不信感(カールライヒ視点)
リリアはここのところ食欲もなく、何をするにも上の空。私が話しかけても、どこかぎこちない。
そんな日々が続いた。
「リリア、もうそろそろ子どもが産まれてくる頃だし、しばらく休暇を取ろうと思うんだ」
「そんな…不要ですわ。いつ産まれるかも分からないのに、それまでお休みしていただくなんて…お仕事がかなり溜まってしまうではないですか」
「他ならぬ、私たちの子だろう?他の者に任せられるよう割り振るし、何より私が落ち着かないのだ」
「ですから、不要です」
容赦ない即答に、少しムッとする。
「…リリア、最近なんだか様子がおかしいぞ」
「それは当たり前でしょう?初めてお産に臨むのです、普通でいる方が難しいわ」
「なら、なおさら…」
「お願いですから!やめてください」
リリアはそう言って自室に篭ってしまった。
「マイロ、お前何か知らないか?」
花瓶に刺さったピンクのガーベラが瑞々しく咲いている。
リリアはあまりピンク色を選ばないから珍しいなと思う。
マイロは「いえ、なにも」と小さく言ったきり、口を閉ざした。
屋敷の者が皆、こんな調子だ。
(何だというのだ、全く…)
それで、私はリリーに聞いてみることにした。
「リリー、なんだか最近リリアやお母さん達が変だと思わないか?」
「へん?へんって?」
「うーん、具体的に言うのは…お前にはまだ難しいよな…」
「なによ、ばかにしないでよね」
「そういうところは一丁前なんだけどな…」
「あのね、リリーはもう、りっぱなレディーなんだからね。いつまでも こどもあつかい しないでよね」
「お、おぉ…?」
「リリーしってるんだからね。おーたいしはリリアのことをねらってるんだから!」
「王太子が?狙って?狙ってるって何だ」
「こいびとになるんじゃないかなあ」
「こいび…恋人!?なぜそうなる?おい!リリー!!」
こぼれ落ちそうな瞳でじっと私を見つめ返してくる。こちらが急に慌てたので、戸惑っているらしい。
(だからって黙るんじゃない!)
ため息をつく。子どもは本当に分からない。
(王太子が?なぜリリアと?どう言う訳なんだ)
だが、それならば最近リリアがそっけないのも納得がいく。
(ってそうじゃない!第一リリアは妊娠中なんだぞ!?他の男と遊ぶほど余裕などあるものか!)
けれど、こんなに小さな子が嘘をつく訳もない。
(本人に確かめられれば一番良いが…)
しかたない、あの人物に聞くしかないだろう。
この時間ならば、恐らく執務室で書類整理をしているはずだ。
扉を開けると、その人物はすぐにこちらに気づいてお辞儀をした。
「メイフェ、ちょっと良いか」
老齢の執事は背筋を正して微笑んだ。
「なるほど、王太子殿下ですか。確かに最近よくいらっしゃいますな。旦那様がいらっしゃらない時間を選んで、それも短時間で帰られる」
私はギョッとした。
「おい、何の報告も受けていないぞ」
「奥様付きのマイロに聞いても、どのような会話をされているのかについては、返答を濁されてしまいます。私も王太子殿下の来訪を積極的に話してくれるなと奥様から言われておりまして…」
「リリーがな、王太子とリリアは恋人になると言っていた」
「そんなまさか!旦那様は奥様の不貞をお疑いですか!?」
「そうではないことくらい私が一番よくわかっている!分かっているが…お産への不安とは別の何かを感じるし、なにしろリリーが作り話ができるとも思えない」
「リリーがそう言うのなら、そうなのでしょうが…ですが、まぐわいの気配どころか、奥様からはそんなご様子はありませんぞ」
私は頭を抱えた。
「…一体、何が起こっているのだろうな……」
「マイロに、問いただしますか?」
「いや、もし万が一、億が一リリアが間違った方向に進もうとすれば、あれは報告してくるはずだ」
「ですが…」
私はどんよりと重たい窓の外を見上げた。
それからいくつかの日々が過ぎ、遂にリリアは産気づいた。




