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第19話 アラオザル⑨

 それから暫らくはアラオザルでトウチョ=トウチョ人と人間の係わりを教えてもらった。人間は亜人(本人たちは勿論亜人だとは思っていない)を下に見ているし、それを隠そうともしていないかった。


 トウチョ=トウチョ人を捕らえては見世物にしたり単純に労働力として使役したりしており、酷い扱いをしてきた。重い労働で死んでしまっても気にも留めないのだ。


 トウチョ=トウチョ人の歴史は人間からの迫害の歴史だった。それをエ=ポウは包み隠さずに伝える。自身が経験してきた六千年を超える迫害の歴史だ。それは壮絶だった。トウチョ=トウチョ人がほぼ絶滅寸前にまで追い詰められた時代もある。


 エ=ポウは自らのイメージを相手にそのまま伝えることが出来た。エ=ポウの記憶が映像として伝えることが出来る。それが多少改竄が生じていたとしても火野たちには判らない。


 エ=ポウが瞳の存在をどう利用しようとしているのか。若しくは、ただありのままに本当の事を伝えて火野の様に瞳に判断を委ねようとしているのか、浩太には判断が付かなかったが、浩太としても耳を塞ぎたくなるような悲惨な話が続く。


「火野さん、ずっとこれを繰り返すつもりですか?各地の迫害されている先住民族たちを回ったりして」


「それはある程度は必要だとは思っているが、それよりも地球的規模の話をしたいとは思っている。人類が宇宙というよりは地球に必要なのかどうか、という視点でな」


 浩太には火野が瞳を人類にとっては悪い方向に誘導しているように思える。もしそうなら、このまま瞳を火野の管理下に置いておくわけにはいかない。


 浩太から見ると瞳は特に何かの感情を交えてエ=ポウの話を聞いているようには見えなかった。出来る限り平易な感情を保ちながら話を聞くように努めているようだ。それは好ましいことではあるが、いつ負の感情に囚われてしまうのか、それは瞳本人にも判らない事かも知れない。


 亮太と言えばエ=ポウが日本語で話をしてくれているにも関わらず、特に関心のある様子はなかった。自らの役割も含めて瞳に全権委任している、と普段から公言しているのだ。


 そして、一通りのトウチョ=トウチョ人の歴史は聞くことが出来た。


「なんだか途中からは耐性ができたわ」


 瞳はそう感想を述べた。今のところ悲惨な話がそのまま自身の心に影響を及ぼしてはいないと自覚している。


「それが良いことなのか悪いことなのかは判らないけどね」


「それでいい。そのスタンスが必要なんだ。これからもその調子で行ってもらえばいい」


 その言動からは火野の真意は推察できなかった。


「こんなことでよいのか?一通りの我らの歴史は語らせてもらったはずだが」


「長老様、十分です。よく話していただきました。瞳にとっては有意義なお話となった事でしょう」


「それで?」


「それで、とは?」


「そなたたちは、我らの歴史を聞きに来ただけではあるまいに」


「いいえ、俺たちはただ長老のお話を聞きに来ただけですよ、他意はありません」


「火野さん、本当にそれでいいんですか?」


「岡本君まで何を言っているんだ、他意はないと言っているだろう」


 火野は頑なだった。浩太とエ=ポウの認識は共通している。トウチョ=トウチョ人の長老の話を聞きに来ただけの筈がない、という点で。


 その時だった。何か上層で騒ぎが起こっているのが聞こえてきた。何か揉めているのか大きな声で怒鳴っているのが聞こえる。何を言っているかまでは聞こえなかったが揉めているのは確かだ。


「何かあったようですね、俺たちでお力になれることがあれば何なりと仰ってください」


「うむ。上のことは上で対処するだろう。そなたたちは客人じゃ、構う事は無い、ゆっくりとしておるがよいわ」


 そう言うとエ=ポウは側近の者に様子を見に行かせた。トウチョ=トウチョ人同士の諍いなら問題ないのだが、そうではないなら少し厄介だ。火野たちが厄介ごとを招いたのかも知れない。一行は報告を待つのだった。 

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