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王太子殿下が現れて

お腹が重たい、腰が痛い、立っているのはあまりにもしんどい。

何もしていなくたって呼吸が乱れる。

しかし、今日は建国祭である、欠席することは難しかった。


旦那様は一分おきに「大丈夫か?」と聞いた。

「そんなに心配なさらないで」

「でも君は臨月だし、あまり動かない方がいいのじゃないか?ソファに座っていなさい」

さすがに無理もできないか、と感じ「お言葉に甘えます」と言って近くのソファに「ふう」と言いつつ腰をかけた。


「冷えたジュースを持ってこよう」

去っていくその後ろ姿を、ご令嬢達は振り向いて見ないわけにはいかないほど、みんなが旦那様に釘付けになっている。

「カールライヒ伯爵、お久しぶりでございます。レヴァ・ローレンスです。バルコニーで少しお話ししませんか?」

私が隣にいないのを良いことに、声をかける行列が出来ている。

「ああ、覚えているよ。かつて君に"豚かと思った"と言われてワインをかけられたことがある。染み抜きが大変でね、挨拶するより先に言うことがあるのじゃないか?」

「あ、えっと…ですから…それは…」

「悪いけど…君たちのほとんどを覚えている。君は私の足をわざと踏んだし、君はいつも私の姿を見るなり笑っていたし、君に至っては私が無理に押し倒したと嘘をついて口止め料を提案したよな?」

次々に指がさされていく。

指摘されたご令嬢は眼を逸らす。

「退きたまえよ」

その言葉にご令嬢達は後ずさった。

「うん、それでいい。染み抜き代や慰謝料を請求してもいいなら話しかけてくると良い」


私はぽかんとその光景を見つめた。

指摘されたご令嬢達は、私の方を見てヒソヒソとわざと聞こえるように話し始めた。

「リリア様なんて、大して美しくもないくせに」

「子爵令嬢よ?家柄も大したことないし」

「それもヴァンルード侯爵と離縁したキズものでしょう?」

「ああ、姉妹を交換したとか言う…」

「下品よねぇ」

「本は読んだ?」

「読んだ読んだ」

「フォレスティーヌ様の異様さが書かれていたけど、自分の本に自分の悪いことなんてわざわざ書かないものね」

「実際はリリア様だって、どうだか」


くすくす、くすくす

ご令嬢達の周りに人が集まって

なんだなんだと少し騒ぎになる。


「悪趣味だな、これだから社交界は嫌いなんだよ」

旦那様が誰よりも高い目線でそう言った。


しん、と人々は静まり返った。

「どうやら君たちは、自分たちの容姿に絶対の自信があるらしい。可哀想に、そうやって虚勢を張っていないと生きていけぬのだな、哀れだ。それはそうだろう、リリアが一番美しく清らかだからな。自分たちが底辺であると痛感するんだろう」


あんまりにも言葉がすぎる。これには私も頭を抱えた。

「酷い!」と言って泣き出す女性まで現れた。


「リリア、こんなところに一秒だっていられるか。行くぞ」

「…ってください…」

「何だって?」

「訂正し、謝ってください。私、あんな物言い、大嫌いですわ!」

「君が悪く言われるのは許せない。君だって大嫌いなどと…訂正しなさい」

「いいえ、しませんわ。旦那様がきちんと皆さんに謝罪するまで訂正しません」

「冗談じゃない。君を見下した女どもにくれてやる謝罪などない」

「なにを子どもみたいなことを言ってるんです!」

「何とでも言ったら良い!でも大嫌いだけはダメだ!リリアは私のことを愛しているんだからな!」

「旦那様こそ私を愛しているなら、きちんと謝ってください!」

「なっ!ずるいぞリリア!!」


その様子をポカンと見つめていた聴衆を割って入ってきたのは、この国の王太子だった。

「おいおい、聴衆の面前で夫婦喧嘩かい?面白すぎるな、カイザル」

「おっ王太子殿下!!!これは失礼を」

私も急いで頭を下げた。


「ことの成り行きは見守っていたよ、君たち、建国を祝うよき日に人をいびるのは感心しないなぁ」


ご令嬢達は頭を下げたまま、思い切り気まずそうにしている。


「リリア・カールライヒ、君の噂は聞いているよ。七色の髪の乙女」

「恐れ入ります」

「一緒にダンスを踊っていただけるかい?」

「…王太子殿下、妻は今身重です。ダンスは私に免じてご容赦ください」

「…それは残念だ」


ダンスは、初めにパートナーと踊るのが通例。それは王太子とて同じこと。なのに、私をダンスに誘うとは、王太子のお考えが分からない。


王太子は踵を返すと

「せっかくの建国祭だ、皆大いに楽しみたまえ」

と言った。

誰もその顔に黒い笑みが貼り付いているとも知らずに。

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