第20話 アラオザル⑩
報告を待っていたが、いつまで経っても側近は戻って来ない。もう一人別の側近を見に行かせたが、その側近も戻らなかった。
「長老、俺たちも見に行きましょう。何かお役に立てるかも知れない」
「そうか、ではお願いしようかの」
エ=ポウと瞳、真知子、亮太を残し火野と浩太が上へと登る。
途中、降りて来た時には大勢いたトウチョ=トウチョ人が一人も居ない。全員上に登っているのだろうか。騒ぎは収まっているのか、静かだった。
「やはり何かが起こっているようだな」
「そうですね。急ぎましょう」
長老の屋敷から街の入り口までの坂の内、約半分を超えたあたりで人の気配がした。
「人が集まっているな」
「行ってみましょう」
そこでは大勢のトウチョ=トウチョ人が集まっていた。真知子を残してきているので口々に何を言っているのか判らない。
トウチョ=トウチョ人をかき分けて上へと進む。騒ぎの中心はまだ上のようだ。
「お、火野君、やっと追いついた」
上の方から聞き覚えのある声がした。あまり聞きたくなかった声だ。
「早瀬さん、ここまで来れたんですか」
それは内閣情報室の早瀬課長だった。それに後ろに確か本山とかいう同じ内閣情報室の人間が居た。
「苦労したよ、火野君連れて行ってくれないんだから」
「連れて行くなんて約束していませんが」
後を付けて来ていたのは判っていたが、あの絡繰りを超えてくるのは偶然が重ならない限り無理ではないかと思っていたのだが。
「それで何をしに来られたんですか?」
「連れないねぇ。君たちをトウチョ=トウチョ人から助け出すために来たのに決まっているじゃないか」
火野と浩太は意味が解らないことを言われて呆気にとられた。早瀬は何を言っているのだろうか。
「助ける、って俺たちは別にこの人たちに捕まったわけじゃありませんよ」
「いや、君たちはトウチョ=トウチョ人に迫害されている。それを私たちは助けに来たんだ、間違いない」
その設定でアラオザルを壊滅に追い込む算段なのだろうか。無理があり過ぎると思われるが。
「何か別の目的がありそうですね。でももしそんな言い掛かりでアラオザルをどうにかしようと思っているのなら俺はあなたを許しませんよ」
「おいおい、脅すんじゃないよ、怖いな。君が言うと冗談に聞こえない」
「勿論火野さんは冗談を言う人じゃありませんよ」
浩太も追随する。アラオザルを見つけてしまったことで彼らが被害に遭うのは許容できなかった。




