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第四章 空を泳ぐ雲は橙色に染まる ~一歩~



  四


 土曜日。りんと司が参戦したブラックガンビットのライブは大盛況に終わった。ライブハウスの中には、まだその熱が残っている。

「すごかったな」

 満足げな表情を浮かべた司が言う。

「はい」

 二人はりとから言われていた通り、誰もいなくなったホールでバンドのメンバーを待っていた。そこにりとも合流する予定だ。


「りん、大丈夫か? 結構男の人いたみたいだし」

「大丈夫です。周りはほとんど女性でしたから」

 司が横にいたおかげで他の男性を意識している暇などなかった。もしそう告げたら、司はどんな顔をするだろう。これもまた意味のない思索だ。


「初めまして、吉田りとです」

 話していると、疲れた様子のりとが現れた。りとはいわゆるタテノリが苦手で、夫であるジンのステージでも緊張してしまうらしい。

「初めまして、鈴谷司です。チケットありがとうございました」

「こちらこそ、お願いを聞いて下さってありがとうございます」

 挨拶を交わしているうちに、バンドメンバーがこちらへ歩いてきた。


「鈴谷さん、初めまして」

 司の前で個性的な三人が頭を下げる。左から、ヴォーカルのヒデ、ドラムのケン、ベースのジン。三人とも同じ灰色のシャツに赤いチェックのネクタイをしているが、着こなしは様々だった。ヒデは髪の色が赤く、コンタクトをしているのか目の色もお揃いだ。ジンとケンは色違いのボンテージパンツを履いている。ヒデは四人全員の名刺を司に渡した。


「鈴谷さん、あの、握手して下さい。実は深夜番組の司会されてたときから、ずっとファンなんです」

 司に向かって、無表情のままのヒデが両手を差し出した。

「マニアックだね」

 ヒデと握手を交わしながら、司が言う。

「そのあとの映画もドラマも舞台もCMも、全部チェックしてました」

「どうもありがとう」


「すみません、ギターのテツはちょっと嫁さんに呼ばれてまして」

 ケンが説明する。

「鈴谷さん、実は今度のライブイベントで司会をしてもらいたいんです」

 そう切り出したのは、ジンだった。


「あれ、今日司会の人いなかった?」

 司が不思議そうに聞き返す。

「今日で引退するそうなんです。別に仕事を持っている方なんですけど、そちらも定年退職されて。奥さんとヨーロッパ旅行をしたいと言ってました」

 淡々と続けるのは、ケンだ。


「次のイベントは地元の歌手が集まるんです。演歌もジャズもポップスも、なんでもありの。そこに鈴谷さんがいてくれたら完璧です」

 無表情に見えたヒデの瞳は、きらきらと輝いている。

「実は二週間後なんです。客層も今日とは全然違うんですけど」

 ケンが申し訳なさそうな表情を浮かべた。


「いいよ」

「え?」

 三人が一斉に首を傾げる。

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