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第一章 飛べない鳥たちは籠の中でさえずる ~運命~



「もちろん私は構わないよ。けどね、そんなにひどい状態なら、ちゃんと入院させたほうがいい。だいたい、長いこと俳優やってるのに助けてくれる知り合いの一人もいないのかい? 急な環境の変化は体調を悪化させることもあるんだよ」


 一度会話を認識すると、耳が二人の声を追ってしまう。


「まだ正式に発表されてはいませんが、母のように慕っていた女優さんが亡くなって、司は心のより所もなくしてしまいました。その上、どこへ出かけても必ずやっかいな記者がついてくる。自宅はもちろん、行きつけのお店やかかりつけの病院も知られていて、今も張りついているんです」


 りんは思わず声を上げてしまいそうになり、口元を押さえた。


「もう別れたんだから関係ないじゃないか」

「そう簡単な話ではないんです。相手の女優の名前は伏せていますが、司が結婚することはSNSで発表してしまっています。彼女の不倫があかるみに出るのは時間の問題ですし、つき合っていた証拠を掴まれたらすぐに記事が出るでしょう。そうなったら、もう二度と役者には戻れない」


「どうしてそう思うんだい? 司が不倫してるわけじゃないのに」

「今、芸能界は一度のスキャンダルが一生の傷になってしまう世界なんです。たとえ舞台俳優でも司はテレビに出ていましたし、名前を検索すれば永遠にその過去がつきまとう。不倫されたかわいそうな俳優、もしくは不倫を知りながらそれを許していた俳優。どちらかがずっとイメージとして残ってしまう。役者としては致命的です」


「それは努力ではどうにもならないと?」

「そうです。売り方はたくさんありますが、世間のイメージだけは私たちにも操作できません」


 ふらふらと部屋を出たりんは、廊下をゆっくりと進んでいった。


「だからって嘘は良くないよ。ファンの人たちを悲しませることになるじゃないか」

「一度引退するとなれば問題ありません。多少の変動はあっても、結婚して主夫になると発表すればむしろ好感度は上がるはず。一般人に戻るのなら記者もあきらめざるを得ませんし、少しでいいんです、一年、いや半年……三ヶ月でも。コメントを出してファンの方たちに説明します。できる限り誠実に」


「りんは結婚で辛い思いをしたんだ。りんに対しては誠実になれないのかい?」

「申し訳ないです。だから、私が代わりにお願いにきました」


 まさか、という思いがりんの感情にブレーキをかけている。先ほど再生したドラマ『W ~ダブル~』の主人公、紙縒翼。あの役を演じていたのが、一ノ瀬司という俳優だ。


 本名は鈴谷司。司はハナの次女、なりの一人息子である。本来なら二人はいとこにあたるのだが、なりが養子であるため、りんと司は血の繋がりがない。その事実を告げられたとき、りんは運命のようなものを感じた。家族がいないも同然だったりんはこの小さな繋がりに感動した。

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