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どうして僕は (ヴァンルード侯爵視点)

ロイド=ルイド製の美しい刺繍が鮮やかな、セットを着こなし、緊張しているのか、怒っているのかよく分からない顔のレントバーグ子爵と

ジャン・ウエスティンの特徴的な襟がよく似合う、にこにこしているけれど、腹の内が読めないレントバーグ夫人が目の前に座っている。


(流行りを着こなしている…以前お会いした時は年齢の割に老けて見えたが)

そんなことを思っていると

「あら、ロイド=ルイドにジャン・ウエスティンの立ち襟なんてお父様もお母様も娘が嫁いでからお洒落を楽しむ様になったのねぇ!」

などとフォレスティーヌが嬉しそうに言うと

「ああ、うん、まあな」

父親の方は視線を逸らした。


(?)


僕はといえば緊張からか口が乾いていたので、老齢の侍女が淹れてくれた紅茶を半分ほど飲んだ。

渋みが気分をシャッキリさせる。


(少し濃いが、緊張している時はこれはこれで悪くない)

しかしフォレスティーヌには不服だった様で

「ミーレ!この茶葉の蒸らし時間は合っているの!?」

フォレスティーヌにミーレと呼ばれたその侍女は

「あらお嬢様、この前いらした時はアールグレイの蒸らし時間は三分と仰ってましたけれど」

「それでこんなに濃く出るはずがないわ!本当に計ったの!?」

「ええ、それはもうきっちり」

「どの時計を使って!?」

ミーレは困惑したような顔で砂時計をフォレスティーヌの前に置いた。

砂時計には刻印がされていたので、それを目を細めて読み上げる。

「ラ・マジック?……ん?…マジョリテ?…ラ・マジョリテ。何このブランド。信じられない!砂時計ならメンテインにしてよ!こんな訳のわからないブランドなんか使っているからキッチリ計れないのよ!旦那様、ごめんなさいね。無理して飲まなくていいわ」


急に話を振られて、僕は呆けてしまう。

「あ、いや、僕は…」

そんなふうに口籠る様をレントバーグ子爵に見てとられたが、言葉が咄嗟に出てこない。

子爵はふうとため息をついた後、右手で顔をぺろりと撫でた。

母親の方は

「ごめんなさいね、いつもこんな調子なんですの」

と言って笑う。


(何がおかしいものか。今彼女を宥めなければ、尾を引いてしまうじゃないか)


ミーレはすっかり顔色を悪くし、部屋を後にした。

それからフォレスティーヌは、出てくる料理の焼き加減、皿のブランド、茶菓子の並べ方から最後には父親の食べ方に至るまで良くそんなに思いつくなと思うほど文句をつけた。


(あれ、僕は今日なにをしにここにきたのだったか)


フォレスティーヌの喧しさによって、来訪の目的すらぼんやりとし始めた頃、レントバーグ子爵が「それで」と話を切り出した。

「カールライヒ伯爵の訃報が届いて驚いているんだ。こんなことを聞くのもなんだが、以前から体調は優れなかったのかね?心臓疾患の噂は嘘だったとフォレスティーヌ、お前から聞いていたが」


バンッ!


フォレスティーヌがテーブルを叩いて立ち上がった。

「何ですって!?死んだ?死んだの、あの人!?」


(カールライヒ伯爵が死んだ?なぜ、どうして…)

色んな思いが去来し、いつかの目眩のように血が逆流する感覚がした。


「いつ!?どうして!?私は聞いてない!」

「わ、私も詳しくは知らんよ…なんでもリリアが嫁いだ日に斃れたんだと伝え聞いているだけだ」

「何ですって!?」

「お前!どこに行くんだ!」

「リリアのところに行くのよ!あの子私に黙ってたのよ!」

「やめなさい!」「やめて!」

なんとか涼しい顔を装っていた両親は、遂に顔が真っ青になり、娘のドレスを掴んでまで止めようとした。


「冗談じゃないわ!何のためにあの家に嫁いだと思っているの!?あんたも何とかしなさいよ!役立たず!!」

喚き散らしているその顔はまるで狂犬のようだ。


(ごめんよ、フォレスティーヌ。君の機嫌を損ねて。君のためなら何だって叶えてあげたいのに)


僕はうまく言葉が紡げないでいる。


「私は一年もあの男の妻だったのよ!?それがリリアが嫁いだ日に死ぬなんて冗談じゃないわ!遺産は絶対もらってやるんだから!」

フォレスティーヌは相変わらず怒鳴っている。

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