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第一章 飛べない鳥たちは籠の中でさえずる ~決心~

 りんの両親はどちらも優秀な子どもにしか興味がなく、不器用なりんをすぐに見放した。一緒にくらしていた父方の祖父母だけがりんの味方だった。祖母は三才のときに、祖父は九才のときにそれぞれ亡くなっている。


 それ以降、唯一の支えは中学の部活動で知り合った親友・後藤彩愛さあの存在だった。りんは親友を得て初めて、自分の居場所を見つけられた気がした。


 高校卒業後、りんは就職とともに家を出て一人ぐらしを始めた。結果的にそれが引き金となり、両親とは一度も会っていない。結婚した岡田とは二十歳のときに職場で出会い、つき合って二年目に結婚を決めた。しかし、それから三年後の春、順調に思えた結婚生活は岡田の浮気により破綻してしまう。


 問い詰めると、激高した岡田はりんに暴言を吐くようになった。自分の浮気はりんが仕事を続けていたせいだと迫り、勝手に退職願を出した。二人の信頼関係はひび割れ、修復は難しくなっていく。結婚したばかりの彩愛に相談することはできず、岡田を知っている会社の同僚たちには信じてもらえなかった。


 孤独のあまり絶望したりんは、小さい頃一度会ったきりのハナに助けを求めた。二十年以上も連絡を取っていなかったため、藁にもすがる思いで、と言ったほうが正しいかもしれない。一度だけ連絡を取ってみよう、と考えたりんは、ハナにハガキを送った。「お元気ですか?」とだけメッセージを綴り、携帯電話の番号を書いた。


 もしもこのハガキが届かなかったら、そのときは……光が見えない場所にいたりんは、そこまで覚悟して自分の住所は書かずに投函した。


 数日後、りんの携帯電話に見知らぬ番号から着信があった。市外局番でなんとなくそうだとは思ったものの、間違い電話の可能性もある。りんは冷静を装いつつ、通話ボタンを押した。


「もしもし、りんかい?」


 祖母はまだ若く「おばあちゃん」と言われるのを嫌がった。ふいにそれを思い出す。


「ハナさん?」

「大きくなったねえ」


 そう言われたりんは、こみ上げる涙を拭えなかった。泣きながら、両親とのこと、上手くいかない結婚生活のこと、ハナに連絡した経緯を途切れ途切れ話した。ハナは時々頷きながらそれを聞いている。


「部屋なら空いてるよ、すぐに逃げてきな。あとは私がなんとかするから」

「ありがとう、ハナさん。ちゃんともう一度話してみる。離婚できたら……そっちに行ってもいい?」

「いいよ。そろそろ一人ぐらしも寂しくなってきたところだからね。年かねえ」


 数日後、りんは腕に大きな火傷を負う。しかし、皮肉にもそれが岡田の反省を呼び、離婚を成立させることとなった。痛む腕を引きずりながら、りんはハナの元へ転居した。ハナとくらすようになってから毎日笑顔になる瞬間があり、些細なことが幸せだと思えた。だからりんはこれ以上の生活を望んだことはない。


 もしもここに司がやってくるとしたら。自分がハナにしてもらったことを、司に返せるかもしれないのだ。もちろん、自分には何もできないかもしれない。だがここにはハナがいる。家族がいるのだ。司の支えにはなれなくても、ハナの支えになることはできる。


 りんは心を決め、開いているドアからリビングに入った。

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