一番惨めな刑罰を
「フォレスティーヌ・レントバーグ。カールライヒ伯爵が長男及び次男の略取を企て、殺害せんとした行い故に、第十一項二十四条において、汝を奴隷身分とし、立枷の刑を命じる」
フォレスティーヌは立ち上がり叫ぼうとしたところを、裁判官に左手だけで黙らされた。
「これより十日間、立枷に閉じ込め、フォレスティーヌ・レントバーグを奴隷として雇い入れても良いという雇人を募集する」
「か、枷に閉じ込め…奴隷…?募集…ですって……?」
「以上で閉廷である!」
カン!
木槌を叩く高い音が鳴って、傍聴人達は扉の外に出されてしまった。
乳母を雇い、それを貴族の屋敷に潜り込ませ、何ヶ月も勤務させて信用を得、誘拐するという手口は、幼い子どもを持つ貴族女性を中心に、重罪にすべきと言う声が上がった。
双子を誘拐した乳母であるが、貧しさ故に、フォレスティーヌからかなりの額の成功報酬を約束されて犯罪に手を染めたが、約束の報酬が支払われなかったことで仲間割れとなったらしい。「自分が愚かだった」そう言っていたという。
結局乳母は、絞首刑になったと聞く。
裁判所前の中央広場が騒々しい。
フォレスティーヌは、すのこ状のカゴに入れられ、頭と手だけが出た状態で泣き叫んでいる。
カゴの前には赤文字で『雇人募集』と書いた張り紙が貼ってある。
「出しなさいよ!!!出せぇ!!!!」
ガツン!!
フォレスティーヌへの投石が始まった。
ガツン ガツン
投石の数が次第に増えて行く。
「痛い!!いたっ!!!…ぐっ!がっ!!!」
ニヤニヤしながら投げている市民たちを見ると、ゾッとすらした。
父と母は目を背け、私と旦那様も直視はできなかった。
旦那様は苦虫を噛み潰した様な顔で言った。
「雇人が決まれば良いが…」
「どちらにせよ、本人が蒔いた種ですから」
「そうは言うが…」
「私は大丈夫です。父も母も、もう覚悟はしておりましょう」
足早にその場を去った。
次の日、ボコボコに腫れ上がった顔、何本も折れた歯。フォレスティーヌは、通りすがる人々を罵倒していたという。
二日後、喉が渇いたのか、通行人に「水を寄越しなさいよ!!誰か!私が欲しいと言っているのよ!そこの不細工!何見てるのよ!!早く水を持ちなさいよ!!!役立たず!!」と、水を求める声をあげたという。
三日後、可哀想に思った人がいたのか、あるいは他の思惑があったのか分からないが、一人の紳士が「ウチで働くか?」と聞いたが「ふざけないで!私は貴族よ!!奴隷ですって!!?冗談じゃないわ!!」と叫んだらしい。掠れてほとんど聞き取れない声だったという。
四日後、雨が降った。フォレスティーヌは天に向けて口をぽかっと開けたまま動かなかった。張り紙の赤文字は雨に濡れて解読できなくなる。
五日後、「誰か…私を雇ってください、助けてください、雇ってください、私を雇ってください」と虫の声で繰り返したと言う。
もう誰もが一瞥をくれて足早にその場を去るだけだったらしい。
六日後、憐れんだ通行人が一人、水を差し出そうとしたが、もう動かなかったという。
以降十日後まで、その場に置き去りにされた。
なぜなら十日間の刑罰だからである。
「お姉様は、奴隷に身分を落とし、世間の晒し者になりながら、死んだのです。途中で声をかけてくださった方に雇って貰えば生きられたのに。自分は一流であるというプライドが、己を殺すに至らしめたのです。姉らしい死に方でしょう」
フォレスティーヌの記事を書く為に、私の話を聞いていた記者は、あまりの出来事に口を噤むしかなかった。




