第四章 空を泳ぐ雲は橙色に染まる ~告白~
五
遅い夕食後、司が部屋へ戻ったのを見計らい、りんはハナに今日のことを報告した。
「ハナさん、どうしよう。どうすればいい?」
「覚悟を決めるんだね」
「なんの?」
「言っただろ、結婚を本物にすればいいんだって」
「無理だよ。だって、私は誰も幸せになんかできない。一生一人でいなきゃいけない人間なんだよ」
「司はなりに良く似てる。一度決めたら曲げない子だよ」
「手紙を送るだけなら私にもできるけど、ずっと一緒にくらすのは無理だよ。ましてや結婚なんて絶対にできない」
りんがそう吐き出したとき、リビングのドアが開いた。
「りん、ちょっと出かけないか?」
ドアの向こうに立っていたのは、司だった。りんは司が今の話を聞いてしまったことを確信した。全身が今にもふるえ出してしまいそうになる。
「行ってきな、りん」
りんが立ち上がり、リビングの棚から愛車の鍵を取った。
「どこへ行けばいいですか?」
玄関を出たところで、りんが尋ねた。怖くて司の顔を見ることができない。
「どっか広いとこない?」
司がそう答えたため、りんは星が良く見渡せる山間の駐車場へ車を走らせた。そこは小さな展望台に面する場所で、町内の夜景が一望できる。この季節であれば、先客もないだろう。
二人は一言も話さず、その駐車場で降りた。
「りん、ここで待っててくれないか?」
司がりんに言う。りんはわけがわからないまま、首を縦に振った。
コンクリートで舗装された駐車場には誰もいない。ここは街灯が少ないため、夜空に浮かぶ星もくっきりと映えている。星に詳しければ気がまぎれたかもしれない、とりんが悔やんだ。なぜこんなことを考えてしまっているのか、それさえもわからない。司は広い駐車場の端にある展望台の前まで走って行ったようだ。
「りんは俺のことずっと応援してくれてたんだな! そうなんだろ?」
遠くからでも、司の声がはっきりと聞こえる。まるで夢のような景色だった。町の灯りがきらきらと輝き、星はちかちかと瞬き、司がりんの名前を呼んでいる。
「好きだ、俺と結婚してくれ。言っとくけど本気だから。俺はもう役者には戻らない。ここでハナさんとりんと三人で生きていくって決めたんだ」
りんがいくら目を閉じてもこの夢は醒めなかった。こちらへ戻ってきた司は息をきらせている。
「聞こえた?」
「はい」
「返事は?」
「私はでき損ないですよ。バツイチだし、傷もあるし、性格も見た目も悪いし。それでも私がいいんですか? 一緒にいたら不幸になるかもしれません」
「不幸にはならない。そんなふうに自分を卑下しちゃダメだ」
「どうして……ずるいです。こんな未来、想像もしてなかった。希望を持ってしまうじゃないですか」
「持てよ。俺がりんの希望になるから」
「私は男の人が怖いんです。良くなってきたとはいえ、まだ克服できるかもわからないですし、人並みには生きられないと思います。それでもですか?」
「うん」
りんは一度俯いてから顔を上げ、最後の切り札を出すために話し始めた。




