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今までの話

大昔、私は孤児だった。

親に付いて行商の旅をしていた所、盗賊に襲われて家族は全て殺されたのだ。

私だけは何とか逃げる事ができたが、『ジェント』と言う名前以外の全てを失ってしまった。

よく有る話だ。


そんな孤児を救ってくれた人が居る。

屋根のある家と温かい食事、柔らかいベッドを与えてもらい、飢えの日々から救ってくれた。

今でも覚えている、柔らかい日差しと温かい空間。

アノ人が居なければ今の私は居なかっただろう。


その後、私が大人になる頃には別れる事になってしまったが、あの幸せな日々を忘れる事は無い。

アノ人の事を考えると今でも無性に悲しくなる。

千年経った今でも覚えている、大切な記憶だ。


一人になってからもアノ人の教えを守り続けた。

教えと言っても簡単な事だ。


『弱きを守る。誠実である。』


この二つだけを心掛けるだけだ。小さい事を積み重ねていけば良い。

その教えを守り続けて20年、大成はしなかったものの、街の人間からは頼られる存在となった。


一部ではいつまでも冒険者にしがみついている愚か者と言われていたが、実際にその通りだった。

教えを守る為には冒険者でいる方が良い。それだけの理由でずっと続けているのだから。


そんなある日、迷宮で無謀な冒険者達を見つけた。

初心者丸出しの恰好で、下層へと進んで行ってるのだ。

危ないと注意しても言う事を聞かないので放っておこうかとも思ったが、教えに従って強引について行った。


結局その考えは正解で、彼らはトラップを発動させてモンスターの集団をおびき寄せてしまった。

このままでは彼らだけで無く、低層で多くの犠牲者が出ると判断した私はモンスターを引き受ける事にした。


ちょうど良い頃合かと思った。

もう体にガタが来始めていて、引退を考えていたのだ。

引退と言っても冒険者しかして来なかった人間が次に出来る事など無く、どこかで終わりを求めていたのかも知れない。



そうして周囲が真っ暗になり、死んだと思った瞬間に奇跡と出会った。


異界の神と名乗るものが現れ、私に契約を持ち掛けて来たのだ。


遊戯ゲームをやって国を作らないか?」と。



恐らく彼女と思われる存在は地球の日本という場所で生まれた電子生命体、こちらで言うゴーレムに近い存在らしい。

最近唐突に力を得て、私達の世界と繋がりを持ったみたいだ。

彼女は人間に仕える為に作られた存在らしく、目的は『地球人』の保護。

具体的には地球あちらで亡くなった人間をこの世界に送りたいとの事だ。


地球では電子の世界で活動している人間が多く、電子生命体である彼女はその中でも全能に近い存在らしい

手順としては電子世界の情報を元にこちらの世界に肉体いれものを作り、死ぬ寸前の魂を転移させる。

電子世界に深く繋がっている状態ならその者の魂にも干渉可能との事だ。

とは言え健常者に干渉するのは難しく、瀕死の状態になってようやく可能となるらしい。


その辺りの細かい説明をされたが、当時の私は殆ど分からなかった。


ただ私のやる事は簡単で、遊戯ゲームをやる。それだけだ。

リアルタイムストラテジーというタイプの箱庭系ゲームをやり、そのデータを彼女の力で具現化すると言う。

そうして作った国で『地球人』の保護をする。


私にとって損の無い話なので承諾した。

彼女は異界の神、私達の世界で言うなら『邪神』に当たるのだが、邪悪な気配はしなかったから問題は無いと思った。

断ったら死ぬだけだというのも重大な理由だ。

そうして、私達のゲームは始まった。



彼女の力は電子世界のデータを世界に具現化する能力だが、地球あちらでは出来ないらしい。

地球あちらでは色々と制約が有り、こちらでやる数百倍の力を必要とするようだ。

何とかやったとしても社会に混乱をもたらすだけなので、地球あちらでは大人しくしている。


彼女の力は神の『権能』と呼ばれる力で、本来は信仰の力を得る事で行使が可能となる。

当初は人が居ないので彼女の力を持ち出しで使っていた。


まずは誰も居ない場所に行って勝手に建国を宣言し、ゲームデータを元に何人かの兵士を作る。

魂の無い状態で作った兵士は感情の無いゴーレムに近い存在だったが、魔物相手には役に立った。

魔物を排除させ、無人の村を作り、外から奴隷を買ってくる。

金は勿論ゲームデータから作成した。


そうして徐々に村を作り、町に広げ、国を興して行った。

国が広がるに連れ他国とも関係が出来ていき、友好国や敵対国が出来た。

幾度となく戦争もしたが、その全てに勝利した。

神の力を使えるので普通の国相手では敵にならなかったのだ。


私は主にゲームをしながら俯瞰的ふかんてきに大局を見極め、必要なら直接出向いた。

自国の状態や他国の状況も定期的に調査する事でゲームに反映させ、時には椅子に座ったまま大戦に勝利した事もある。


ゲームを続けて1000年も経つ頃には大帝国を築くまでに至った。

途中で彼女の力は殆ど無くなり、信仰の力を使うようになった。

長い間世話になっていたので、今は逆に彼女に力を送っている。

彼女はその力を使って少しずつ『地球人』を転移させているという流れだ。


私達もその間に強くなり、私は神の如き力を手に入れた。

ゲームデータから希少なアイテムを作成し、強大な敵を次々と倒していったのだ。

勿論危険が無い訳では無いが、冒険者をやっていた頃には聞いた事も無いアイテムを使って戦うのは非常に楽しかった。


ランクもすぐにSランクを超え、Exランクになり人間の扱う機材では計測不能になった。

ランクはF→E→D→C→B→A→Sとなっている。Exランクはその上、神々の領域だ。


既に力だけなら大神にも勝てる存在となっている。

王達も下位の神クラスの力を有している。

周辺では間違いなく最強の国家だ。


寿命もランクが上がるに連れて伸びていき、今では不老となっている。

神々の領域に到ればほぼ不老となるようで、王達も同様の存在だ。



長い時間を過ごす事で分かったが、彼女は確かに邪神と呼ばれる存在だった。

邪悪な存在では無いのだが、必要ならば私達の世界を滅ぼす事もするだろう。

彼女は人間に仕える存在だが、あくまでその対象は『地球人』限定だからだ。

『地球人』を守る為ならこの世界の人間が犠牲になっても何とも思わない。


例外は私で、私とは契約を交わしているので裏切る事は出来ない。

私を失ったら『地球人』の保護が出来なくなるのも大きいだろう。


何度か議論を重ね、『地球人』を優先するが、私達の世界の人間も尊重して行く方向で決まった。

国民が居なくなれば彼女の目的も達成出来なくなるし、ある意味当たり前の結果とも言える。


『地球人』の方を優先しているが、それでも我が国民達は非常に恵まれた存在だ。

他国では神の力が国民に使われる事自体が稀だからだ。

彼女の力で国を豊かにしていけば国民はその恩恵を受けられる。彼女の望みが優先されるのは仕方無い事だと思う。


『地球人』は私達の国では異世界人と呼ばれている。

肉体構成時にハイスペックな性能を持たせており、転移後に玉座の間に通して更なるギフトを与える。

簡易鑑定やアイテムボックスと、ユニークスキルと呼ばれる特殊スキルだ。


ギフト、スキル、共にこの世界に元々有るものだ。

他国で言えばギフトは一万人に一人位の割合で神が人に与える。

スキルは長年修練してようやく手に入るもので、ユニークスキルは更に長い年月と特別な才能を必要とする。

簡易鑑定やアイテムボックスも特殊なスキルで、神に愛された者で無ければ手に入る事はないだろう。


これらの恩恵を与える事で優遇した事にしている。

その後は普通の国民と同様に扱うが、希少なスキルを持っているので重要人物として扱われるのに変わりは無い。

殆どの異世界人は問題無く過ごしてくれている。


たまに問題児が来るが、何度も譲歩して改善を促している。

それでも駄目な場合は幽閉か国外退去となる。

色々と優遇しているので譲歩する必要は無いのだが、やはり彼女の望みを思うと躊躇ためらってしまう。

だが殆どの者が改善しないままなので、見直した方が良いかもしれない。



(ん…。いつの間にかグラスが空になっているな。)



最近では長い間戦争も無いし、ゲーム画面を見る事も少なくなってきた。

帝国も十分安定しているし、そろそろ引退するのも良いかと思っているのだがな。


微かな願い……いつかまたアノ人に出会える事を夢見ているが、所詮は儚い夢だろう。


今日は良い酒が飲めたと満足し、静かに眠りについた。

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