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クラス転移 6

ーーー安野英理 視点ーーー



「うーん…。これって…普通なの?」


「分からないわ…。向こうでは聖騎士とか肉壁?貰ったって誰かが言ってたわよね…。」


わたくしとしてはかなり特別なものだと思いますが…過信は禁物ですわね。」


「後で何人かに聞いてみようか?運動部繋がりで良い子知ってるんだ。」


「英理のは言わない方が…良いかも…?」


私の言葉に冴香、聖羅、日向、優がそれぞれ話し出す。

ギフトを各自紹介した後、私達は頭を抱えてしまっている。


「私も人の事言えませんが…、余り広めない方が良さそうですね…。」


そして今日は星南先生も居る。これからは女子の部屋を回って交流を深めていくらしい。

そんな先生のギフトは『守護天使』。守りに特化しているらしい。

冴香は『叡智の番人』、麗羅は『豊穣の担い手』、日向は『韋駄天』となっている。

そして優が『絶対防御』、私が『全知全能』…私だけおかしすぎない?

とは言えギフトも体に馴染んで使っていかないと弱い効果のままみたい。

私の『全知全能』も今のままでは殆ど何も出来ないのが何となく分かる。


スキルも幾つか貰えたみたいだけど、ギフトだけでお腹一杯だ。

ギフトと同じようにまだ体に馴染んでないみたいだし、これから少しずつやって行こう。

簡易鑑定やアイテムボックスも貰えたけど、これは全員共通みたい。

両方ともその名前の通りの能力で、非常に便利だ。

人物が鑑定出来ないなどの幾つかの制限は有るけど、それでも十分だろう。


「明日からは訓練と簡単な座学かー。どんなのだろうね?」


部屋に戻った後にメイドが来て今後の予定を伝えてくれた。

十日程訓練や座学を行い、この世界のルールや生き方を学ぶとの事だ。

その後に帝国に加入するかの最終決定を行い、帝国人となれば学園にも通える。


前世の時代だったらあり得ない厚遇だろう。

恐らく前世の私が居た国だったら奴隷にされて強制労働だ。

それを考えると心の底から感謝してしまう。


「運動は…厳しいけど、頑張りましょう。」


冴香が気合を入れている。

地球では本当に体を動かしていなかったからなぁ…私も不安だ。




翌日、私達はグラウンドを走らされている。

結局ギフトの事は内緒という話になり、誰にも話を聞いてないままだ。


「意外と走れるけど…やっぱりキツイ。」


「英理ー。ちょっと待ってよー。」


つい走る事に夢中になって優を置き去りにしてしまった。

ペースを落として並走する。

そのまま何とかゴールをすると、日向にタオルを渡された。


「お疲れ様。二人とも早かったね。」


日向は運動部所属でギフト『韋駄天』を貰った事もあり、男子も含めて大差をつけて一番を取った。

半分以上を周回遅れにした程だ。

お礼を言ってタオルを受け取ると、日向が眉間にシワを寄せている。

何か考えてるようだけど…。


「日向が難しい顔してるなんて珍しいね。どうしたの?」


優も気になっていたみたいで、私に代わって聞いてくれた。

これぞ以心伝心か。


「皆走れてるからさー…。アシストもブーストも無しに、普通これだけの距離走れたっけ?」


アシストやブーストは機械的な筋肉補助装置だ。

地球に居た頃は皆つけており、アレが無いと日常生活を送れない子も居たと思う。

確かにそう考えると、この世界では何故こんなに走れているんだろう。


「ギフトやスキルの力なのかな…?」


「あー、確かに。それが有るか。ぼくも地球に居た頃より全然速く走れたし!」


私の言葉にうんうんと頷いてくれる。

全然間違ってるかもしれないけど、答えなんて分からないよね。


その後も座学や魔法の訓練を行い、一日目は無事終了した。

先生も一緒になって授業を受けているのが新鮮で面白かった。



「先生も行っちゃったしなー。仕方無いとは言え、寂しいねー。」


日向がベッドに寝転びながら声を上げる。

服装はジャージだ。部屋着や訓練用にと、多めに支給された。

この高級な空間で凄い浮いているが、私も同じ格好だ。気にしても仕方無いだろう。

何が原料かは分からないが、着心地は無茶苦茶良い。


「そうね。また私達の部屋に来るのは一週間後かしら?それまでの辛抱ね。」


冴香が答える。

先生は女子部屋を一日毎に回っている。

生徒側が拒否したら無理強いはしないらしいが、拒否する子はいないだろう。

一人部屋を使ってる子はいないし、またすぐお泊まり会が出来ると思う。


「食事も大変素晴らしいですし、お風呂にも各種ケア用品が置かれていましたわ。本当に、ここが中世の文化圏とは考えられないですわね。」


麗羅はガウン姿だ。私は結局支給されたジャージに逃げてしまった。…一度はガウンも着てみたいけど、中々勇気がね…。


今日の座学では早速帝国と、その外の情報を教えて貰えた。

映像でそれぞれ見せて貰ったが、その余りの違いに皆絶句した。


帝国の民は皆綺麗な服を着て、笑いが絶えず、毎日美味しい食事が食べられる。

頑丈な家に住み、治安はしっかり守られていて、一般市民が楽しめる娯楽まで有るのだ。

電子の世界を除けば日本とも大差無いかもしれない。


他国では一部の富裕層を除けば酷いものだった。

常に飢えている訳では無いが、一度不作が起これば連鎖的に人が亡くなっていくのだ。

食事以外も最低限と言えるもので、目を覆いたくなるような光景が幾つもあった。


強さが有ればそれなりの生活も出来るし、ハーレムを築く事も簡単らしい。

帝国でもハーレムは認められているが、他国に比べるとハードルが高いとの事だ。

女性の人権については、一部の女系国家以外では殆ど認められていないと言っていた。


余りの違いに、嘘情報を教えられているんじゃと疑った生徒も居た。

でも講師の人達はそう言った声には取り合わずに「好きに選べば良い。」と言っていた。

彼らからすれば、無理に信じて貰う必要なんて無いんだろう。


「う…。思い出すと気分悪くなっちゃう…。」


優がベッドに倒れこむ。

死体や糞尿が道端に放置されてたし、私も思い出したく無い。

前世の記憶が無ければ私も気分が悪くなっていただろう。


「あの映像を見ちゃうとね…。もう他国に住もうとは思えなくなっちゃうわね。」


冴香の言葉に皆で頷く。

騙す必要も無いと思う。リースヴァルト様達の圧倒的な力が有れば、力で従わせる事ができるからだ。


「魔法も楽しかったね。まるで電子世界に居るみたいだった!」


日向が興奮したように魔法の事を話す。


「うん。皆すぐに魔法使えてビックリした。…あんなに簡単に使えるんだね。」


私も感想を述べる。前世では才能有る人しか魔法は使えなかった。

長時間走れた事と言い、これも加護か何かなのかな…。


魔法の授業では皆楽しそうに授業を受けていた。

魔法の才能もあるようで、前世の私の実力はすぐに抜かされる気がする。


(前世では結構苦労したのになー…。これがチートってやつか…。)


何となくやるせなくなるが、私自身もその恩恵を受けてるんだ。早めに切り替えないと。



翌日からの授業ではどんどん体が動くようになり、高度な魔法が使えるようになっていった。

すぐに前世の私も抜かされてしまったが、私自身が授業に夢中になり、全然気にならなかった。

講師の方達はこちらの世界出身の人達が多かったけど、何度か地球出身の人も顔を出してくれて、平良さんとも再会する事が出来た。


「やっほー。調子はどう?」


気軽に声をかけてくれてるけど、平良さんはこの国でもかなり偉い人らしい。

その歌声が認められ、『伯』クラスの待遇を受けていると講師の方から聞いた。


「毎日が楽しいです!こんなにワタシの体って動けたんですね!」


早速ファンの優が返事をする。

私というものが有りながら、そんな嬉しそうにするなんて…。


「この世界に来た事で地球とは肉体が変わってると思うわよ。上の方に聞いた訳では無いけど、そうじゃ無いと説明が付かない事が色々有るのよ。」


地球で病気だった人もこの世界に来て完治してたりするらしい。

魔法の力で治したとも考えられるけど、弱っていた部分の筋肉も他の部分と変わらない状態だし、異世界人の中ではその考えが主流との事だ。


「ま、この世界で暮らしていくなら特に気にする事無いわよ。」


そう言っていたけど、確かにその通りだと思う。


平良さんにはギフトも教えて貰ったので、私達のも教えると凄い驚かれた。


「あははー……。それ、絶対誰にも言っちゃダメだからね!」


乾いた笑いをした後に、真顔で肩を掴まれてしまった…。

やはりレアなものらしい。


「安野さんのは確実にヤバいとして…佐乃さのさんも相当凄そうね。『絶対』なんて言葉の付いたギフト、聞いた事も無いわよ…。」


佐乃は優の苗字だ。私とは安野あの佐乃さのと凄く似ている苗字。これも運命だろう。

他の四人、先生と冴香と麗羅と日向も話さない方が良いとの事だ。


「まぁ誰かに話した所で大して何か有る訳でも無いけどね…。理由なく人に話す意味も無いからね。」


ギフトやスキルは本来は秘密にするものらしい。帝国は結構緩いけど、それでも気軽に話す人は少ないとの事だ。

平良さんは職業として歌を歌っているし、ギフトの事を話すのは宣伝の一種らしい。


「…平良さん。私達のクラス、結構ピリピリして来てて…危なっかしい感じがするんです。誰かに仲裁というか、見ていて貰う事は出来ないでしょうか…?」


冴香の言葉に先生がビクッと反応する。

唇を噛んで、苦しそうに顔を伏せている…。


「毛利さん。貴女に言わせてしまうなんて教師失格ですね…。」


先生が頭を振りかぶり、自分の頬を叩く。最近俯うつむいてばかりだった先生が、背筋を伸ばして平良さんを真っ直ぐ見ている。


「平良さん、私からもお願いします。私の至らなさが原因で、皆をまとめる事が難しくなって来ています。どうか、助力を頂けないでしょうか。」


先生が立ち上がって深く頭を下げる。

授業が始まって数日、小早と早川の暴走が止まらなくなって来ている。

模擬戦ではわざと痛めつけて勝負を長引かせたり、魔法を人のすぐ近くに放ったりだ。

原君達や先生もその度に止めているが、授業の範囲内という事でお咎め無しだ。


(この国は法の整備が行き届いているらしいけど、思想の根幹にあるのは弱肉強食なのよね…。)


講師がこの世界の人の場合、模擬戦の後に小早達を褒める人も居るのだ。

痛めつけられたとしても、その痛みをバネにして強くなれ、という脳筋思考みたい。


「そっかー…。やっぱり起こっちゃいそうかー…。ごめんね。私も正式な講師じゃ無いし、余り口出し出来ないんだ。でも絶対に大事にはならないから。そこだけは安心して。」


平良さんでも無理か…。どうすれば良いんだろう。


「そんな勝手が許されるのも短い期間だけだし、皆がちゃんとやってるのを見てる人も居る!何とか頑張って!」


平良さんの言葉に励まされるも、現状は変わらないままだ。

少し沈んだ雰囲気でいると、麗羅が声を出した。


「そうですわ。所詮は後数日の話です。それに彼らより強くなれば何も問題無いわ。皆で頑張りましょう。」


「だねー。あんな奴ら、ぼくの『韋駄天』で吹っ飛ばしてみせるよ。」


日向もそれに続く。この二人、結構脳筋なんだよね…。

でもそれしか無いか!


「そうね。頑張りましょう。」


「「「おー!」」」


私の言葉に皆で声を上げる。

何も変わって無いけど、こうなれば気合しか無いわね!

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