第23話 双子の神③
アラオザルの最下層に着いた。螺旋階段の果てだ。
底は広大な大地の様だった。但し地底の大地だ。ごつごつとした岩が敷き詰められたかのようだ。
螺旋階段の底なので当然天井は無い。見上げると、どこまでも続いているように見える。時間的には昼間の筈だが、星が見えるような気がした。
「着きました。ここが双子の神が御座すところです」
エ=ポウが告げる。双子の神が御座す、というのだが、その姿は何処にも見えない。
「長老、双子の神はどちらにいらっしゃるのですか?」
早瀬が問う。広すぎて少し暗いのだが双子の神の姿は何処にも無い。サイズ感は不明であるが、人型程度ではないだろうし、それ相応の大きさがあるはずだった。
「ああ、あなたたちには見えないのですね。ほれ、そこにいらっしゃいますよ」
エ=ポウが指をさす先には、やはり何も見えなかった。
もしかしたら双子の神など元々ここには居ないのだろうか。それとも本当にそこにいるのだが眷属であるトウチョ=トウチョ人以外には見えないとでもいうのだろうか。
「強大な力を持った何かが近くに居るのは確かです」
岡本浩太が冷や汗をかきながら呟く。それは火野も同だった。今まで浩太はナイアルラテホテップ、クトゥルー、ツァトゥグアとの邂逅はあったが、双子の神はまた別の意味で異質のようだ。
その場では一定の方向に風が舞っている。但し、少し強い程度で強風というほどではない。風に乗って何かの臭いがしてくる。それが、そこに何かが居ることを物語っている。それは確かに何らかの生きている臭いだった。
「我が双子の神は眠っておられるようです。起きておられるのであれば、そのお姿も見ることができるでしょうが」
眠っている間は不可視の存在になってしまうのか。他者から身を守るのであれば、それは正しい。
「今は眠っているのだとしても、いつ目覚められるかは判るのですか?」
双子の神の居る場所まで行ったが眠っていて実物を見る事さえ出来なかった、という報告は出来ないし、したくもない。
「うむ、今日のところは無理かも知れませんね。一度お休みになられると数か月はお目覚めになられないこともあります。ただ、一日と経たずにお目覚めになられることも。あなたたちは少し運が悪かったのかも知れません」
神はいつも気まぐれだということか。エ=ポウはそれを見越して、早瀬をここまで連れてきたのだろうか。
「なんとか起こしてただくわけには行きませんか?少しだけでもお目通りさせていただきたいのです、お願いします」
「私などが双子の神を目覚めさせることが出来る筈もございません」
「では、このまま帰ることになりますか?」
それまで黙っていた瞳が聞く。双子の神と話がしたかったのは早瀬だけではない。
「なんとも言えませんね。今この時にお目覚めになられることもあり得ます」
その時だった。何かが蠢いた。確かに何かの気配がする。さっきまで一定方向に舞っていた風が複雑な方向に舞いだした。但し、その強さは変わらない。これ以上強い風にはならないようだ。
そして、それは現れた。




