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下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオ大賞

ピンクのランドセル

作者: 夏月七葉

 同級生の一人に、ピンクのランドセルを持っている女子がいた。当時はまだ赤と黒が主流で、他の色のランドセルは非常に珍しかった。

 ピンクのランドセルの彼女は容姿が可愛く、性格も明るかったことも相俟って、クラスの女子の憧れの的となっていた。かくいう私も彼女に憧れた一人で、赤という色は決して嫌いではないが、やはりピンクの魅力には敵わなかった。


 ある朝、いつものように登校すると、私の教室がちょっとした騒ぎになっていた。女子の甲高い悲鳴が廊下にも響いて、他クラスの生徒も様子を見に大勢集まっていた。

 教室を覗いてみると、ピンクのランドセルの彼女と、彼女と仲の良かった女子三人組が対立して言い合いになっているようだった。近くにいたクラスメイトに話を聞くところによると、どうやら些細なことがきっかけで喧嘩になってしまったらしい。

 四人の気迫が凄まじくて周囲は止めに入ろうにも入れない様子だが、これだけの騒ぎになっているのだ。教師が駆けつけて、事が収まるのも時間の問題だろう。

 私は教室の入り口付近で、それを待つことにした。

 ところが、事態は急激に悪化したのである。

 机の上にあったピンクのランドセルを、三人組の一人が奪い取ったのだ。持ち主である彼女が慌てて手を伸ばすが、ひらりと躱されてしまう。そして彼女を弄ぶように、三人の間でキャッチボールよろしくランドセルを回し始めた。

 いい加減、彼女も頭にきたらしい。勢いをつけて、ランドセルを持っていた女子に体当たりをした。

 その場所がいけなかった。あっと思う間もなく、女子の背後で開け放されていた窓から二人の影が落ちる。

 その瞬間は、まるでスローモーションのようにゆっくり見えた。誰も何もできず、ただ棒立ちになる。

 誰かの悲鳴が耳に響いた。


   *


 教室があったのは、二階。窓の真下に植え込みがあったのが幸いして、三人組の一人は腕の骨折だけで済んだ。

 しかし、彼女の方は運が悪かったらしい。植え込みから頭だけが飛び出してコンクリートに打ちつけ、当たり所も悪かったようで、そのまま帰らぬ人となった。

 それ以来、学校には一つの噂話が囁かれるようになった。


 ピンクのランドセルで登校すると、頭を血だらけにした少女が現れて校舎から突き落とされる。


 真偽のほどは判らない。けれどあの事件があったのは事実であり、彼女が未だにこの世を彷徨っているのだとしたら、あの時何もできなかったことを私は後悔するしかなかった。

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