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フォレスティーヌは喋り続ける

時は2ヶ月前に遡るのだそうだ。


私たち夫婦は、マッシュ・リー・フォン男爵とエイミー・ライラック子爵令嬢の婚約お披露目の会に参加した。

そこで私はできれば避けたい人物に遭遇した。


姉フォレスティーヌとその夫で"私の元婚約者"カイザル・カールライヒ伯爵だ。

彼らがいるであろうことは想定内であった。だが、できれば偶然を装い挨拶のタイミングを逃したふりをして、そのまま帰ってしまいたかったのが本音だ。


カールライヒ伯爵は少々寂しい頭皮と、"でっぷり"としたお腹をしていて、とても四十歳とは思えない。

噂ではその肥満が故心臓に疾患を抱えていると言われているが、対して顔色は艶々として元気そうだった。

普通の貴族夫婦であれば夫が妻をエスコートするはずが、姉のフォレスティーヌは伯爵から二歩三歩下がったところで顔を覗かせている。


ヘイリーハイト様はカールライヒ夫妻の前で足を止めて辞儀をした。

「カールライヒ伯爵殿、いやあ元気そうで何よりです」


(空々しい)

私は初めて旦那様に対して良くない気持ちを抱いた。


そのはち切れんばかりの腹を揺らしカールライヒは笑いながら旦那様と世間話をしていたけれど、その視線は旦那様にはなく、舐めるように私を見つめている。


(旦那様、失礼だとなぜ窘めてくださらないの)


私はそっと姉を見ると、なんだかゴテゴテとした装飾に目が痛くなりそうだった。

ばっちりと目線が合うと、姉はにこやかに微笑んだので、男性陣に辞儀をして姉の元へと歩いた。

そのまま姉と少し離れたところに移動した。


「久しぶりね、リリア。元気そうで良かったわ」

「お姉様もお元気そうで」

「そう?そう見えるかしら?伯爵ったらなんでも買ってくれるのはいいのだけれど、贈り物のセンスがあんまりないの。だからこれ、見てよ。このネックレスなんだけれどね今日は絶対に着けていけって。それからこのドレスもね、私はグリーンが着たかったのに、ピンクなのよ。アクセサリーと喧嘩していると思わない?お金持ちって感覚が変なのよ。きっとそうだわ」


と、そこまで一息で喋り切った。


(ああ、私の苦手なお姉様だ)


鼻の奥に生家の匂いが蘇る。

そして思い出す。

(この感じ。綿で押しつぶされそうな、悪意のない殺意みたいな…)


そもそもカールライヒ伯爵との婚約を破棄したのだって、伯爵との結婚を望んだ姉のわがままだった。


(家同士が決めた婚約だったから、私は別に婚約破棄したって構わなかったし、カールライヒ伯爵も姉でも良いと言われたのよね)


そう、姉のおかげでヘイリーハイト様と結婚できたのだからむしろ感謝しなくては。


「ねぇねぇ聞いてよ。旦那様のご病気の噂は知っているでしょう?」

「え、ああ、はぁ…まあ」

私は曖昧に適当に相槌を打った。

「それがね、どうやら全く健康らしいのよ。おかしいと思わない?あんなに太っていて。私はね、リリア。40歳を超えて未だ結婚に夢がある伯爵よ?きっとそろそろご病気で死ぬのだわって、そう思っていたわ」


(お姉様は何を言っているの?)


「誰が見たってあのお体で長生きすると思えないじゃない?完全に誤算だわよ。きっとすぐに亡くなって、莫大な遺産が手に入って、そうしたら好きに遊べるじゃない、そんなふうに思ったの」

あんまりキョトンとした顔で言うので真意を疑う。

「本当にそんなふうに思われて結婚なさったのですか?それではあんまりカールライヒ伯爵がかわいそうでは…」

「あら、じゃあ返しましょうか?」

借りていた本を返すみたいな軽々しさに、私はギョッとして何も言い返せなかった。

姉はどんどんと話を続けた。

「だって元々はリリアが婚約していたんだものね。うーん…何も問題はないわよ。私には過度な贅沢だったわ。夕食がいくら豪華だって入る胃袋に限界はあるし。それに別にお金が好きに使えるわけじゃないのよ!?いちいち欲しいものを旦那様に言わなければならないのよ!?それってちょっとつまらないでしょう?」

「そうは言っても、お姉様が望まれてご結婚されたのでしょう!?」

「やっぱり取られて嫌だったのね。ごめんなさいね、私一度は死ぬほどの贅沢を味わってみたかったの。思ってたのと違ったわ。それにやはり夫の容姿も大事だと気づいたわね。腕を組んで歩きたくないの。汗で湿るのよ?」

姉ははあとため息を吐いた。

「お姉様、そんなにお嫌ならばお父様とお母様に相談されたら良いですわ。私にカールライヒ伯爵を返されても困ります。ヘイリーハイト様と幸せに暮らしておりますから」

なんとかそう言い切ると、姉は「ふうん」と言って私を見た。



そんな姉妹の一悶着の中、旦那様達は思いもよらない話し合いをされていた。

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