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第1話 僻地への誘い

 昔ビルマと呼ばれていた場所があった。今はミャンマーと呼ばれ軍事政権がその国を支配していた。民主運動活動家は度々軟禁されていたが解放され一時は共和制になりかけた。が、またしても軍部が非常事態宣言下、政権を牛耳っている。


 ミャンマーの首都は海に近いのヤンゴン(旧ラングーン)から内陸部のネピドーに変わっていた。ネピドーはまだまだ発展途中の都市だ。


 遷都は急だったし、遷都の明確な理由も示されなかったが、実は占い師の助言による遷都だった、といった噂が絶えなかった。迷信深い為政者が軍部を指導している、ということはこの国にとって不幸なことだった。


 ネピドーからAH1(アジアンハイウェー)を北へ北へ進むとミャンマー第二の都市マンダレーに行きつく。Taung Tha Man Lakeの近くにはヤダナボン大学があり、グランドセントラルマンダレーホテルという大層な名前のホテルでも1泊四千円程度で宿泊できた。


 火野将兵は彩木瞳と桜井亮太の三人で旅を続けていた。関西国際空港を飛び立ち、まずはマレーシアのクアラルンプールに向かった。そこで一旦落ち着き体制を整えてミャンマーに入るのが最初の目的だった。


 クアラルンプールで十分な装備を整え山登りの訓練も積んで満を持してミャンマー入りしたのは日本を出てからすでに10か月が過ぎていた。


 ミャンマーは軍事政権下である。何が起こるか判らなかったので出来る限り街に滞在する期間を短くしたかった。ヤダナボン大学自然人類学科のセイン教授を訪ねたのは綾野祐介の紹介だったことと、支援してもらえる可能性のある重要人物だということだったからだ。なにより一番はセイン教授は日本語が話せた。火野や彩木の英語力ではなかなか乗り切れない場面も多い。


「サヤセイン、本当にありがとうございます。助かりました。」


 目的地までの手配を含めて殆どの事をセイン教授に頼んでしまっていた。彼がいなければ三人で途方に暮れていただろう。


 セイン教授の名前は本来もっと長いのだが省略してサヤ(敬称)セインと呼んでいた。ミャンマーは珍しく姓のない人が多い国だった。セインというのも火曜日生まれという意味くらいだ。


 セイン教授は専攻学科とは関係ないが綾野祐介たちの活動にとても関心を持っており支援も早い段階で申し出ていた。セイン自身は大学教授だがセインの家はミャンマーでも有数の名家であり軍部ですら手を出せない存在だった。広大な農地とヤンゴンに多くのビルやホテルを所有していた。マンダレーにはそれほどの数のビルを有している訳ではなかったが火野たちが教授の紹介で移ったホテルも一族の物だった。


 日本では元号が変わり代が継がれた。英国では女王陛下が逝去された。綾野は「そうとうな痛手だ。」と溢していた。活動資金が圧倒的に足りないのだ。


「君の存在や目的はアヤノから聞いている。そちらの少女や少年のこともね。私は人類の味方、という立場ではあるが、とても君たちが人類の敵だとは思えない。どんな結論を出すにしろ、全ての人類が幸せになれれば、と私は願って止まないのだよ。支援も君たちが出す結論のための様々な体験に関してのものだと受け取って欲しい。」


「お言葉に甘えさせていただきます。」

 

 綾野のプレゼンが功を奏していたのだろう。教授は何の条件も付けずにただ支援を約束してくれた。一つだけお願いとして申し出たのは、「帰りにも寄って欲しい。」とただそれだけだった。何を見たのか、聞きたいのだそうだ。それくらいは当たり前だと火野は帰りに立ち寄ることを約束した。但し、支援者と言えども話せないような体験をしてしまう可能性は十分あった。火野はセイン教授を騙すつもりはなかったが結果的には隠してしまうことになっても仕方ないと思っていた。


 そうして三人はセイン教授の支援の下、マンダレーからランクルで約5時間ほど離れたシャン州の州都タウンジーへと向かうのだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 面白いです! [一言] 追ってまいりますので、今後も頑張ってください!!!
2023/05/19 23:05 退会済み
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