やっと会えた
苦しい。重い。今まで経験した痛みの中で、一番イライラするような鈍痛だ。お腹で鉛が暴れているみたいに感じる。
「神様、私、何かしましたか…?何か…何かの罰ならば、なぜ今なのですか……うわあああああああッッッ!!」
頭を掻きむしって、ジタジタと暴れた。
産婆が懸命に腰をさすってくれる。
「奥様!罰でも何でもないですよ!!これが陣痛ですから大丈夫ですよ!気を確かに!」
「旦那様っ!旦那様ぁあっっ!!!」
一瞬痛みが和らいだ。
意識が混濁する。辺りに靄がかかったみたいだ。
「…だ、だんな、さま…」
伸ばされた手を懸命に掴んだ。
「リリア、しっかりするんだ、頑張れ」
痛みが再来してハッとする。
「旦那様……」
「ごめんよ、代わってやれなくて」
ふるふると頭を振った。
「来てくれたのですか?お仕事は?」
「馬鹿なことを。今私がなすべきことは、君と共いることだろう」
「でも、いやっ嫌ですッッッ!!!こんなッッッ!!!うわああああああ!!!!痛い!!!いたあああい!!!嫌だ…怖い…!!!!!きゃああああああ!!!!!」
「リリア!!大丈夫だよ!大丈夫だ!!この腕を噛め!!食いちぎっても良い!!私を殴っても良い!!だから、気を確かに持て!!」
「変なことッッッ言わないで!!!!ああああ!!!!助けてっ!!!助けてぇぇ!!!!!!」
旦那様はオロオロするばかりだったが、少し痛みが引いた時、旦那様がびっしょり濡れていることに気がついた。
「旦那様、濡れて…」
「外は雨だ。王城に行ってたからな、早馬で帰ってきたんだ」
「馬車は…?使わなかったのですか?」
「そんな悠長に帰れるか」
「ぐっうううううッッッ!!!」
「産婆、私に何かできないだろうか…」
「男は外で待ってるのが仕事ですからね」
とズバッと言われてしまった。
「ならば私が腰をさするから代わってくれ」
などと言うので、私は泣きながら懇願した。
「やめて!!やめてください!!外で待っていて、お願いです!こんな…嫌です!!!!こんな姿を見られるのはっ!!!!ああああああ!!!」
それから私は喉が枯れるまでひとしきり叫んだ。
それでまた痛みが引くと、旦那様が耳元で言った。
「私はリリアの苦しみを少しでも理解したいんだ。私も父親になるんだぞ。一緒に親にならせてくれよ…頼む」
「はっはっ…私が…どんなに醜く、叫んでも、嫌いに、なったり、しません、か?はっはっ…」
「当たり前だ。リリアは私がまた太ったら嫌うのかい?」
「嫌いま、せんとも。でも不健康だから、よしてください。はっはっ…またあんな、嫌ですよ、死にかけたら…」
「約束する」
「ついでに、一つだけ。王太子殿下に、愛妾になれと、言われて、おります。しつこく、何日も、うちに来て…はっ…はあっ…」
「そうか…変だと思ったんだ。話してくれてありがとう」
「旦那様に話すか、とても、迷ったん、ですけれど、お産が終わったら、もっと、しつこくなるでしょう」
「リリアに降りかかる一切の火の粉は私が払うと約束しただろう?」
「そうでしたね…うっぐっ」
嫌な鈍痛が湧き上がってきた。
「奥様、良いですよ、いきみましょう」
この痛みから解放されるなら、もう何だって良い。
「ひっ!!!!」
頭の血管が切れそうだ。
眼球が飛び出てしまいそうだ。
何度も絶叫して、喉が切れたんだろう。口の中で血の味がした。
水が欲しいけれど、言葉が出ない。ただ叫ぶことしかできない。
結局、人間の本質は獣なのだ。
賢く装ったって、本質を変えることなんてできないんだ。
そう悟った。
痛みが引くたびに、何度か気を失ったと思う。
産婆が
「頭が出てきましたよ」
と言ったので、この戦いの終わりの始まりを予感した。
それで、ようやく出てきた我が子は、愛らしい男の子だった。
生暖かい、まだ裸の我が子を抱きしめてみる。
不思議な感じがした。
旦那様に顔を見せてあげると、ただ、はらはら泣いていた。




