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勇者王ミーナ

引退を踏み止まるのに何が一番大切か。

それは愛すべき存在だろう。

という事で、王達の元を視察して行こうと思う。

レンとは十分に遊んだから他の王達が目標だ。


「ミーナ、祭りの日はレンをありがとうな。」


帝城の管理者である勇者王ミーナの元へ行く。

あの時は祭りにも関わらず、拗ねてしまったレンの相手をしてくれたのだ。

二人は仲が良いとは言え、私からも感謝は必要だろう。


「勿体無いお言葉、ありがとうございます!」


うやうやしく膝をつき、頭を下げて右腕で肩を抱くような姿勢になっている。

劇場でよく見る騎士が授爵する時のような格好だ。

場所は玉座の間、入口の扉から見事な赤絨毯がひかれ、玉座へと伸びている。


壁際には大きな剣や斧を持ち、見事な装飾のつけた騎士達が並んでいる。

遠近感が狂ってしまうが、あの騎士達は全て巨人で、私の十倍近い高さが有る。

天井の高さがその数倍は有り、壁に飾られた装飾品も全てが大きい為、小人になった気分が味わえる。


「巨人達も鍛えているようだな。以前よりもはるかに強くなっている。」


昔は力が強いだけの木偶でくの坊とも呼ばれていた存在だ。

今は鑑定するまでも無く、その立ち姿から威風を感じられる。


(愛すべき配下が更に優秀な部下を持つ。最高の流れだ。)


ミーナの成長振りを感じられる。

この子は昔からヤンチャな子だったが、やはり、やれば出来る子だったんだな。


「ありがとうございます!ウチも頑張りました!やっぱり時代は愛ですよ!」


ミーナが顔を上げ、そのまま腰に抱きついてくる。

もう形式ばった挨拶は終わりみたいだ。

年齢的には立派なレディなのだが、幼い容姿に引っ張られているせいか結構子供っぽい。

レンとは違い子供特有の残酷さを持っていたりもするので、少し注意が必要だ。


基本的にミーナには帝城の管理と、冒険者達の取りまとめ役をして貰っている。

この城は帝国の首都アノンの城で有り、唯一無二の神聖な城だ。

だが私は他にも幾つか城を持っているので、面倒な管理は部下に任せているのだ。


玉座の間もミーナが座っていた玉座の後ろが一段高くなっており、本当の玉座、つまり私の椅子が置いてある。

今は壁で見えなくなっているが、必要な時はすぐに使える。

前に引退を宣言した時もそこに座っていた。

ミーナは私の椅子の隣に自分の椅子を持って来ようとしているが、今まで成功した事は無い。


冒険者を管理しているのはミーナが元冒険者だからだ。

正確に言うと元々は人族の国の王族で、国が潰れた後に冒険者として活動していた。

その頃のミーナは大した強さを持っていなかったが、色々有って配下となり、私の元で神の領域へと至った。

『勇者』と名乗るようになったのもそれからだ。


冒険者用のギルドも有るが、私の国では大した力を持っていない。

ギルドに裁量権を殆ど与えていない為、王が代わりに管理しているのだ。

それが原因で他国から冒険者が入ってくる事は少ないが、問題になった事は一度も無い。



「異世界人によると、彼らの世界では大昔に『ビキニアーマー』なるものが流行ったそうです!早速ウチも取り入れてみました!!」


ミーナの叫びと共に、巨人達の方から金属音がする。

振り返ってみると、皆鎧を外してビキニのようなものをつけている。

アーマーというからには金属製なのだろうか。


巨人と言っても中身は若い乙女達だ。

皆真っ赤な顔で立っている。何人かは手で胸を隠しているようだ。


「隠すな!!貴様らは一切恥じ入る必要は無いはずだ!その鍛え上げられた肢体を我が君に見せつけよ!!」


ミーナの叫びで吹っ切れたのか、隠すのを止めたようだ。

見事に腹筋が割れており、筋肉質で芸術品とも言えるような肉体だ。


「気に入りましたなら、どれか…いえ、全員連れて行きましょう!縮小化ミニマムの魔法をかけて、酒池肉林の宴でもやってやりますか!!」


ミーナもローブを外し、自らのビキニアーマーを見せつける。


「勿論ウチも参加します!ああ!血がたぎりますね!」


思わず頭を抱えたくなる。コイツはちっとも変わっていなかったようだ。


たぎらん。服を着なさい。」


いつも付けてる白銀の鎧はどうしたというのだ。

あの鎧はデータから生み出したExランクの防具で、とても自作出来ない代物なんだぞ。


「あ!野郎の方が良かったですか!?ウチは趣味じゃ無いんですが、一応ブーメランパンツ履かせて控えさせてありますよ!」


ミーナの叫びに壁際から落胆の声が漏れる。

そして壁の向こうから雄叫びが聞こえてきた。


「そっちは本当にいらない。すぐに服を着せときなさい。」


急いで止める。

癒されに来たはずが、何でこんな恐怖を感じないといけないんだ。


ミーナにローブをかけ頭を撫でてやる。


「ビキニアーマーは禁止。皆服を着なさい。」


「ぇー。百人集めて裸踊りさせようと思っていたのにー。」


ミーナの言葉に一瞬手が止まるが、何も無かったようにまた撫で始める。

そんな私を見てミーナがニヤッと笑う。


「我が君ぃー。体は正直みたいですよー?楽になっちゃいましょうよー。」


訂正だ。コイツは年々酷くなってる気がする。

誰だ、やれば出来るとか言った奴は。


「ねーねー。酒池肉林。裸踊り。楽しいですよー。」


「…そうだな。」


「!流石我が君!!話が分かる!!」


「お尻ぺんぺんの刑だな。」


「ぇ……。」


私の言葉にミーナが停止する。

ふ…。ミーナ君、君はやり過ぎてしまったのだよ。


「我が君ぃー?そんなのよりもっと楽しい事有りますよー?」


ミーナの言葉を無視して近づいて行く。


「今なら何と!街の冒険者達も全員付けますよ!大特価ですよ!」


そのままミーナを抱え膝の上にお腹を置く。


「おおおおお前ら!勇者王の危機だぞ!代わりにお尻をおおおおお!!」


言い切る前にぺシンとお尻を叩く。

神の力によるお尻叩き、史上初かもしれないな…。


「うあ!我が!君ー!」


何度か叩いていたら静かになってしまった。

顔を覗き込んで見ると涙目になっている。


ビドイよー。ヂョッド調子ヂョヴジに乗っだだげじゃんーー。」


いや、泣いてしまったようだ。

少しやり過ぎた気もするが、ミーナは際限無く調子に乗って行くからな…。


叩くのを止め、頭を撫でてやる。

こうしていると本当に子供のようだ。


『もうしない?』と目で聞いてくるので頷いてやる。

途端に笑顔になり体を動かしてくる。


「もー、我が君の愛情表現は激しいんだからなー。ウチじゃ無いと受け止め切れないよなー。」


また叩いてやりたくなったが、巨人達が心配そうな顔をしてるので止めておいた。

本当に良い部下に育ったものだ。


玉座の間には見た目の問題もあって巨人族を配置しているが、ミーナの部下はそれ以外にも多い。

善性寄りの人族は大体がミーナの管轄になる。

冒険者は管理しているだけなので部下という訳では無い。

中には冒険者を辞めて部下になったりする者も居るが、冒険者の中では珍しい存在だ。


この国では冒険者の活躍できる場が限られているので、有能な人材は最初から国に仕える。

冒険者になる者は兼業でやったり自由を重視する者が殆どだ。


「アイツらが居ればなー…。折角我が君の前で裸踊りをさせてやるって言ってるのに、嫌がって逃げたんですよ!?不敬ですよ!ふけー!」


アイツらとはミーナの冒険者チームのメンバーだろう。

戦士、魔法使い、踊り子の三人で、ずっと昔からミーナと行動を共にしている。

ミーナの破天荒な行動の被害者で、職業も最近遊びで決めたと言っていた。


(踊り子はこの前泣いていたな…。)


異世界では踊りで攻撃できるから頑張れと言われ、踊り子に転職させられてしまったのだ。

魔法やスキルも禁止され、敵の目の前で踊り続けるのはシュールな光景と言えるだろう。

それでもミーナの元から離れない辺り、ミーナは愛されていると思う。


「まだまだアイツらには借金が残ってますからね…。骨の髄までしゃぶってやりますよ。ウヘヘ…。」


愛されて…いるよな?

とても人に見せられない顔をしてよだれを垂らしている。

コイツは本当に元王族かと疑ってしまう光景だ。

口を拭ってやると、驚いた顔で私を見てくる。

完全にトリップしていたようだ。


「やだなー、我が君。レディの素顔を覗き見るなんて感心しないぞ☆」


ウィンクをして星形の模様を魔法で描く。

最近流行りの魔法らしいが、確かに可愛らしく見える。

よだれの跡が残っていなければ完璧だっただろう。


(はぁ……。)


疲れるが、昔から少しも変わらないミーナと居るのが楽しいのも事実だ。

たまに百年単位で封印したくなるような事もしでかすが、そこも含めて魅力かも知れないな。


(いや、それは無いか…。)


以前は迷宮を踏破して魔王を倒すと泣き喚いた事も有る。

魔王は味方だと言うのに、胸の大きさが気に入らなかったらしい。

私がコンマ数秒魔王を見る時間が長いと言っていたが、決してソンナ事ハ無イ筈ダ。


「じゃあそろそろ行くかな。お邪魔したな。ミーナ。」


「ぇー。もっと一緒に居ましょうよー。まだまだ夜はこれからですよー。」


あれからダラダラとお喋りし、もう日が暮れる前だ。

巨人達には休むように伝えたのだが、職務上出来ないと言われてしまった。

結構ダラけた感じだったが、幻滅されたりして無いだろうか。

少し気になって巨人達を見てみると、恍惚の表情を浮かべていた。


「どうしました?…あぁ、巨人達ですか?我が君とこんなに長い時間一緒に居る事は無いですからねー。そろそろ気絶でもしそうな感じですね。」


悪い笑みを浮かべて巨人達を写真に撮っている。

超高速に動き、魔法まで使用している為に巨人達には気付かれて無いみたいだ。


「何人か持ち帰りますか?あ、勿論ウチも参加しますからね。」


ニヤァ、と意地の悪そうな笑みを浮かべている。

相変わらずそっち方面の話題は大好きみたいだ。


「いや、ミーナは玉座の間をしっかり掃除しておいてくれ。勿論一人でな。」


「え゛。」


「大丈夫。ザドを付けるから。」


「い、いや…あんな陰湿なの付けられたら逆に困るんですが…。」


「じゃあ巨人達の写真は悪用しないようにな。」


「はぁーい…。」


癒されるという感じでは無かったが、それでも楽しかった。

ミーナに感謝しつつ、今日も一日を終える。


今日は何も仕事をしてないと思ったが、皇帝たるもの悠然と構えている事も大事だと自分に言い聞かせておいた。

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