学園
ーーー安野英理 視点ーーー
「ふぅ…。」
昨日はとんでもない目に遭った…。
あの宇宙?みたいな場所…異界から帰ってからも驚きの連続だった。
部屋に戻ると五倍くらいの広さに変わっており、内装も全て豪華になっていた。
更にメイドや護衛の騎士が壁に立ち並び、とてもゆっくり出来なかったのだ…この人達は今もまだ居るけど…。
先生含めた六人で一緒の部屋のままだったのは嬉しかったけど、…そのお陰で今も苦労している。
「それで…、あの…皇帝陛下とはどんな関係なの?」
冴香が恐る恐る…いや、興味津々な顔で聞いてくる。
昨日は何とかベッドに逃げたが、いつまでも逃げてはいられないようだ。
「うーん…。信じて貰えるか分からないけど…、私前世の記憶が有るんだ。そこでジェント…様と知り合いだったの。」
優以外に初めて話す。
「それは…。とても素晴らしいお話ですわね。」
「うおー!すげー!!何話してたの!?」
麗羅と日向が声を上げる。
良かった。変人扱いはされなさそう。
「良かったね。皆信じてくれてるよ!」
優が自分の事のように喜んでくれる。
この姿を見ると異界での事も…まだ許せないな。
「地球だったらすぐに信じる事が出来たかは分かりませんが…。異世界に転移して、相手も居ますから。疑いようが無いですよ。」
先生の言う通り、異世界に転移して今までの常識は壊れたし、…ジェントも居るしね!
「皇帝陛下は…凄かったよ!もう凄い英理を大事に思ってる感じだった!!」
「「「「「おー!」」」」」
(え?今壁の方から声が…。)
壁の騎士達を見ると、顔を逸らされた。やはり勘違いじゃ無かったようだ。
(それにしても…。だ、大事に思ってるだなんて…何を言ってるんだ。)
相手は一国のトップだぞ!?全く!本当に全く!!
「素晴らしいですわね。でしたら私も将来英理に仕える事になりそうですし、今から英理様と呼びましょうか?」
麗羅が冗談を言ってくる。…冗談だよね?
「今まで通りにして。私に仕えるなんて…何を…考えているのよ。」
ふぅ…。何とか噛まずに言えた。ニヤけている優にはお仕置きだ。
「私達だけ寮に移らなかったけど、ここから学園に通うのよね?」
「寮も楽しそうだけど、英理達や先生を残していけないしね!」
冴香と日向が話している通り、他の部屋の皆は寮へと移ったらしい。
私達は先生が使命を与えられた事と、私と優が特別任務を授かったと言う理由で帝城に留まっている。
これからの事を悩んでいると扉がノックされ……メイド達が私の方を向いてくる。
「……どうぞ。」
皆を見ると頷かれたのでメイドに声をかける。
こう言うのは麗羅の方が絶対慣れてるのに…。
「失礼。…お!皆用意出来ていますな!それでは早速向かいましょうぞ!」
リース…が私達に声をかけて来るけど…その格好は…。
「リース…様も制服…学園に通うんですか?」
「優殿!呼び捨てで良いですぞ!某もこれからは同じ学び舎の一員故!!」
えぇ…。もしかして昨日の話って続いてるの…?
「英理様も大船に乗った気で居て下され!『さぷらいず』も有るでござるよ!!」
「う…うん…。『様』は止めて……。」
そう返すだけで精一杯だ。
この人達のサプライズって…危険な予感しかしない…。
「う、うわー…。リースヴァルト様…リースが同級生なんだ…。嬉しいような怖いような…。」
日向が小さく呟く。リース…は名前を呼ばれた所で反応し、無理矢理リースと呼ばせたみたいだ。
「学園は楽しむ所ですぞ!では、早速行きましょう!」
リース…の言葉と共に一瞬で場所が変わる。
噴水と校舎らしき建物…もう学園に着いたの!?
転移を使えば簡単かも知れないけど、未だに慣れないわ…。
「それでは、某は後で合流しますからなーー。」
その言葉を残してリース…は去って行った。
「嵐のような時間でしたね…。」
「ええ…。英理と居るとこれからも驚く事が多そうね。」
先生と冴香が話している。私も静かに暮らしたいわよ…。
その後はクラスに移動する。
小早と早川以外は皆同じクラスだ。
今後は成績なんかで変わっていくらしいけど、慣れない環境で見知った顔ばかりと言うのは安心できる。
「儂は皆の担任を務める事になったザドワルドじゃ。これから宜しくのぅ。」
「あら……。あの方は……。」
「昨日、玉座の間で見た気がするね…。」
麗羅と日向がこっちを見てくる。
私も知らないよ…。
ザドワルドさんが講師なんて…クラスの皆が青い顔してる…。玉座の間では怖かったもんね…。
「早速じゃが、転入生の紹介じゃな。どうぞ、入って来て下され。」
その言葉に教室が騒つく。
私達もこの学園に来たばかり何だけどね…。
ザドワルド先生の声に反応し、二人の男女が中に入って来る…。
(あはは………………。)
もう頭がフリーズしてしまいそうだ…。サプライズってそう言う事か…。
「リースヴァルトと申す。今は王位から退いている為、リースと呼んで頂いて結構!」
「ジョンドゥだ。そのままジョンドゥと呼んでくれ。」
(ジェントじゃん!!しかもあの頃のジェントじゃん!!!そんなのズル過ぎでしょ!!!!)
「クーン…。」
「ああ、この首の子はレン。大人しいから安心してくれ。」
(あの綺麗な赤毛の狼…レンって護王のレン様!?もう頭がパンクしそう!!)
「あははー……。英理。後は任せたよ…。」
優が燃え尽きたように机に突っ伏す。
優も誰か気付いてしまったようだ。
「「「きゃーーー!!」」」
「「「おおおーーー!!!」」」
クラス中が大騒ぎだ。
王様が来た事は気にならないんだろうか…。
二人とも美形だし、レンちゃんは可愛いから、仕方ないのかな…?
と言うか先生と冴香も騒いでいる。
レンちゃんって叫んでるから、狼のレン様を気に入ったみたいだ。
「英理…。あの御方…。」
「麗羅!気付いたの?」
流石は財閥令嬢。人を見る目は有るようだ。
「皇帝神様の縁者様かしら…。とても可愛らしい方ですわね…。」
(うー、わー…。昔の村の小娘達と同じ目をしておる…。麗羅には要注意だな。)
何を注意するのかは分からないが、とにかく要注意だ。
「それでは…ふむ、安野殿の隣の席が空いておるの。あそこが良さそうじゃ。」
「うむ。」
(確かに私の隣空いてるけど…!他にも一杯空いてるじゃん…!まぁ、文句は無いけどさ…。)
ジェントが隣に座り、話しかけてくる。
「これから宜しく、英理。」
「クーン。」
ジェントの挨拶と共に、狼が私の首に巻き付いて、頬を舐めてくる。
『…宜しくね。』
魔法で直接頭に声が届いた。
返事代わりに狼の頭を撫でてあげる。
「宜しく……。」
狼に癒されながらも、それだけ返すだけで精一杯だった。
ニヤけてしまうのはこのモフモフが気持ち良いからに違いない!
「ジェ…ジョンドゥ…。」
「ジェントと呼んでくれ。親しい者からはそう呼ばれてる。」
何とか名前を呼ぶが、余りの返答に呆然としてしまう。
(ジョンドゥからジェントって流石に無理矢理過ぎない…?)
だけど私にとっても呼び易い名前なので頷いておく。
「ジェ…ジェント。」
「ああ。学園には疎いから宜しくな。」
何とか声をかけるが、何でも無いように返事をされる。
(こ、この男は…!)
昔からそうだ。ジェントだって絶対に緊張してるはずなのに!
まるで私一人だけ緊張しているみたいじゃ無いか!
密かにジェントも緊張させてやろうと心に誓う。
学園生活の間に私の魅力に気付かせてあげるわ!
そう決断し、今後の事を思い浮かべる。
絶対に楽しいに決まってる。
だって、ジェントが居るんだから。
一旦ここで終了となります。
まだ完結済みにはしませんが、当分更新は行わない予定です。
読んで下さりありがとうございました。
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