リリーはカイザルとけっこんする(カールライヒ視点)
季節は夏になった。
今日はいつもに増して蒸し暑い。
シャツのボタンを二、三個開けた。
リリーがつんつんと袖を引っ張ってくる。
「なんだ?」
「こわいよ、にこにこ」
どうやら暑くて眉間に皺が寄っていたらしい。
それにしても、彼女はなぜ私の執務室にいるのだろうか。
「む、怖くない。別に怒ってないが笑えと強要されるのは癪だ」
「きょうよう?」
「無理強いすることだ」
「むりじい?」
「…もういい、聞くんじゃない。あっち行ってろ」
「やだ」
「なんでだ、怖いんだろ?」
「かっこいいからいる」
(どういう理屈だ…)
「おい、書類が書けないじゃないか。降りろ」
「やぁーだ!」
頭を抱えた。
この書類を終わらせないと、今日は寝れそうにないというのに。
「カイザルぅ」
「呼び捨てするんじゃない」
「リリー、カイザルとけっこんすりゅ!」
「…リリー、結婚がどんなもんか分かってないだろ…」
「だいすきなひとと、だいすきーってすりゅ」
「おぉ…父さんと母さんから聞いたのか?」
「ちがうよ、リリアにきいたよ」
雷が落ちたかと思った。
(リリア、そんな風に考えていたのか!!!大好きな人と、大好きってするって!?私もしたい!!!!)
ということを頭の中で一気に考えたが、顔には出さなかった。
「…良いか、リリー。私はリリアと結婚しているから、リリーとは結婚できないんだ」
「そんなのやだ!!!」
「やだって言われてもな…」
「カイザルはリリーとけっこんするの!うわぁーーーん」
泣き出したリリーの頭を撫でていると、太ももがしっとりしていることに気づく。
慌ててリリーを持ち上げると、おしっこを漏らされていた。
「…勘弁してくれ…」
はあ、と溜息をつくと突然扉が開かれた。
「リリー!!ここにいたの!?旦那様、申し訳ありません!!!」
マイロが大慌てで入室してきた。
リリーを抱き上げると、粗相したことに気づき、顔面蒼白になった。
「今お召し替えを!!」
バタバタと去って行く。
(親子揃って、そんなに怖いか…?)
背もたれを軋ませて溜息をついた。
なぜだかここのところ、リリーに懐かれてしまっている。
子どもというのは本当によく分からない。
頭を背もたれに預けると、窓の景色が逆さに見える。
青々とした緑色が目に鮮やかだ。
ふと、窓を開けようと立ち上がった時、控えめなノックが聞こえてリリアだと思った。
「旦那様、お洋服が…ふふふ、濡れてしまったと聞いて新しくお持ちしましたわ」
「…どうせなら湯浴みしたいくらいだ」
「あらまあ。もう夕方ですし、切り上げて湯浴みなさっては?」
「今日はこの書類を片付けなければ終われないのだ」
「そうでしたの…」
「寂しいか?」
「いいえ、寂しくはないですわ、屋敷はいつも賑やかですから」
リリーが産まれてから、屋敷はずっと賑やかといった感じである。
「釣れないな」
「…切なくはありますわ」
「光栄だ」
リリアに口付けしようとすると、「もう行きますから、早く着替えてください」と窘められてしまった。
ちょっとだけ、本当にほんのちょっとだけがっかりすると
「寝ないで待ってますから、後でコーヒーをお持ちしましょう」
と言ってくれたので、俄然やる気が出た。
「それに、早く終わらせないと、湯浴みするまで気になるでしょう?」
と言われて笑われてしまった。
どこまでも可愛い妻だ。




