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空気の読めない双子の兄(カールライヒ視点)

「旦那様!大変です!」

ノックするなり、老齢の執事メイフェが入室してきた。


「リリアに何かあったのか!?」

思わず椅子から転げそうになる。

「いえ、そうではなく」

「なんだ、違うなら良い」

「えっですが旦那様…センドリヒ様が…」

「なに?兄上が?」


廊下から喧しい声が近づいてきた。

「カイザル!!カイザル!!!」

引き摺る足音と杖をつく音、間違いなく兄だ。


「うるさいから鍵を閉めてくれ」

「…そういう訳には」


バンっと扉が開かれた。

「カイザル!久しいな!」

「…仕事中です、兄上。ノックしてください。来るなら来るで手紙を寄越してください。」

「お前、結婚したんだっていうから挨拶に来るのを楽しみにしていたのに、全然来ないじゃないか…っていうかお前、痩せたなあ!一時期随分丸かったもんなあ!」

「そういう兄上は相変わらずです」

「はっはっは!すっかり元通りじゃないか。相変わらず鏡と話してるみたいで愉快だ」


そうだ、私たちは瓜二つだ。

なぜなら、私たちは双子だから。


「なあ、カイザル。奥方はあの"七色の髪の乙女"なんだろう?」

「だったらなんです?」

「やっぱり傲慢か!?そうだろう!?」


(うるさい人だ)


「妻は傲慢ではありません。寧ろ慎ましい」

「ふうん?そんな訳ないと思うがな。女は大体二通り。美人で傲慢か、醜女で従順か」


思わず机を叩いて立ち上がった。

その音に兄は驚いている。

鏡の自分が驚いているみたいで腹が立つ。

「妻を愚弄しないでいただきたい」

「ほお。お前がそこまで言うなんて珍しいなあ。……おいメイフェ、俺が来たことを奥方はご存知ないのか?」

老齢の執事は直ぐに返答する。メイフェは、屋敷のことならばなんでも把握しているのだ。

「今頃マイロがお伝えしている頃かと」

「ならば応接間で待とうじゃないか」

その独断にいよいよ腹が立つ。

「お帰り頂きたい!妻は体調が優れないんだ!」

「なんだ?虚弱体質なのか?」


そこへ、兄の来訪に気を遣ったリリアが挨拶に訪れた。

「お初にお目にかかります。センドリヒ・カールライヒ様とお見受けします。カイザル・カールライヒの妻、リリアと申します。未だ結婚の挨拶にお伺いできず、申し訳ありません。どうかお許しください」

そう言って深々頭を下げたので、私は咳払いをして兄を見た。

「あ、いや、リリア殿頭を上げてください。こちらこそ、弟がいつもお世話に……」


リリアが頭を上げ「まあ!」と言って私たちを見比べている。

兄は顔を赤くして口を開けたまま見惚れている。

「兄上」と窘めたのでハッとして、目線を逸らせた。リリアは「驚きましたわ、そっくりですのね」と言って微笑んだ。


「積もる話をおありでしょう、遠慮せず兄弟水入らずでお過ごしくださいませね」

再びぺこりと頭を下げて去っていった。

その去っていく姿をじっと見つめていた兄はリリアの姿が見えなくなると、こちらに向き直った。

「兄弟水入らずでお過ごしください、だと!なら今晩は飲み明かそうじゃないかカイザルよ」

「いや…もうあまり酒は飲まんのです」

「おう?なんでだ。健康に気をつかっているのか!?あんなに太っていたのに?」


(相変わらずズケズケと失礼な人だな…)

「それもありますが、妻がアルコールの匂いも苦手なのです」

「なんだと!?嫁のくせに口うるさいな!男の嗜みくらい口出しさせるな!」


はあ、とため息をついてこめかみに手をついた。





兄も久方ぶりの生家とあって随分と酒が進んだ様だ。

リリアはつわりがあってあまり食が進まない様子である。

アルコールの匂いはいつもに増して敏感になっているというのに申し訳ないことだ。


「つまりリリア殿が太っちょカイザルを助けて痩せさせたのか!いやあ感謝感謝!一族を代表して礼を申します!かたじけない!」


加えて兄は絡み酒で、酒癖も悪い。

リリアの顔色はみるみる悪くなるばかりだった。

私は目線でリリアに退出を促す。

それを受けて彼女は頷いた。


「今夜はこれで失礼しますわ。どうぞご兄弟で楽しい夜をお過ごしください」

と言って去ろうとする、その背中に向け兄は「リリア殿」と言って引き留めた。

「何やら体調が優れないと聞いた。貴方はご病気か何かおありなのか?」

「え…い、いえそう言うわけでは…」

「随分と顔色が悪そうだ。カールライヒ家の後継を産めるのか?」

これには私が窘めた。

「兄上!良い加減にしてください!」

「なんだ、カイザル大事なことだろう」


兄はリリアにつかつかと詰め寄ったので、かなりアルコールのきつい匂いがしたらしい。

リリアは自身の席に置いてあったグラスの水をぐっと飲んだ。


「あっ…」


ガシャン、とグラスが滑り落ちて割れた。

「はっ…ああっ…」

「リリア!!!ど、どうしたんだ!?」

「ゔっ…水に、アルコールが…入って……」

「何だと!?」


「やあやあ、そんなに効きますかなあ」兄がヘラヘラしながら近づいた。

「弟にアルコールを飲ませない程苦手と聞いてね?リリア殿とて成人しているのだから酒くらい嗜まないと」


私は取り敢えず兄をぶん殴った。カラカラと杖が転がっていく。

それから、レンダーと助産師を呼ぶよう慌てるマイロに指示した。

「リリア、今すぐ吐け!!!」

しかし、倒れ込んだ妻はぐったりとして意識がなかった。


「え?なんだよ、水にちょっとウイスキーを入れただけで大袈裟な……」

兄は殴った頬に手を当ている。

「うるさい!!!リリアは妊娠しているんだ!!!妊婦に酒など…リリアとお腹の子に何かあったら兄上とてただでは置かない!!」

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