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外伝(ケイ視点)

僕はケイ・カールライヒ伯爵子息。

五歳。

名前はお父様とお母様が付けてくれた。


友達はみんな長い格好良い名前なのに、何で僕と弟は短いの?って聞いたら、ケイは東洋で「ten quadrillion」つまり「10,000,000,000,000,000」なのだと教えてくれた。


双子の弟のガイは「one hundred quintillion」で「100,000,000,000,000,000,000」なんだって。

だからお父様は「お前達が一番長くて一番多いじゃないか」と言われてしまった。


(そういうことじゃないんだけど)


僕ん家がめちゃくちゃお金持ちだからって、お金を数える単位を子供につけるなんて悪趣味だと思う。




「ケイ!…様、おはよう!…ございます」

「あ、うん、おはよう、リリー…あ、あのさ…」

「あっ!ガイ!おはよーー」


弟のガイは寝起きで少しぽやぽやしながら、こくりと頭を縦に振った。

「全く!ガイ、しっかりしてよ!おーはーよー!!」

「…はよ」

とろんとした目のまま欠伸をかいて、お母様に抱きつくと、そのドレスで顔をごしごしと拭いている。

ガイはまだまだ幼さが抜けないのだ。


「こら!リリー!!またガイ様を呼び捨てに…きちんとケイ様とガイ様と呼びなさいとあれほど…!!奥様、躾がなっておらず大変申し訳ございません」

「あら、良いのよマイロ、仲がいい証拠よ」

「ですが…」

「小さい子に主従関係なんてないわよ、ね?リリー」

「ね、リリア!」

リリーが偉そうにそう返事したので、彼女の母親であるマイロが抱き抱えて連れ去ってしまった。


(あいつ、怒られるんだろうな…)


リリーは僕より二つ上の七歳だ。

最近、ガイにだけ随分馴れ馴れしいのが気に入らない。

なぜって、それは…

不肖ケイ・カールライヒ伯爵子息、五歳、リリーに恋をしております。



(恋愛ってどうやるんだろう?)

とそう思って、お母様に聞いてみたことがある。

一歳になったばかりの妹を抱っこしながらすごく難しそうな顔をしている。

「まあ!恋愛ですって?…うーん、そうねえ…改めてそう聞かれると難しいわ」

大人も簡単に答えられないほど難しいのだろうか。

「お父様とは恋愛しなかったの?」

「うふふ、したわよ」

「どうやって恋愛したの?」

「そうねえ、お父様とは結婚してから恋愛が始まったみたいな、そんな感じだったわね」

「変なの」

「でしょう?でも、今でもお父様と恋愛中だわ」


結局よく分からなかった。

ため息を何回もついていたら、お父様に声をかけられた。

「どうした?悩み事かな?」

「お父様。僕、恋愛のやり方がわからないのです」

というと、なぜか顔を赤くして肩を震わせていた。

「恋愛…の、やり方…お前可愛いことを聞くじゃないか」

ちょっとムッとする。

「馬鹿にしないでください。真剣に聞いているのですから」

「まあ、そうだなあ。殿方からのアプローチとなると大体が花を送ったり、ダンスのお誘いをしたり、手始めはそんなことじゃないか?」

「花、ですか」

「ほら、庭師のダイフォート爺に言って何本か貰えばいいだろ?」

「それは…ちょっと…」

「なぜ…」と言いかけた父は「ははーん」となぜか独りごちて耳元でこそりと内緒話をしてくれた。






どきどきする。

街には何度も来ているけれど、一人で街を歩くのは初めてだ。


ぎゅうとポシェットの紐を握り込む。


(いざ!)


カランカラン

気持ちのいい高い鐘の音が僕の来店を告げる。

すごく大人になった気分だ。


「いらっしゃいませ!まあ、可愛いお客さん。今日はどんな花をお求めですか?」

「…えっと」

いざ注文を聞かれるとすごく焦る。

もじもじしていると

「お母さんにあげるなら、カーネーションはどうですか?一輪からお包みして…」

「百合だ」

「え?」

「百合の花束を百本くれ」

「え、ええ!?ひゃくって…結構しますよ?…坊やのお小遣いじゃとても…」


バン!!

握りしめた手をカウンターに置いた。

「き、金貨…いち、に、五枚?い、いえ、こんなにはしませんけども…」

「いい。面倒だ。それで作れ」

「あっ…えっと…はい…す、すぐにお包みしますわね」

店員の手は震えているが、百合をきっちり百本、リボンで括って渡してくれた。

青い顔をしてペコペコと何度もお辞儀しながら店外まで見送ってくれた。


店を出てすぐに、ご婦人方から温かい眼差しを向けられる。

(何でみんなそんな目で僕を見るんだ。ニコニコして見るんじゃない!)


確かに花束が馬鹿でかい。少し歩いては休憩しなければ腕が痛くなりそうだ。

けれど、ここから屋敷まで、まだまだ結構かかる。

花束を道脇に置いて袖で汗を拭った。


(喉が渇いた)


花束の横に腰掛けると、向かいにレモネードスタンドが見えたので

(丁度いい)と思い、冷えたレモネードを注文した。


レモンの酸味が気分もスッキリさせてくれる。

(もう少し甘くても良いな)


レモネードを飲みながらチラッと見ると、野犬が花束に顔を突っ込んでいた。

「あっ!」

買ったばかりのレモネードが落下して地面を濡らす。

「やめろぉおおお!!」

叫びながら走ると、野犬は驚いて花束を咥えて走って行った。


「返せ!返せぇ!!」

被っていた帽子が飛んだ。

うまく走れなくて、何度も転んだ。

犬はぐんぐん駆けて行く。

僕の足じゃ到底追いつけない。

でも、走って走って走った。

とうとう知らない街まで来た。それでも構わず走った。

犬は何度も振り向いて、その度に僕を見てはうんざりした顔をしている。


「返せ!!」


遂に犬を袋小路に追い込んだ。

「ヴゥーー!!」

牙を剥いてジリジリ近寄ってくる。

無我夢中でここまで走ってきたけれど、段々と恐怖が上回ってくる。

ふと、犬の足下に落ちた花束に目が入った。


(もう百合の花がほとんど残っていないじゃないか!!)


「くそーーー!!返せ!!返せよ!!ばかー!!うわあああ!!!!」

僕は腕をぐるぐる回して襲いかかった。

犬は、ビクン!!と背中を丸めて後退する。

「クゥーーン…」

何とも情けない声を出した。

首を垂れて耳を思い切り後ろに向けて、壁にピッタリ張り付いている。

僕が花束を持ち上げた隙をついて、犬は袋小路から逃げ出しどこかへ行ってしまった。


ボロボロの包みに、五本だけ残った百合は、その殆どが草臥れて人に渡せるような代物ではなくなっていた。

僕はすごくがっかりして、泥だらけの服で肩を落としながら歩いた。


はっきり言おう、迷子だ。

涙で景色が霞む。

「お母様…お父様…」


(もうすぐ夕暮れだ…)

マイナス思考の僕が、僕を泣かせようとしてくる。

ぐっと涙を引っ込める。

(僕は、ケイ・カールライヒ伯爵子息だぞ!泣くもんか!)


ふぅふぅ、と犬と追いかけっこした記憶を辿る。

なんてことはない、来た道と逆を行けば良いのだ。


『景色というのは、角度を変えると全然違って見えるものなのだ。迷った時は、必ず振り返りなさい』

父が子どもの頃迷子になった時の話を思い出す。

振り向くと、そこは確かにさっき見た景色だった。

来た時はここをこうやって右に曲がったんだから…

(左に曲がれば良いんだ!)


こうやって、なんとか元の街まで戻り、僕ん家の門の前まで来た時は、本当に泣いてしまうかと思った。

門番が初め僕だと気が付かなくて、「なんだ、僕、どうしたんだい?」と言って近づいてきた。

「ぼ、坊っちゃま!?ケイ坊っちゃま!!どうされたのですか!!さあ、早く中へ!おい誰か!!!」

後ろの方から「えっ!?」と更に驚く声が聞こえたけれど、もう僕は早くこの花束を渡したくてリリーを探した。




ガイは相変わらず、庭で本を読んでいたし、リリーは縄跳びしていた。なんでも二重跳びに挑戦中らしい。

なんだかすごくホッとする。

ヒュヒュン!


「あっ」

(二重跳び…)


「あ!ケイ…様!お帰りなさいませ!あーあ!泥だらけだーー!!」

「ああ、うんまあな」

「お兄様、おかえりなさい」

「おう」


リリーが僕を不思議そうに見つめる。

「なんだよ」

「なんだかちょっと大人みたい。泥だらけなのに、変なのー」

「うるせぇな………。あのさ、これっ…あ…」

差し出した花束にはもう百合が一本しか残っていなかった。


(帰るのに夢中で、途中で落としたんだ)

「これ、百合?私に?なんで?」

「……きだから」

「え?」

「〜〜〜!!!二重跳びできたお祝いだよ!!」

「まあ!一輪なのに、随分大袈裟なリボンねぇ」

「…う」

「でも、ありがとう」


顔を上げた。汗が滴る。

「えへへ、嬉しい」

夕陽に照らされたリリーが笑顔だ。

なんて、なんて綺麗なんだろう。

こんなに嬉しいこと、他にあるかなあ。

「うっぐすっ」

「え?ケイ、何で泣くの!?」

「…ぐすっ…リリー、やっとケイって呼んでくれた…」

「あっ!」

慌てて口元を押さえたその頬にくちづけしそうになる衝動を必死に堪える。

「どっか痛いの?転んだんでしょう?お母さん呼んでくるよ!」

走り出したリリーの手を掴む。

「いい」

「なんで」

ぼろぼろと涙が溢れて止まらなくなる。

リリーの前なのに、何で今泣くかなあ。こんなことなら、迷子になった時に泣いとけば良かった。

リリーが僕の濡れた頬をハンカチで拭いてくれた。

「ありがと」

ぐしっと鼻を啜る。


そしたら、僕の頬に柔らかい唇が触れた。

驚いて、リリーを見たら、その顔は真っ赤だ。

「えへへ、これはお礼」


顔が一気に熱くなる。

長い髪が風に溶けるように駆け出して行ってしまう。

君は振り向いて言った。

「お花、ありがとう!」


へなへなへな、とへたり込んでしまった。





湯浴みをして、膝や肘に薬を塗ってもらった。

軟膏を塗るお母様は、どうして傷だらけなのか、何も聞かなかった。


剣術の稽古から帰ってきたお父様と目が合って、つい目を逸らしてしまう。

「…ケイ、また足が速くなったのじゃないか?」

「?そうですか?」

ふふふ、と上機嫌な父はタオルで汗を拭いていた。


(あんなに汗をかくなんて珍しいな)


「そうだ、ケイ、犬を追い払ったのはカッコよかったぞ」

「え!?つ、ついて…」


父は僕の前にしゃがんだ。

「良いか、ケイ。出かける時はきちんとお母様や屋敷の者に報告してから行きなさい。ちゃんと護衛も付けるんだぞ、わかったな」

こくこくと頭を縦に振った。

「良い子だ。お母様に謝っておいで、心配していた」





僕は一つ、分かったことがある。

僕はまだ何も知らないんだってこと。

でも犬に勝ったんだ。

迷子から帰って来れたんだ。

自分で花を買ってリリーに渡せた。

僕には、これから成していく事の可能性がいっぱいあるんだ。

だから、もしかしたら僕の名前はそのたくさんの可能性の数なんじゃないかなあ。




次の日、僕はちょっとだけ朝寝坊した。

「ケイ!おはよ!」

リリーが僕を呼んだ。

ちょっと気まずくて目を逸らして「おう」って言ったら

「みんながいない時は、ケイって呼ぶね」

って耳元で言ってくれたんだ。

昨日くちづけされたところが、くすぐったくなった。

外伝含め、全て完結しました。

ここまで読んでくださって本当にありがとうございました。


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