赤い薔薇を渡されて
産まれたのは双子の男の子だった。
あの後、再びの陣痛に襲われて、いきんでいきんで二人目が産まれた。上の子よりはすんなりと産まれたように思う。
「ケイと、ガイは…?」
産婆がにこにこと吸飲みに注いだ水を飲ませてくれた。
「旦那様が離さないのですよ。ずうっと両脇にお二人を抱えるか、乳母が授乳するときはどちらかを抱っこしたままで。うふふ」
「まあ!旦那様だって少しは休まないといけないのに」
私はもぞもぞとベッドから降りようとしたけれど腰が立たずに、転がるばかりだ。
「奥様、慌てずにゆっくり養生したほうが良いですわ。旦那様も奥様も何かに焦っているように思えます。あとでお二人を連れて参りますから、どうか」
「情けないわね」
というと、産婆は目を大きくした。
「あら!奥様は一度に二人も産んだのですよ?今この世界で一番労われるべきでしょう」
「いいえ、労われるべきはずっと側で励ましてくれた旦那様と、それから頑張って出てきてくれた二人の息子。それから貴方だわ。ありがとう」
産婆はうるうるとして手を取った。
「奥様ぁーー!!産婆冥利に尽きます!」
「うふふ、貴方もしっかり休んで……」
バン!!!と扉が無造作に開かれる。後ろで侍女たちが懸命に制している。
見ればそれは…
「やあ!!双子を産んだのだって!?おめでとう!!」
「お、王太子殿下…」
産婆はギョッとして頭を下げる。
「さあ!子どもたちはどこにいるんだい?会わせてくれよ!」
「あ、夫が見ています…夫を呼んできて」
と侍女に伝えると慌てて飛んでいった。
「ちっ。いるのかよ。カールライヒめ」
「申し訳ありません。今起き上がれませんので、このままでお許しくださいませ」
「んー?どうしたんだ?」
これには産婆が説明する。
「予定外に双児であったため、体力の消耗も激しく、腰などを痛めておいでですので…」
「ふうん?」
ちらっと私を横目に見る。
「まあいい、君、これを」
と言って渡されたのは真っ赤な薔薇の花束だった。
二百本くらいはありそうだ。
「まあ!ありがとうございます。でも悪いですわ、こんな…」
「悪いだって?なぜ?ほら、起き上がってくれよ」
王太子が急に私を抱き起こそうとした。
「ひっ!いたたたた!!!!」
「なんだ、大袈裟な」
私はあまりのことに、王太子の腕から転げ落ちたので、産婆が慌てて制した。
「王太子殿下!!恐れながら…奥様は双子を出産したばかり。あまりそのような…」
「何だ貴様、無礼だな。あのな、私の母は五人産んでいるんだぞ!?」
「一人産もうが十人産もうがお産はお産です!!奥様、ゆっくり仰向けになれますか!?」
「え、ええ。ありがとう」
王太子の額に青筋が目立ち始めた。
「せっかく来てやったのに…」
私は肩で大きく息をしながら、その顔を見上げた。
「何事ですか」
声のする方へ一様に視線がゆく。
「旦那様!」
見れば少々髪が乱れている。広い屋敷を走ってきてくれたのだ。
「カールライヒ…」
「恐れながら殿下、妻は産後でご挨拶もままなりませんので、応接間へいらしてください」
「なんだ、僕に指図するのか?」
明らかにバチバチしあっている。
「ひゃあんひゃあん」「ふえっふえっ」
「ケイ!ガイ!」
侍女が一人ずつ抱っこしながらこちらにやって来た。
「ああ!会いたかったわ!お母さんのところへおいで」
「遠くから見ても天使だ……」
「本当に、なんて愛らしいのかしら」
「二人ともリリアに似ているなあ」
「あら、髪の色はお父さんに似たのよね。良かったわ、髪の毛まで私に似たらどうしようかと思ったもの」
「そんなことないよなあ?」
つい顔が綻んで幸せだけが場を支配していく。
遠くから「なんだよ…」という声が聞こえたので見ると、もう王太子の姿はなかった。




