心からの感謝を、愛するあなたへ
きゃっきゃっと庭で遊んでいる双子は、先月三歳になった。
子どもの時間軸はあっという間だ。
「おかしゃま」と言っていたのが、今では「お母様」と澱みなく言うので、「おかしゃま」と呼んでいた双子にはもう会えないのである。
成長が嬉しいような、寂しいような複雑な気持ちだ。
レントバーグ家が自力で新しく建築した屋敷は、以前よりカールライヒ邸から近くなった。
両親は、しょっちゅう暇を見つけては、孫の顔を見に来ている。
「はあ!もう!祖父様は無理だ!負けだ!!はあ!」
「ええーーなんでぇ?」
「お祖父様、もっと走ってよ!!」
「ぬっぬう…!!!うおぉーーー!!」
「「きゃーーーーー!!きゃっきゃ!!」」
屋敷の方から侍女を伴った母が、籠を持ってやってきた。
「貴方達!冷たいリンゴジュースはいかが!?」
大きな声を弾ませている。
ケイもガイも急に方向転換し、我先にとリンゴジュースをねだっている。
「お祖母様、僕の多くして!」
「ずるいぞ!僕のも多くしてよ!」
「はいはい!そうだ、どちらもおかわりすれば良いのじゃない?」
途端に双子の瞳が輝いた!
「「さんせ〜〜い!!」」
あとから、ふうふうと息を切らした父が汗を拭いながらリンゴジュースをがぶ飲みしている。
「祖父様は疲れた。もう休む。勘弁してくれ」
「やだ!」「だめ!」
みかねた旦那様が「どれ、父様と交代しよう」と言ったが
「お父様とじゃいつもと同じだもの!」「お祖父様と遊ぶんだ!!」と一蹴されてしまった。
やれやれと言いつつも、
「そんなに祖父様が良いか」
満更でもない顔でニヤけている。
「それ!」
誰かの掛け声と同時に、また追いかけっこが始まった。
「あらまあ!今日は膏薬を貼るようねぇ」
などと言いながら母も笑っている。
「私、旦那様に感謝しかありませんわ」
「私だってリリアには感謝しかないよ」
「随分と迷惑もかけましたわ」
「私もさ」
視界が翳る。
ふいにくちづけされた。
「愛しているよ、リリア」
「ええ、私も」
ブワッと吹いた強い風が、麦わら帽子を攫う。
慌てて追いかけると、母の足元に落ちた。
それを拾い上げた母は、帽子を愛しむように見て「はい」と渡してくれた。
「私、貴方に謝らなくては…」
「お母様、もう何度も謝っていただいているわ」
「…最近、寝る時考えるのよ。お父様が貴方に厳しすぎたこと、私がそれを窘めなかったこと。今になって。遅すぎるでしょう?」
母は私をじっと見て、眉尻を下げた。
「こんなに大きくなってから謝ったって、もう遅いのよ。小さいリリアになんて詫びれば良いのかしら…どうやって詫びれば良いのかしらね…神は、時間を戻してはくれないわ」
「そうです、時間は戻らないのです、お母様。だから今ここから、懸命に真っ直ぐ生きなければ、と私はそう思っているのです。私とて同じです、過去に囚われていたって、時間は未来の方向にしか進まないのです。だったらもう、なにを囚われることがありましょうか」
「リリア…」
「私、今幸せです、とても」
お腹をひと撫でした。
「リリア?まさか…」
「はい、今お腹に三人目が宿っています」
「まあっ!ああ、神様!!」
「まだ旦那様には言っていません。だってすぐ心配するんですもの。でも本当にそろそろ言わないといけませんわね。双子の時ほど体調に変化はありませんでしたので、お陰様で普通に過ごせております。そう、明かすのはお母様が初めてですわ」
母は私のお腹を撫でながら目尻を下げている。
「大事にするのよ、リリア」
「ええ、それは勿論、大事な三人目で…」
「いいえ、貴方の体のことよ。体調が良くったって、無理をしてはいけないのだからね?いつでも助けに来るから呼んでちょうだいね。……でも伯爵が何でも用意してくれるのでしょうけれど。それでも頼ってくれないのは寂しいわ。それはお父様も同じ気持ちなのよ」
「ええ!?お父様も?」
「だってすごいじゃないの、孫命だもの」
「そうね」
二人で苦笑した。
「何を話しているんだい?レディ」
旦那様は爽やかな笑顔で歩いてきた。
青空の下を歩くその人は、幼子を持つ父親特有の柔らかな雰囲気を纏うけれど、目線はしっかり私に向けられている。
それが私をどんなにときめかせるか貴方は知らないのでしょう。
「旦那様…」
「うふふ」
「嬉しそうですね、お義母様。リリア、何かあったのかい?」
「ええ、あのね、旦那様。とても嬉しい報告がありますわ」
芝生の向こうで双子と父が笑い転げている。
旦那様ったら、お母様の前だというのに、私を強く抱き上げて、くるくると回った。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
私にとってとても思い出深い作品となりました。
皆様が少しでも楽しんでくれたなら幸いです。
読んでくださった皆様に沢山の幸せがあることを祈っています。
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