いらない子
周りと違うと感じたのは物心がつく頃からだった
皆んなは魔法陣を何も考えなくとも起動させることができた
部屋の明かりを灯すことも、肌寒い部屋を暖かくするのもこの世界は魔法で全部解決できる
現代魔法と呼ばれる今の魔法は魔法式を組み立て陣を書く事で使うことができるようになっている
日常生活にも多種多様に活かされており、例えば料理をするとき食材に火を通すためコンロに火をつける時には魔法式が組み込まれたつまみを回す
魔法陣は誰でも書けるわけではなくて、魔法式を理解し組み立て、構成する魔法師がいて初めて成り立つのだ
パシッ
頬が熱い
「何でこんなこともできないの!?ヴァイオレット家の恥だわ。せっかく育ててあげているのに魔法陣の作成はもとより魔法の行使すらできないなんて。カイルもカイルよ!何でこんな子育てるのよ!?」
「落ち着けイリス。こいつは魔法は使えんが家のことを手伝わせるには十分だ」
父も母も私には厳しい
2つ上の兄ケイトはとても優秀で魔法学校の主席だ
3つ下と6つ下の妹達ももう既に魔法陣の作成もできるようになってきている
何もできないのは私だけ
「サラ、お前は未だに魔法が使えないこの家にとっては必要ない子供だ。
なのにここにおいてやっている理由は分かるな?
早く書斎へ行け。さっさと仕事をしてくるんだ」
「はい。お父様」
何もできない私をこの家に置いてもらえてるだけでも感謝しないと……
それでも苦しいものは苦しいから、どうしても俯いてしまう
そんな私の横を小さな影が2つ通り過ぎる
「父様ー!母様ー!」
「エリカ!マリナ!」
「こらこら2人とも!お父様はお忙しいのだから無理を言っては行けませんからね?そんなにはしゃいでどうしたのです?」
「今日も学校で魔法の式の組み立て方を教わったのよ!それでね、今日初めて自分で書いて使うことができたの!」
「そうか!エリカもマリナも優秀な子だ!偉いぞ!」
父に抱きつく2人はしたり顔でこっちを向く
お願いだからこっちを見ないで……
ヴァイオレット家はネリーフォリア帝国の北部を統治する公爵家だ
北の大国から自国を守る為の大事な防衛線の役割を果たしてもいる
そんな公爵家の落ちこぼれだもの父も母も私を見てくれるわけもない
真っ暗な書斎へ向かいまず初めにすることは部屋の窓を開けて月明かりを取り込むこと
まだ冬の寒さが残る夜
寒いけれどこうしないと明かりが入ってこないから文字も読めなくなってしまうから我慢するしかない
窓の外に広がるのは北の森
夜は魔物がうろつき子供1人で入ればたちまち襲われてそれで終わりだ
「こんなところでも我慢するしか……」
誰にも聞かれることのない独り言は外へ消えて行く
そしてお父様から言われた書類を纏める作業をする
隣国の文字で書かれた書類の数々
お父様は魔法が使えないのならばせめて他国の文字を読み家族が分かりやすいように訳せと言う
この家の後継者の兄様や可愛い妹達のためにこれくらいの簡単な作業できるようになれと夜な夜な渡される書類は膨大な量で朝までに終わらないこともしばしばだ
書類の整理をある程度終えて窓の外を見ると東の空が少し明るくなってきていた
「今日はとりあえずここまでにして、朝の支度をしないと……」
窓を閉めて書斎を出て向かった先は中庭にある井戸
キッチンの蛇口を開けても私の場合は水が出せないから井戸から自分の手で汲むしかない
家の執事やメイドは私をいないものとして扱うから自分のことは自分でしないといけない
ご飯だけはあまり物を貰えるから助かってはいるがそれ以外は空気のように扱われる
そんな毎日を過ごして毎日が過ぎていき今日もまた同じ1日が終わると思っていた
その日は夕食をもらい損ねてキッチンに何かないか見に行こうと廊下を歩いていた
「……誰かの声が聞こえる」
少し応接間の扉から明かりが漏れ、お父様とお母様の話し声が聞こえた
「カイル、いい加減あの子も13歳になるのだしこの家におかなくても良いのではなくて?」
「仕方ないだろう、王室との取り決めで15歳までは最低限面倒をみればトウヤを引き摺り下ろすことができるんだから」
「だからと言って自分の子供でもないましてや魔法の才能すらない忌み子を育てなければならないのですか!ケイトやエリカ、1番下のマリナですら魔法が使えるのに!」
……え
頭の中が真っ白になった瞬間だった
気づいたら家から飛び出して北の森へ逃げ出してしまった