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クラス転移 4

ーーー安野英理 視点ーーー



翌日、大部屋のベッドで目が覚める。

時計を見るとまだ早朝だ。


この世界は異世界と言っても一日の時間や暦は殆ど同じだと聞いた。

長さや重さの単位、物の名前なんかも地球と同じで、これは異世界人にアノン帝国が合わせている。

言葉も普通に通じているが、こちらに転移した時に自動習得するらしい。

つまり、この世界で生活する上で困る事は殆ど無いという事だ。

私が前世の事を思い出してる時に説明されたらしいが、全く聞いていなかった。


目覚ましもかけてないのにこんな朝早くに起きるなんて珍しい。

しかも最高の目覚め。この豪華なベッドの効果なんだろうか。


「あら、起きたのね。」

「おはよう。早いですわね。」


既に起きていた冴香と麗羅に挨拶される。

昨日は平良さんの話を聞いていた五人で一緒の部屋を使わせて貰い、名前で呼び合うようになった。

私と優と毛利冴香、足利麗羅、島津日向の五人だ。

先生も誘ってみたが、悩んだ後に断られてしまった。


「おはよう。二人も早いね。……メイド?」


冴香と麗羅は窓際で紅茶らしき物を飲んでおり、すぐ近くにはメイドが控えている。

昨日広間に居たメイドかも知れない。


「ええ。ティーセットが有るのでお茶を淹れようとしたら、代わりに淹れて下さったわ。とても美味しいわよ。昨日のお茶と言い、地球あっちでも飲んだ事が無い程の味わいですわ。」


麗羅が優雅にお茶を飲んでいる。

その姿はとても綺麗で、本当に同じ学生かと疑ってしまう。だが問題はそこでは無い。


「いや…。寝てる間に知らない人が入って来るのはちょっと…。」


普通に驚くし、少し怖いくらいだ。


「普通はそうよね…。でも麗羅からすると気にする事じゃ無いみたいよ。」


私の言葉に冴香が答えてくれる。

良かった。彼女は常識人みたいだ。


「使用人を気にするようではこの先苦労するかも知れないわよ。…とは言え、確かにわたくしもここではただの一文無し。控えた方が良さそうですわね。」


そう言って、麗羅がメイドを下がらせる。

メイドは「お気になさらずに。」と言っていたが、二日目にしてこの風格…流石は財閥の令嬢だ。

私の分も淹れてくれたようなのでじっくり味わう。

麗羅でも味わった事が無いなんて、凄く気になる。

昨日の広間では紅茶の味なんて全く分からなかったしね。


「何コレ!美味し!!」


ただ美味しいだけじゃなくて、体が温まっていく。

地球でも前世でも飲んだ事が無い。


「凄いわよね。こっちに来てから地球の常識がどんどん崩れて行くわよ。」


全くその通りだと思う。

私なんてリースヴァルト様の一喝で全て吹き飛んだかも知れない。


「おはよー。英理、何飲んでるのー?」


「紅茶よ。優も飲む?」


同じカップから飲むのは行儀が悪いけど、優相手なら気にする事も無い。

私が淹れてもこの美味しさは出せないし、優にも是非味わって欲しい。


「美味しー。何これー。」


優の顔がとろけている。ふふ、い奴よのう…。


「おはよー!何飲んでるの!?」


日向も起きてきた。

これで全員起床ね。


「とても美味しい紅茶よ。私のを少し飲む?」


冴香が紅茶を差し出す。


「おおお!紅茶ってこんなに美味しかったの!?」


日向も驚いている。

空になったカップをソーサーに戻すが、冴香が硬直したのを見てしまった。

気持ちは分かる。まだ飲みたかったのだろう。


「この国の特別製ですわ。地球では手に入りませんし、恐らくこの世界でも希少品ですわよ。」


「アノン帝国かー。皆はどうするの?取り敢えずギフトとか貰うんだよね?」


麗羅の言葉に日向が答える。

微妙に会話が変わってるが、私としても気になる話題だ。


「私はそうするわ。正式決定は後日で、その時に考えを変えても良いって聞いたし。この国の厚遇ぶりは少し怖い気もするけど…、一人放り出されるよりは遥かにマシだと思うわ。」


平良さんは他国に行くなら裏切者と言っていたが、上層部からするとそこまで気にしていないらしい。

リースヴァルト様はある程度この国で学んだら好きな道を進めとまで言ってくれた。

ただ、一度この国を離れたら、その後に気軽に帝国に戻る事は出来ないとは注意された。

この国は他国とは比べ物にならない程豊かで、移住希望者が大勢居るらしい。

その為一度去った者を再び受け入れる事は無いと言われた。


わたくしは定住するつもりですわ。あの広間、廊下、そしてこの部屋、どれも素晴らしい芸術品で溢れていますわ。メイドの方々も素晴らしい立ち居振る舞いですし…わたくしもメイドを目指してみるのも良いかも知れませんわね。」


麗羅がとんでも無い事を言ってくる。

財閥令嬢がメイドって…地球の親御さんが聞いたら卒倒しそう。


「麗羅がメイド…ちょっと想像付かないや…。ぼくも冴香と同じかな。でも結局定住しそうだけどね。」


日向がベッドに横になりながら話す。

スカートなのに足をバタバタするなんて…。あ、スパッツ履いてるのか。


「ワタシも同じ…。皆優しそうだったし、きっと良い国なんじゃないかな?」


良かった。優と同じだ。


「私もよ。これだけ良い部屋を用意してくれているし…力の差がある私達にも誠実に接してくれているしね。」


本当に前世と同じ世界か疑ってしまう程だ。

後はこの国の名前も少し気になってる。

『アノン』帝国。前世の私の性と同じ国名だ。

他にもアノン性の貴族は居たから勘違いかも知れないけど、もしかしたら前世の兄上達が関わっていたりするのかな…?


「さて…、そろそろわたくしは着替えますわ。…あら、有難う。」


麗羅が着ていたガウンをはだけると、いつの間にか横に現れたメイドがそれを受け取る。


「うわ!メイド!?」


日向が大声で驚いているが、私も心臓がバクバクしている。

ドアの音もしなかったし、いつの間に現れたのだろう。


私達の目の前だというのに、全く気にせず麗羅が制服を着ていく。

その見事なプロポーションに目を奪われてしまう。

本当に同い年なのだろうか、遺伝と食べ物でこんなに差が出るなんて、世界は理不尽過ぎる。


「お借りしたガウンも素晴らしかったわ。お手伝い有難う。」


着替えが終わり、麗羅がメイドに声をかけている。

じっくり鑑賞してしまった。何と言う魔性の体。

隣では優も何度か喉を鳴らしていた。こんな所にも敵が居たとはな…。


「そんなに良かったの…。私も今日は借りようかな。」


そんな様子を見て、冴香が小さく呟く。

私も同じ気持ちだ。

昨夜ガウンを借りるか聞かれた時はつい断ってしまったけど、次は借りてみようかな…。


そんな事を考えていると、扉が静かにノックされた。


「皆様方、そろそろ玉座の間へとお越し下さい。」


ついに時間のようだ。

この国の頂点…一体どんな人なのだろう…!


皆で部屋を出るとメイドに先導されて移動する。

相変わらず豪華な廊下だ。天井がこんなに高いなんて、巨人族も居るのだろうか。


徐々に他のクラスメイト達も合流して行く。

皆が集まった所で先生がメイドに頼み込んで点呼を取っていた。

面倒がってる生徒も居るが、立派な先生だと思う。


(この扉の先に…。)


玉座の前の前室、ここも広間のように広い空間が広がっており、壁際には見事な鎧をつけた騎士が並んでいる。

その素晴らしさに目が吸い寄せられてしまうが、長く見るのは危険だと本能が訴えかけてくる。

鎧を着る人物の威圧感が凄まじく、見ていると気を失いそうになるからだ。

見たいけど見れない、そんなジレンマを抱えていると、静かに扉が開かれていった。

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