そわそわする(カールライヒ視点)
「旦那様聞いて?リリーがね「カイザルとリリアがけっこんしてるから、リリーがカイザルとけっこんできない」って怒るのよ。可愛いわね」
「全く、君にまでそんなことを言っているのか?」
「恋敵だわ、ふふふ」
「上機嫌だな」
「だって可愛くて」
「…そうだな」
腕枕をしながら、髪を掬い上げる。
はらはらと落ちていく度に光る七色。
「私たちにとってもリリーは我が子のように大切だわ」
「ああ…」
それからすぐに寝息を立てたリリアの頭を撫でておでこに唇を寄せた。
(神よ、リリアが望むものはなんだって与えてくれ…)
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翌朝、まだ寝ている妻を起こさないようにベッドから降りると、とてもか弱い力で袖を掴まれた。
「悪い、起こしたか?」
「…具合が…悪いの、とても。レンダー医師を呼んでくださる?」
「珍しいな、大丈夫か?」
「あまり大丈夫ではなさそう」
おでこに手を当てたが熱はなさそうだ。
取り敢えず、すぐにレンダーを呼びつけた。
脈をとったり心音を聞いたり、なんだか色々としていたが、
「これは私には分かりかねますな…」
と言ったので、胸ぐらを掴んだ。
「おい、ふざけたことを言うな」
「私とて適当なことを言うわけには参りませんのでな。専門の者を呼びましょう」
「せん…もん…?そんなに悪いのか?」
「診察が終わったらお呼びしましょう」
いたって冷静にそう言った。
冷静だったのは妻もだ。
「私は平気だから、仕事をしていて?構わずいつも通り過ごしてください」
「そんなことできるか!」
私がつい大声を上げてしまったので、リリーが入ってきてしまった。
「カイザル、リリアえんえんなの?」
「リリー、大丈夫よ、お母さんのところに行っていて」
「やだ!リリー、リリアのとこいる!」
「あら本当?心強いわ、じゃあリリー、私についていて」
「うん!!」
リリーの目が輝いている。
(リリアは子供の扱いが上手いな…)
などと感心する傍ら
(リリーは良くて、なぜ私は仕事にいかなければならないのだ)
と思って、とてもがっかりした。
勿論その後も仕事どころではなく、書類にインクをこぼすし、許可しない企画書に許可のサインを書いてしまったりとすっかりポンコツになってしまった。
昼飯も喉を通らない。
(まだ報告がないのか!)
苛々焦れ焦れ苛々焦れ焦れとして右往左往するばかりだ。
入室してきた執事が報告などではなく、紅茶を持ってきただけだった時はすごい顔で睨んでいたらしく慌てて逃げ帰って行った。
(何も進まない…いつも通り過ごせって?無理に決まっている)
太陽が少し西に傾き始めた頃、コンコン、とノックが聞こえる。
マイロだった。
「診察が終わりましたので、寝室にいらして下さい」
「リリアは大丈夫なのか?」
「ええ。今は落ち着いているようです、自分の口からお話ししたい、と」
(自分の口から!?そんなに悪い病気なのか!?)
マイロの後ろをついて歩くのも苛々してしまい、「走って良いか?」と問うと「子どもですか」と言われてしまった。
ベッドに座っている妻は、やはり顔色が良くない。
すぐに駆け寄り、頬に手を当てた。
「…どうだったんだ?この国の全ての医療者を集結させるから、安心しろ!」
「まあ!」
くすくすと笑っている。
なんだかいつもと違う顔に見える。
「リリア?」
「…妊娠したのですって」
「???にんしん?」
「ええ、そうよ。お腹に赤ちゃんがいるのよ」
「あ、あかちゃん…?」
(それは、つまり…)
「私たち、親になるんです」
何も考えることができず、ただ、ぎゅうと抱きしめた。
(君はもう母親の顔をしている、女性というのは強いな)
「カイザル!リリアにさわるのだめ!」
「なんでだ」
「リリア、ぐあいわるいから!」
「確かにそうだが…リリーが指図するんじゃない」
「これからリリアにようがあるときは、リリーをとおしてよね」
「そんなのどこで覚えたんだ…」
マイロが慌てて、喧しく騒ぐリリーを抱いて退出した。
ぎゅっと袖を掴まれる。
ベッドに手をついて、口付けした。
リリアの両手を掴んで顔を埋める。
「一生懸命をやめたら授かるなんて、天邪鬼だな」
「そうですわね」
お腹の中に聞こえるように言った。
「あまり母さんを困らせるなよ」




