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アノン帝国

翌朝、私室で幾つかの報告書を見る。

アノン帝国は今年も順調に成長しているようだ。


ゲーム画面を見ればすぐに分かるが、アレはちょっと特殊な場所に置いてあるので気軽には行けないのだ。

文官達が作成した書類は要望などのデータ以上のものが含まれているし、私用に見やすくなっているので頻繁に見返している。



アノン帝国は皇帝=神の私をトップに、帝、王、公、伯の順に分かれている。

電子世界の女神については特に公表していない。

私が信仰される事で信仰力は貯まるし、彼女はこちらの世界の住人では無いからだ。

伯以下も一応居るが、そこまで行くと役職に付随する地位になってくるので、基本的には役職名で呼ばれる事となる。


帝国の人口は2000万人以上で、首都アノンには100万人が居住している。

更に属国も幾つかあり、全て合わせると3000万人近くになる。

住んでる国民は人族か、人族と共存できる種族となる。

死霊族なんかも住んでいるが、無闇に生者に襲いかかってくる者はいない。


他国に比べると数倍の人口を抱えており、生活水準においても圧倒的な差がある。

我が国では寒村においても飢える事など無く、それどころか娯楽に興じるだけの余裕が有るのだ。


各都市は異世界で言う列車に近い乗り物によって繋がれ、一日で国の端から端まで移動できる。

大都市や一部の有力者達の館には転移装置も置かれており、お金さえ有れば一瞬での移動も可能だ。

各村から都市へも乗合馬車が多数行き交い、盗賊や魔物と遭遇する事は殆ど無い。


都市には学園が存在し、村にも寺子屋が作られている。

ここまで整備が進んできたのは最近の事だ。頑張ってくれた皆には感謝している。


学校の授業で私を称える為に丸々一時間費やしていたりするが、信仰力を集める為にも仕方ないだろう。

以前学園に頼まれて見学に行ったが、中々恥ずかしいものだった。

配下達で慣れているつもりだったが、無垢な瞳で祈りを捧げられるのはまた別物だった。

今でも見学のお願いが届いたりするが、気軽に行こうとは思えない。


異世界人達も色々と活躍してくれているが、地球での科学技術を再現するまでには至っていない。

列車も魔獣に引かせるか魔法の力を使っており、科学の力は使っていないのだ。

とは言えアイデア的には役立てられる事は多いし、食事や娯楽の面で言えば大いに助けられている。



国の運営自体は数多くの武官、文官が行なっている。

今となっては皇帝の私がする事は殆ど無い。


他の地位の者達も似たようなものだ。


帝はゲームなど、この国にとって重要なモノを守護する為に存在する。

気軽には行けない場所に滞在しており、基本的にはこの国に居ない。

向こうに行けば会えるだろう。


王は私の引退を引き止めてくれた者達で、総勢七名居る。

精霊王、竜王、魔王、勇者王、騎士王、護王、従王だ。


精霊王の『ゴン』は帝都の広場にある世界樹に住んでおり、首都の管理をしている。

各都市にある精霊樹も支配下に有り、地脈を操り毎年豊作に導いてくれる。

精霊や妖精などの善性の市民達のまとめ役も担当している。


竜王と魔王は現在帝国を離れている。

周辺の属国を周り、帝国の強さを知らしめているのだ。

管理する施設は竜山と大迷宮で、現在は二人の部下が管理している。


勇者王である『ミーナ』には首都アノンにある帝城の管理を任せている。

私が今居る私室も帝城の一室で有り、国の顔とも言える、非常に重要な場所だ。

他の王の中にも帝城で過ごしている者は居るが、管理自体はミーナに任せている。


騎士王『リース』は帝都上空に浮かぶ天空城を管理している。

普段は不可視の魔法によって見えなくして有るが、夜になると綺麗なイルミネーションを映し出す。

私の別邸でも有り、帝城より小さいものの細部まで拘った作りになっている。


護王『レン』は私を護衛する近衛の長だ。

どこかの場所を管理するのでは無く、私を守護するのが役目となる。

近衛は帝国で最も人気の職業であり、皆の憧れらしい。

中でもレンは愛らしい姿と相まってファンクラブも出来てるとの事だ。


最後の従王だが……。


「偉大なる神よ、こちらでしたか…。午後からは御前会議の予定でしたが、キャンセルなさいますかな?」


今ちょうど『ザド』が来たようだ。

ザドも私の側で身の回りの世話をしてくれるのがその仕事となり、執事やメイド達を統括している。

腰を曲げて杖をついているが、その実力は折り紙付きだ。


200年程前に先代の従王から王の座を引き継ぎ、王の中では一番の新参者となる。

とは言え生まれたのは大昔で、長い間苦労を重ねて来たらしい。

老獪ろうかいで残忍な性格をしているものの常識もしっかりと持ち合わせており、王達のまとめ役をしている。


「いや、行こう。」


昨日引退話を出して迷惑をかけたのだ。

会議くらいには出ないとな。


「おお…。感謝致します。皆も喜びますな。」


既に曲がった腰を更に曲げて頭を下げてくる。

若い姿になる事も可能なのだが、老人の姿が気に入っているらしい。

たまに現れる、実力を勘違いして絡んでくる若者を揶揄からかうのが楽しいのだとか。

中々歪んだ趣味だ。


ザドの後ろについて会議室へと進む。

私室は私の希望で落ち着いた感じの内装だが、廊下へと出ると一気に豪華になる。

足が沈む程の絨毯はS級の魔物の希少部位を集めて作られたものだし、壁には豪華な絵画や彫像が並んでいる。


絵具、筆、キャンバス、額縁、描き手、全てが超一流の風景画はその中に異界を保有しており、味方には安らぎを、敵には苦しみを与える。

彫刻は長年魔力を帯びた事で変質化した希少鉱石を使い、最高の彫刻家と錬金術師によって作られたものだ。

ただの像では無く中には精霊が宿っており、いざと言う時は守護者としても活躍する。

その他にも、壁にかけられた灯りは精霊が姿を変えたもので、水精霊の灯りは光る水と言う摩訶不思議な物体だ。


来客の来ない場所なので派手さは抑えてあると言っていたが、十分過ぎる程見事な光景だ。

大昔の庶民感覚がまだ抜け切って無い私にはかなり眩しい。

と言うかここまで内装にこだわれるようになったのも最近の事だ。

それまでは見える所以外の装飾は最低限にするように指示していた。

信仰の対象として見た目は重要だが、それ以上に中身、国の安定に力を入れて来たのだ。


「アノン帝国皇帝神、ジェント様の御成おなりです。」


会議室へと到着し、ザドが声と共に扉を開ける。

ここは私専用の入り口だ。扉の両脇にはレン配下の近衛が立っており、白銀の鎧に身を包んでいる。

何度か目にした事の有る者で、近衛の中でも最高位の者だろう。

中に入ると内側にも二人立っていた。

帝城の中だと言うのに万全の警戒だ。


円卓のテーブルが中央に有り、大勢の部下達が深く頭を下げている。

今日の会議に王は出席しておらず、護王のレンが居ただけだった。

そのままレンのすぐ横の椅子にまで移動する。


(いつもながら見事な椅子だ。)


世界樹を使って作成された椅子で、革張りなどはされていなく、木工職人の手で装飾が施されている。

簡素な装飾であるものの、椅子自体の存在感が凄い。まるで世界樹本体がここに存在するかのようだ。

座ると私の体に合わせて椅子が変形し、硬い木に座っているとは思えない感覚に包まれる。


「宜しい。」


私が座るとザドが声をかける。

それと同時に部下達が顔を上げた。


「「「この度は引退撤回されたとの事で、一同感謝しております!!」」」


「「「我らも皇帝神様に見捨てられぬよう、日々精進致します!!今後とも宜しくお願い致します!!」」」


「あ、ああ。」


皆の圧が凄い。

私が引退宣言したのを自分達が不甲斐無いからだと思っていそうだ。血の涙を流している者までいる。


「「「皇帝神!万歳!!ジェント様!!万歳!!!」」」


私の言葉に満足したのか、万歳三唱が始まってしまった。

これは暫く注意しておかないとな…。日々精進と言いながら、死ぬまで鍛えようとする者が出てくる気がする。


いつまでも続くようなので、軽く手を挙げてストップさせる。

同時にザドに目配せをして会議を進めさせた。

また変な話になっても困るからな…。



彼らは公、伯の地位に居るもので、有力種族の族長や取りまとめ役だ。

公は特に有力な者達で、首都を仕切る十区画の区長と、地方の大豪族達だ。

十区画の長はそれぞれの種族の族長を兼任しており、基本的に地域によって住む種族は分けられている。

地方の大豪族は帝国に吸収された国の王族や、有力種族の族長達になる。

いずれも王に次ぐ実力の持ち主だ。


伯は大豪族の下の豪族達や、大都市の市長などが当てはまる。

軍部の大将軍も伯の地位に相当するが、通常の会議には出席しない。

戦力としては公に次ぐ強さを持つが、市長は投票によって選出されているので弱い者も居る。


「……ですので、南部地域としては十分な生産体制を維持出来ております。」


「見事だ。」


南部公に労いの言葉をかけると、深くお辞儀をして肩を震わせ始めた。


「勿体無い…お言葉です…。」


少し鼻声で話しながら南部公が席に着いた。

どうやら労いの言葉に感激してしまったようだ。

同じ人族なので感情の動きが分かり易い。


南部公は代替わりしたばかりで、まだ数度しか顔を合わせた事は無い。

毎回こんな感じなのだが、そろそろ慣れて欲しいものだ。

他の皆を見習って欲しいものだと周囲を見回すと、貰い泣きしてる者が七割、嫉妬の目を南部公に向けている者が三割だった。


(あれ?君らはもう何度も顔合わせてるよね…?)


公や伯どころか、ザドとレン、近衛達も厳しい視線で南部公を見つめている。


「忌々しい小童こわっぱめが……。」


ザドが怨念のような独り言を呟き。


「んーー。」


レンが私の左手に右手を置いてくる。


(え?二人とはもう何百年も一緒だよね?)


その反応に驚いてしまう。

今までも労いの言葉をかけていたが、南部公を見ながら声をかけたのがいけなかったのだろうか。

若いのに頑張ってると思ったのがいけなかったのだろうか。


真相は不明だが、この会議で気を抜いてはいけないと改めて思い知らされた。

下手をすると死者が出る…!ってザド、呪言になってるから。止めなさい。


その後は細心の注意を払って会議を受けたのだが、三名の気絶者を出してしまった。

南部公は机に突っ伏していたが、何とか気は失っていなかったようだ。


(何故こんなに疲れるんだ…。)


ただ報告を受けるだけのはずが、段々と戦場のような雰囲気になっていった。

市長達に保護魔法を使わなかったら死者も出ていたと思う。


「アノン帝国皇帝神、ジェント様の御退席です。」


ザドの声に従い退席する。

帰りはレンが付いてくるようだ。

会議室を出ると扉の内外に居た四人の近衛も付いてくる。


とりあえず休みたいと思って私室へと向かった。

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