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ヴァンルード家の日々(ヘイリーハイト視点)

「ねえ?この家の馬車は乗り心地が悪いと思わない?」

「そ、そうかな?」

「そうよ。だってカールライヒ家の馬車はもっとふかふかしていたもの。あと、装飾も思い切りダサいからもっと素敵になるように直してもらいましょうよ」

「それなら買い換えた方が良いのじゃないかな…」

「まあ!なんでも創意工夫ですわ」


それでフォレスティーヌの気が済むならと三台の馬車の内装を張り替えて、座席もうんと綿を多く入れたクッションを用意してみた。どうしたって家のソファの様にはいかないからだ。


これには実に一ヶ月を要したので、その間の移動の苦労といったらなかった。

三台いっぺんにやってしまった方がスッキリするとかで、一台ずつの修理は嫌だと言われてしまった。


「ねえ、旦那様。私の部屋のドレッサーなんですけれど、引き出しがガタつきますの。新しいのを買ってくださる?」

「もちろんさ、すぐに素敵なものを…」

「私クラリス製の金細工が付いた猫足の三面鏡でなくては嫌よ」


貴族に人気のクラリス社のものを扱っている家具屋に赴いたところ、店員より

「猫足のものもございます。もちろん金細工がついたものもありますが、それらの条件を満たした三面鏡は扱っておりません」

と言われてしまった。

フォレスティーヌの落胆といったら!

「じゃあ作って!?」

「はあ…あの、もともとオーダーメイドは扱っておりませんので…」

「なぜ!?じゃあカールライヒ伯爵の家にあったものは何!!?」

「お、恐らくですが、式典かなにかでお世話になった際にお作りした一点もののドレッサーかと…」


なんとかこれ以上フォレスティーヌを刺激しない様に連れ帰ったが

「信じられない!!あれがヴァンルード家に対する態度かしら!?潰れるんじゃないの、あの店!」

と随分腹を立てていた。

結局、猫足がついた三面鏡と金細工がついた三面鏡と、他社製のそれらの条件を満たすドレッサーを二台、合計四台購入した。


(四台も買ってどうするんだろう…?)


と思ったが、寝室に四台並べられただけだった。

結局いつも使っているのは、寝台から一番近くに置いてあるクラリス社製の猫足の三面鏡だけだ。


「フォレスティーヌ、ドレッサーを四台も同じ部屋に置いてどうするんだい?」

「だって欲しいのがなかったんだもの」

「どれか一つにできないのかな…?」

「はあ?じゃあ貴方が作る!?それともカールライヒ伯爵に頭下げて持って来させたら!?」


(近頃君の言葉が槍の様に心に刺さるんだ…)

そう思ったけれど言わなかった。



フォレスティーヌは毎日事あるごとに、修繕を頼みに来た。

「ねえ、階段の立て付けが悪いみたい。せっかくだから欄干をもっと凝ったものにしましょうよ」

「欄干を!?それなら傷んでいる箇所を修繕すれば良いじゃないか。なんだって欄干まで」

「どうせならいっぺんにやってしまった方がいいじゃない。だいぶ古いみたいだし」

「そんなにしょっちゅう工事ばかりしていられないよ。領民の目だってあるんだぞ。君はなんだってそんな贅沢ばかり言うんだ?カールライヒ伯爵の贅沢に飽き飽きしたんじゃないのか!?」

すると小首を傾げて問われた。

「贅沢?倹約のために修繕できるところを修繕し、妥協できるところは妥協しているのよ?今後欄干が傷んで誰か怪我をしたらどうするの?馬車の乗り心地のせいでパーティで醜態を晒したら?」


毎日毎日家の隅々を見て歩く。

少しでも立ち止まったら、ノックしてみたり眺めまわしたりしたら、こちらを振り向いたら…

(もう、何も言わないでくれ。細かくて気がおかしくなりそうだ)


「ねえ、旦那様。壁紙が汚れている気がしない?全体的に張り替えましょう」

「ねえ、旦那様!浴室のタイルを北国の可愛らしいタイルにしたいわ。あちらの国のタイルは濡れても滑りにくいそうよ」

「ねえ。キッチンの内装を変えたら、きっと彼らもお仕事がしやすくなると思うわ」

「ねえ、開け閉めする時に軋む音がするの。ドアを付け替えましょう」

「ねえ、旦那様」「ねえ、」「ねえ、旦那様」「ねえ」「ねえ、」「ねえ、」






「フォレスティーヌ、そういえばご実家に手紙は書いたのかい?」

「まだですけれど、なぜ」

「なぜって、お許しをいただいているとはいえ、再婚の挨拶に伺わなければならないし」

「じゃあ貴方が書いて?」

「え?僕が書いたんじゃおかしいだろう」

「大丈夫大丈夫。それより今度ソファの布張りを替えましょうよ、だいぶ擦れて模様が曖昧になってきているし」

「うちにはもうそんなお金はないよ」

「あら!そんなはずはないわ?」

「そんなはずって…言われても」

「あれがあるじゃない、旦那様が別銀行に預けていらっしゃる…」

「あれは!あれはダメだ!あれは何かあった時のためにと父と母が従業員たちのために残した…」


フォレスティーヌはにっこりと笑った。

僕はまずいと思って二歩三歩後退りした。

(カマをかけたのか)



「ほら、あるんじゃない」

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