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護王レン

レン達と共に私室に入ると、すぐにレンが飛びついて来た。

私の胸元に頭を当て、匂いをつけるように擦りつけてくる。


「大丈夫。どこにも行かないよ。」


昔からちっとも変わってないと思いながら、少し乱暴に頭を撫でてやる。


「…ん、一緒…。」


嬉しそうに手にも頭を擦りつけてくる。

レンは獣人で、狼人族の氏族の出だ。

大昔、飢饉によって苦しんでいた所を助けた。

食料を与える代わりに一族丸ごと配下にしたのだ。


その時はまだ赤子だったが、今では配下の中でも最も強い存在だ。

精神面では未だに幼い面も有るが、部下達の事も気遣える心優しい子だ。


「皆も…来て…。」


レンが四人の近衛を呼ぶ、

近衛は強さと私への忠誠心から選ばれる。

私の為に命を捧げるのは当たり前で、死んで魂となっても私を守護するように鍛え上げられる。

そこまで求める事に心苦しさは有るが、この国のシステム上は受け入れなければならないだろう。

今まで犠牲になった者の為にもより良い未来を築いてやろう。


昨日引退を口にしていた癖に、部下達を見ているとそんな気持ちも薄れていく。

千年の間に疲れ果てていたはずが、段々と気持ちが上向いていくのを感じる。


私が気を引き締めている間に四人の近衛は兜を取り、その特徴的な耳を解放したようだ。

皆獣人の子で、虎耳、兎耳、熊耳、獅子の耳が見える。

この長い年月で、耳を見るだけでもどの種族の人間か分かるようになった。

この四人は特にレンと仲の良い少女達だ。

少女と言っても見た目の話で、その実力は帝国有数だ。


装備はゲームデータから作ったExランクで、この国でも希少なアイテムだ。

Exランクのアイテムは自分達で作ろうとすると百年単位の時間を必要とし、技術的に不可能なものも多い。

帝国に有るExランクのアイテムは殆どがゲームデータから作られている。


(あー。癒される。)


四人の頭と耳をそれぞれ撫でていく。

獣人の髪の毛は触り心地の良く、何時間でも撫でていられそうだ。

暫くそうしていると、メイドが静かに入室し、…何も言わずに出て行った。


何故?と思うが、目の前の少女達を見て現状に気付く。


(……やり過ぎた。)


近衛達は私への忠誠心が限界を突破しており、少し褒めただけで気絶する者もいるのだ。

長時間頭を撫でていた四人は体が震えている。もう爆発寸前かも知れない。

私からすると帝国に長く仕えている配下は家族みたいな感覚なのだが、それが通じるのは王達までだ。

その下の者達は私を神の如く崇めているので注意が必要だというのをつい忘れていた。


メイドを再度呼び、四人を介抱してもらう。

真っ赤な顔で入室して来たが、事情を説明して誤解を解く。

皆残念そうな顔をしているが、どんな勘違いをしてたやら…。


全員が退室するとレンが膝の上に寝転んで来た。

気持ち良さそうに伸びをしているので頭を撫でてやる。

獣人達を撫でるのは何故こんなに気持ち良いのだろうか。

あの四人も気持ち良かったが、レンは更に別格だ。


暖かな日差しの降り注ぐ中、ぼんやりとしながらレンを愛でる。

正に理想の空間だ。私に足りていなかったのはこれだっただのだ。

二人でウトウトしながら、レンを撫でる。

私の手が止まるとレンがモゾモゾし出すので完全に眠る事は出来ないが、この感覚もまた気持ち良い。


穏やかな時間の中、レンの方から突然機械音が鳴り始めた。

一瞬でレンが音を止め、困ったような顔で私を見てくる。


「訓練か?」


「……うん。」


「じゃあ一緒に行くか。」


「うん!!」


訓練に行くかどうかで少し迷っていたようなので、同行しようと声をかける。たまには見学も良いだろう。

私の言葉を聞いて、気持ちの良い返事と共に勢いよく飛び上がった。


黒のホットパンツに狼の刺繍がしてあるニーソックスを履き、小さめのシャツからおへそが見えている。

編み上げのブーツも履いているが、アレは室内用らしい。

近衛達と違いカジュアルな格好だが、異世界人ファッションとして人気の服装だ。

レンの服は素材から一級品で、デザインもレンの為に考えられた一点物だ。

本気装備よりは数段落ちるが、訓練でレンに傷をつけられる者は居ないし問題無いだろう。


レンが背中に飛びついて来たので、メイドに声をかけて転移魔法を発動する。

城内から近衛用の訓練場の貴賓室へと移動すると、レンが靴を履き替えた。

魔法で汚れを落とせば済むのだが、色々な拘りが有るらしい。

新しい靴も同じ編み上げ型のブーツだが、室内用の黒を基調とした靴からウェスタンブーツに変わっている。

カカトの先には車輪が付いているし、材質を見る限りではそちらも攻撃に使えそうだ。

その後で真っ黒なジャケットを羽織り、満面の笑みで振り向く。


「うん。可愛いよ。背中の狼の刺繍が良いね。」


褒めて欲しいと顔で訴えかけていたので、希望通り褒めてやる。

ジャケットの刺繍はデフォルメされた可愛い狼で、全体的に落ち着いた雰囲気なのにそこだけ浮いている気もする。

とは言えそれもレンらしいと思えるし、何より可愛いのでしっかり伝えておく。


「うん!背中のはボクがお願いして付けて貰ったんだ!!」


正解だったようだ。

嬉しそうに背中を広げながら説明してくれる。


そのまま部屋から外に出ると、地面から一段高い位置に見学用のスペースが用意してある。

貴賓室からでも見れるが、こちらの方が良いだろう。

先ほどの四人も復活したようで、今はすぐ近くに控えている。


一段低い位置には大勢の近衛達が並んでいる。全員という訳では無く、今日は精鋭が集まっているようだ。

近衛は帝国の中でも最強の部隊で、種族問わずに入隊する事が出来る。

勿論誰でも入れるという訳では無く、伯以上の推薦が必要となり、余程の天才以外は別の部隊からの推薦で入ってくる。


レンが獣人という事もあって獣人からの志願者が特に多く、数百年の研鑽の果てに入隊した者も多い。

その為私の事を特に神格化しており、もし私の悪口が彼らの耳に届いたとしたら壮絶な地獄が待っているだろう。

とは言え、帝国に長い間住んでいる国民で私の悪口を言う者は居ない。

私を単純に崇拝していると言うのも大きいが、信仰の力が国の力になると知っているからだ。


「顔を上げろ!本日は大変有難い事に、皇帝神様がご見学に来て下さった。決して退屈される事の無いように気合を入れろ!!」


「「「御意!!」」」


獅子耳の子が号令を下すと、全員が返事をする。

返事というか一種の咆哮のようだ。魔力が込められているし、弱兵なら気絶するだろう。

目の前の300人程の近衛達は全員がお揃いの見事な全身鎧を着て、思い思いの武器を持っている。

室内での戦闘も考慮して二種類以上の武器を極めている事が必須条件だが、使用武器が決まっている訳では無い。

他国では片手剣や長剣で統一されているらしいが、帝国は多民族国家なので採用していない。

体の大きさも違うのに武器だけ揃えても仕方無いだろう。


Exランクとは行かないものの、全員がS〜S+ランクの装備を付けている。

それだけで無くアイテムも充実させている。

魔法の袋や転移石、多数の精霊石にエリクサーを持たせ、一人が持つ分だけでも小国の軍事予算に匹敵する価値となるだろう。


目の前では一対一の戦いが繰り広げられている。

両者共に中々の腕前で、気合が入ってるのが分かる。

というか気合が入りすぎというか…、両者とも命を削って無いか?

生命力を力に変換する手法で、ある程度の実力が有れば使用する事が出来るが…。


(やり過ぎだ。実際の戦闘じゃ無いんだぞ。)


慌てて止めようとする。

命を削って力にした場合、時間が経っても回復する事は無い。

寿命が減り、戦闘後は戦力も減少するのだ。


「止め――」

「甘い!!」


止めようとした所で、虎耳の子が一喝した。

さっきはふにゃふにゃになっていたというのに、今は威厳に満ちた声色だ。


「命を懸ければ良いというその腐った性根、叩き直してくれよう!!」

「貴様らの命は貴様らの為に有るのでは無い、皇帝神様の為に有るのだ!!命の使い所を間違えるな!!」


兎耳と熊耳の二人が続けて叫び、訓練場は静寂に包まれた。


(あの兎耳、兜の下で窮屈じゃ無いのかな…?)


私はそんな様子を見ながら、現実逃避していた。

確かに近衛の心構えとしては正しいと思うが、彼女達の思いはそれだけじゃ無いと思う。

狂信的な思いがひしひしと伝わってくる。

この国の在り方としては悪くない事なのだが、未だに強すぎる思いにはたじろいでしまう。

慣れたら慣れたで人として終わりだと思うし、難しい所だ。


四人が訓練場に降り立ち、近衛300人を次々に相手にしていく。

全員歴戦の猛者のはずが、一合か二合剣を交えると皆空に飛ばされていく。

あの四人は最高の装備を与えられるだけ有って別格のようだ。

大して時間がかからずに訓練場から人が居なくなった。

中には十合に渡って剣を交えた猛者も居たが、結果は変わらなかった。


「…行ってくる。」


残った四人を相手にするのだろう。

レンが訓練場に飛び降りた。


「レン様、此度こそ一太刀入れて見せます!」

「そしたらご褒美に陛下の隣を代わって下さいね!!」

「半日…いや、三時間で良いですよ!」

「わ、私はお膝を貸して貰えたら……。」


虎耳、兎耳、熊耳、獅子耳の子達が次々に話していく。

私が居るというのに、全く気にしていないようだ。


「……良いけど、無理。」


レンが力を解放する。

まだ全開では無いというのに大気が震えている。

砂塵が舞い上がり、まるで竜巻のように渦を巻いていく。


「流石は…帝国最強!」

「全ては陛下の為に!」

「一世一代の大舞台だ!」

「陛下!ご照覧ください!!」


四人同時にレンに攻撃し、全員が吹き飛んで行った。

どうやら分身して一人一人相手にしたみたいだ。


「ん…。皆も腕を上げた。…また皆で撫でて貰おう。」


四人は吹き飛ばされたものの、他の近衛とは違い訓練場に残っている。

これも実力という事なのだろう。

四人はやり遂げた顔をして気絶している。


「ご主人様ー。」


レンが褒めて欲しそうにしていたので強めに撫でてあげる。

王になってもずっと変わらぬ呼び方だ。


四人の事はメイドに任せて城内に戻る。

この後はゆっくり休んでいよう。



(というか300人の近衛達はどこまで飛んで行ったんだ?)


後で聞いた所によると帝都中で人が降ってくる事例が有ったらしいが、奇跡的に怪我人は出なかったそうだ。

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