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第28話 双子の神⑧

「課長が亡くなったことは確かなようだが、本当にお前たちは何もしていないのだな」


「ロイガーに話し掛けてというか祈り掛けていたら、身動きしなくなって、そのまま亡くなってしまったということです。他には何もわかりません」


 本山としても少し離れた場所で聞き耳を立てていたので大筋のことは判っている。課長が自ら申し出て、その結果こんな事態になったことも。


 問題はそれが自分の失態だと報告しなければならないどうか、に尽きる。そして、自らが率先してこの事態を解決しようという気はない。


「それで課長がロイガーと話した内容は全く判らないのか?」


「判る訳が無いでしょう。早瀬さんは祈りだしてから一言も話さないうちに亡くなられたんですから」


 上司の死よりも結果を持ち帰れないことへの落胆が激しいように見える。この手の人種は自らの存在以外は上司であろうとただの手駒としか見ていないのかも知れない。


「では、彩木君がロイガーと話した内容は判るのだろう?」


 上司の遺体のそばで職務を全うしようとする姿は決して褒められたことではなく浅ましく見える。


 仕方なしは浩太はさっき瞳が話した内容を掻い摘んで話した。但し、本人が言う通り瞳の主観が多分に入っている。それを踏まえておかないと解釈を間違う可能性もある。


「限られた、認められた人間以外が問いかけると死んでしまう可能性がある、という認識をしておかないといけないようだ」


 真偽は不明だが、確かにその可能性はある。


 エ=ポウはロイガーたちと直接的に意思疎通を成功させている訳ではない。勿論ロイガーに何か願いをする訳でも無い。ただロイガー、ツァールの封印が解けるように祈ることとトウチョ=トウチョ人の種としての存続を願うだけだ。


「私が今、課長と同じことをしようとすると、同じ目に遭ってしまう、ということで間違いないな」


 勿論本山は早瀬の轍を踏む気が無い。一同の前でそれを確認しているだけだ。場合によっては今いる誰かに証言してもらわなければならない場面が来るかもしれないからだ。


「それで、どうします?」


 浩太が火野に問う。火野の目的は達したとみていいのだろうか。浩太としては目的を達していないと感じている。但し、この場に居る人々を危険に晒す気は毛頭ない。


「早瀬さんのご遺体もあることだし、地上に戻るしかないだろう」


 火野はあっさり言う。トウチョ=トウチョ人の長エ=ポウとの邂逅。そしてその信仰の対象であるロイガーとツァールとの対話。中身は別として火野の目的は二つとも叶えられている。


 岡本浩太の目的はロイガーたちが人間にとってたちまち脅威となるかどうかを見極めることだったが『封印が解かれる日が近い』と表現された瞳の話をどう受け止めるかの判断に困っていた。


 やはり自分で直接ロイガーと接触する必要があるか、と思ったが綾野からはくれぐれも無理をしないよう釘を刺されていたので自重することにした。近いなら近いなりの対策を取るだけのことだ。


 その時だった。ずるっ、という音がした。


 その場にいた一同は何が起こったのか誰も気が付いていなかった。


 ずるっ。


 また何の音か判らない湿った音がした。


「なんだ、何の音だ?」


 誰もそれに答えられない。


 誰も気が付かないうちに静かに、ゆっくりとではあるが確実にそれは蠢き出していたのだ。


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