えた。だが……出来ない……実の娘にその様な事は……出来ない……本当の国王ならば出来たのだろう。だが私には出来ない……人の心を捨て切られない半端ものだからだ!」
吐き捨てる様に言う父の顔は正しく苦渋の決断をした顔だった。私はあの顔を未だに覚えてる。そしてあの言葉を思い出す。
「せめて……元気で丈夫な身体だったのなら追放と言う形で自由にさせられたのにな……」
そして私は思ったのです。皆に嫌われればセレナは助かり、私は自由に生きられると……色んなところに行ってみたかった私にとってそれは夢の様な話だったのだ。
「あはは……セレナ、人には裏表があるの。あなたが見てる一面は私の一部でしかないの。」
「そんな事ありません!私はお姉様が裏表がある方なんて信じません!」
そうして少し大声を出したセレナは咳き込んだ。それを見て私はセレナの背中をさすった。
「ほら。興奮するとすぐに咳き込んでしまうわ。これからも安静にしてなさい。」
「……お姉様……もしかして私をここに居られる様にわざと毒姫と呼ばれる様に振る舞ったのでは?」
流石我が妹……察しが良いが答えない。
「そんな事ないわよ。さぁこれでお別れよ。元気でね。」
「お姉様……!何処にも行かないで下さい!私の側に……」
また咳き込むセレナを私は見て見ぬふりをして部屋の外へ出た。そして部屋の外で待っているメイド達に叱責する。
「あなたたち、セレナが咳き込んでるわよ!速く行きなさい!」
「「は、はい!」」
私は最後まで演じた毒姫として……そして部屋に戻るとメルシーがいた。
「クレア様……」
「メルシー。あなたには世話をかけたわね。性格はアレだけどあなたは優秀なメイドよ。だからセレナの事頼んだわよ。」
「そんな……勿体無いお言葉……いつもみたい叱責して下さい……」
メルシーも私がお城から追い出されるのを知っている。だから彼女は泣きながらもへらず口を叩いている。
「ふふふ。それもそうね!じゃあメルシー、セレナの事あなたに頼むわね!もし何かあったらただじゃ置かないからね!」
「はい!その時はムチでも拷問でも気の済むまで!」
私たちのお別れはこれでいいのだ。私は最低限の荷物と貯蓄していたお金を持ってお城を出て行くのだった。
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