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ここからは愛するものとの時間を

唇に温かい熱が降る。


あぁ、やっと百鬼と通じ合えた____。


心が満たされていく感覚が同時に訪れて、百鬼の服をく、と掴んだ。


涙が出そうなくらい幸せな気持ち。私、百鬼に出会えてよかった。


ありがとう…………百鬼。










「______________________さくら?」




ゆっくりと唇が離れた。そして百鬼が私の名前を不思議そうに呼ぶのが聞こえた。どうしてクエスチョンマーク?私何か変なことをしているのだろうか?薄らと目を開けていくと、百鬼の驚いた顔が見える。



「…お前、その光……」


「……え、?」



目を疑った。百鬼の服を掴んでいる手が、引き寄せられている体が…光り始めている。そしてそれは見る見るうちに大きく…この地獄墓石を覆うくらい、いや、この地獄に太陽が現れたように地獄全体を明るく照らしていく。



「っ…百鬼、百鬼も…!」


「…………!!」



私だけではない。目の前にいる百鬼自身からも、眩い光が発せられている。これは……そうだ、何度か見た、これは正真正銘…



「「輪廻、転生…」」



私と百鬼の言葉が重なった。





「っ……な、何だっての!?この光は!?」


「太陽…………!?…いや、地獄墓石の方か!?これは俺の母さんや親父が輪廻転生した時と同じ…」



甘味処で団子を食べ終えた二人はあまりの光に腰を上げた。周りの看守や囚人たちもざわつき始めた。中には今一瞬太陽かと疑った与太造のように、きっと地獄にあるはずのなかった太陽だと信じて止まない者もいた。



「あの医者男が輪廻転生した時とも同じ光だっての…!」


「だがっ…光の大きさが今までとは比にならねぇ!!」


「…この感じ、まさか…あいつら…」



久須郎が息を飲んで与太造を見た。与太造も久須郎と同じことを思ったようで、真剣な眼差しで金棒を持つ。



「とりあえず、急いで光源に行くぞ!!」



二人が駆けだそうとした瞬間、後ろから二人を呼び止める声がして、後ろを振り返る。



「与太造様、久須郎様、お願いがありますっ…!」



そこには走ってここまで来たのだろう、息を切らした紫太夫と英雄の姿があった。紫太夫は言葉を続ける。



「お願いっ…!私達もあの二人のところへ連れて行っておくれ!」


「「!!」」


「俺達じゃ到底あなた達のような速さで移動できねぇ…でも、このまま何も言えずに別れんのは…嫌なんだよ、!」



どうやら、紫太夫と英雄にはあの光が二人の物だと、とうの昔に気が付いていたようだった。与太造は二人の意志の強い眼を見て、ち、と静かに舌を打った。



「仕方ねぇ…おい、俺と久須郎にそれぞれ掴まれ。落ちたら構わず置いていくからな。久須郎、そこのごつい囚人担いでやれ!」


「はぁ!?てめっ、何勝手に決めてんだっての!っつーか何でお前が女背負うんだよ俺よりも圧倒的にガタイのいいお前がよぉ!」


「つべこべ言ってんじゃねぇ!おい女早く乗れ!」


「おい与太造ごらぁああ!お前だけ若い女ってずり…………」


「久須郎様…お、お願いします」



何故か少し顔を赤らめていった英雄に久須郎が固まる。何なら久須郎よりも英雄の方が明らかにごつい男だ。与太造に猛攻しようにも与太造は既に紫太夫を軽々と担いですごい速さで前方を走って行っている。



「っ…覚えてろってのぉおおおおお!」



小柄な久須郎がごつい囚人英雄を担いで宙を駆け抜けると言う少し気持ち悪い絵図らが完成したところで、久須郎は雄叫びを上げた。





_________百鬼囚人島にて。



「何なんだ…この光は…どうしてこんなにも地獄が明るいんだ…!?」


「これはあの時見た光とそっくりじゃねぇか…!?」



百鬼の島の囚人たちも同じように空を見上げ、眩い光に目を奪われていた。そこに一つの影が現れて、彼らに言葉を掛けた。



「…………そう、輪廻転生だよ」



その人物の登場に、囚人全体に戦慄が走る。地獄玉座にてさくらや百鬼と共に戦った相手……黄緑がやってきたからだ。



「君たちの主百鬼と…囚人仲間さくらちゃんのね」


「「「「!!」」」」



皆口をあんぐりと開けた。驚きと、黄緑への恐怖で何も言えない囚人たちの中から、一人の老人が震えながらも黄緑の前に躍り出てくる。



「そ、それは、真の話ですかっ…!」



痩せ細った老人だ。黄緑の存在にひどく震えているが、それでも意を決して前に出て来るのにはわけがありそうだった。



「わ、わしには…あの子が地獄に来た日に…この身を助けてもらった恩があります!何とかしてお礼を言いたいっ…!」



黄緑はその老人の顔をまじまじと見た。そして思い出す。



「……あぁ、あの時の」



“おじいちゃん、大丈夫?”


“わ、わしのことより血まみれの自分の心配をせい!”



さくらがこの老人を庇い百鬼にタイマン勝負を挑み、自分が止めに入った時のことを想い出す黄緑。この老人はその時のそれだ。黄緑は光源の方を見る。



「…………伝わってる」


「…え、?」



黄緑の言葉に、老人は目を大きくさせた。そして耳を疑った。



「さくらちゃんのことだ…そんなのとうの昔に伝わってるんじゃないかな。それにあの子は…決して見返りなんて求めていない。自分の正義と共にこの地獄を戦った。故に、あれだけ眩しい太陽のような眼をしているのさ」


「黄緑……様、」


「それに…………」



ここからは、本当に愛する者との時間を。



黄緑はその言葉を発しなかった。老人は首を傾げたが、何かを察したかのように口を噤んで同じく光源の方をただただ見つめた。たった一つ、幸せになってほしい、とだけ心で祈って。





光に包まれている百鬼の服にしがみついた。やっと…やっとやっと、百鬼がこの地獄から抜け出せるんだ。やっと、新しい世界を生きられるようになるんだね。



よかった。自分も“風篠さくら”として人間界に帰ることはできなかったけれど…。もう、人間界へ行けるんだ。



嬉しい。自分の望みが叶うんだ。



嬉しい、…………。




はずなのに。





この上なく、悲しいのは何故だろう。





「百鬼っ…これでもう、お別れ、なの…?」



そうだ。このまま輪廻転生した先に、百鬼はいない。やっと思いを通じ合えたと思ったらこれで終わりだなんて、やっぱり神様はいつだって残酷なんだ。



眩しい光の中、私と同様に、百鬼も物悲しい眼をしていた。



それでも、薄らと笑った。


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