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第二章 愛の唄を奏でるコスモスは ~作戦~



  四


 翌日の夕方、休日出勤だったりんは定時に帰宅することができた。ハナはすでに準備に取りかかっているだろう。もしこの作戦が成功したら、司はおかずも食べてくれるようになるかもしれない。


「ただいま」

「おかえり、りん早いね」

 ホットプレートを手にしたハナがキッチンから出てきた。数年前に買ったものだが、手入れが行き届いているおかげでまだまだ使えそうだ。

「着替えたら、野菜切ってくれる?」

「うん、わかった」


 りんは部屋へ行き、すぐに着替えを始めた。制服はすでに冬物に衣替えしている。もう少し寒くなったら、上に羽織るカーディガンを出さなければならない。あまり服を持っていないりんでも衣替えは面倒だった。司の荷物はかなり少なかったが、冬服は入っているのだろうか。


 そこまで考えて、りんは顔をしかめた。一体何を心配しているのだろう。そもそも、冬服を着る前に司は出て行くかもしれないのだ。小さくため息を吐いてから、キッチンへ向かう。


 りんが野菜を切り終えてリビングへ戻ると、ハナはすでにラム肉を焼き始めていた。香ばしいにおいが二階へ上っていく。


「美味しそうなにおいだろ?」

「うん」

 そこで、階段を降りる音がした。しかし、開け放たれたリビングのドアからは司の姿は見えない。

「ハナさん、司さん降りてきてない?」

「ふふふ。さて、二皿目、焼きますか」


 ハナが次々とロール肉を焼いていく。あまり食べ物に興味がないりんだが、ジンギスカンは好物だった。あっさりとしたラムの味は食べやすく胃もたれしにくい。北海道の別の地域では味つけ肉を焼くところもあるのだが、りんは生肉を焼いてからたれをつけて食べるのが好きだった。


 余談だが、北海道ではジンギスカンと焼き肉が同じ意味を持つ地域が存在する。そこでは、祭りや花見などの行事にジンギスカンを食べることは常識だ。食育の一環として、ジンギスカン遠足をする学校もあるらしい。


 ホットプレートの上はラム肉と野菜でいっぱいになっている。タマネギ、ピーマン、ニラ、シラタキ、コンニャク。ハナの家で初めてジンギスカンを食べたとき、りんはこの世の中にこんなに美味しいものがあったのか、と思った。


「りん、だいたい焼き終わったから、司にいつものおかゆ持っていって」

「この肉は持っていかないの?」

「そうだよ。おあずけ作戦だ」

 ハナがにやりと笑う。

「あくまでも自分から食べたくなるように仕向けるの。つい降りてきちゃうくらい食べたいと思ったら、何かしら反応があるはずだからね」

「わかった」


 言われるがまま、お盆におかゆと味噌汁、漬け物を乗せる。ゆっくり廊下へ出ていくと、慌てて階段をかけ上る音がした。やはり司はここまで降りていたのだろう。


「失礼します」

 いつものように、りんがドアを三度ノックする。

「ここに置いておきますね」

 何も話さずに戻ろうとすると、


「今日、ジンギスカンなのか?」


 という司の声が聞こえた。


「はい、ハナさんと私の二人分しかないんですけど」

「そうか」

「じゃあ、失礼します」

 司はじっとお盆を見つめている。そっとふすまを閉めてから、りんが階段を下りた。


「ハナさん、大成功かも。司さん、食べたそうだった」

「本当かい?」

「明日は三人分にしてみる?」

「そうだね。もう一つ提案があるんだけど」

 残りのラム肉をたいらげながら、りんはハナとともに次の作戦を練った。

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