時代を超えて通じ合った想い
「____ふふ、ジャスト4分てとこだったね(百鬼もさくらちゃんも驚くだろうなぁ)」
「ちょ、黄緑さんこれいつになったら降ろしてもらえるのぉ!?」
「ついたよ~さくらちゃん!」
「ふぎゃ!」
ついたよと言われ目を開ければ、体が急降下。そしてお尻に激痛。どうやら能天気に笑っている黄緑さんに落とされた模様。いや、もっと丁寧な着地のさせ方をしてほしいものだ。
「いったぁあ…ちょっと黄緑さんもっと丁寧に…!」
「ごめんごめん。さくらちゃんなら大丈夫だと思って!それより前見て見なよ」
「どういう意味………前?」
尻餅をついたまま黄緑さんの方を振り返って文句を言っていた私に、黄緑さんは前を見ろと言った。その言葉通り首を直せば、黄緑さんへの文句の続きは体の奥に引っ込んでいく。
「ひゃ、百鬼……!?」
「……さくら、?」
百鬼だ。前に百鬼がいた。百鬼自身も私の突然の登場に驚いているようで、目を大きくしていた。
「んじゃ、後は若いお二人に任せますか~」
「黄緑さん!?」
よく分からないことを口走って黄緑さんは再び宙を掛けていった。黄緑さんの会わせたい奴とは、つまり百鬼だったというわけか…。黄緑さんのいなくなった私達だけの空間に、若干気まずい沈黙が生まれる。
だって、そうだ。ここ2日…いや、私が目を覚ましてからだと3日は会っていなかった。会う勇気がなかったと言った方がいいのだろうか。話したいことがあると言いつつ、それを今更ひよっていただなんて…私のビビり…。
「…………いつまでそうしているんだ」
「えっ!」
「ほら。…ここに座れ」
確かに…いつまでも尻餅スタイルだった。ん?というかこのポーズ…私めちゃくちゃ大胆に脚開いて…んん?
「はっ…!ひゃ、百鬼…パ、パンツ見えた!?」
それに気が付いて顔に熱が急上昇してきた私はバッと足を閉じて手で着物を押さえる。百鬼にそう聞けば、百鬼は肩を強張らせて私から視線を逸らした。
「なっ……そ、そそそんなもの、み、みみ見てなど、いない…!」
み、見えたんだーーーーーーーー!これは絶対見えたんだぁあああ!絶対気使ってるだけだよこれ、どう考えても百鬼の全力の優しい嘘だよこれ!!くそっ…昨日新調した新しい可愛いのつけておけばよかった…じゃなくて、何という醜態を晒したんだ…!久々の再開に!!百鬼…君は優しい男だよ…ばればれの嘘だけど気を遣ってくれて…。
大人しく立ち上がり、百鬼にもらった着物についた砂をパンパンと払って百鬼の指定した場所へ行く。そこでようやく気が付いたのは、ここは前にも一度百鬼と来たことがある地獄墓石であるということだ。相変わらずの見渡す限り広がる墓石に、百鬼の両親が眠る赤褐色の門内の墓石。百鬼はここでお祈りをしていたのだろうか。
「……怪我はもういいのか」
「えっ、あ、うん…もう、大丈夫。百鬼こそ怪我は治ったの…?」
体のあちこちに巻かれている包帯を見て自然と眉が下がる。すると百鬼はいつもと至って変わらない声で、あぁ。と答えた。そして私の下がり眉に気が付いたのか、お前が心配しなくても大丈夫だ、と言って少し乱暴に頭を撫でた。久々に感じた百鬼の熱に今度は顔が赤らむ。私は何て単純なんだ。
「……あのさ、」
その熱に心がざわついて、喉の奥から滞っていた思いが溢れてきた。もう一度、自分の思いをちゃんと伝える。今度こそ例え拒まれても、通じ合わなくても______後悔なんてしたくないから。
ドキン、ドキン。
感じたことのない胸の高まりと共に、続きの言葉が喉仏まできた、そんな時だった。
「好きだ」
「…………………………………………え?」
______________まさに目から鱗とはこのことだろう。
自分が言おうとしていた言葉が、真横から聞こえてきたのだ。今のは自分の声が勝手に先走って出たのか?それとも願望が幻聴になったのか?いろいろ疑う余地はあると思いきや、私の期待は良い意味で裏切られる。
百鬼の顔が赤い。百鬼の顔を固まったまま、まじまじと見ている私のことを見るのではなく、真っ直ぐどこかを見つめたまま、顔を赤くして口をぎゅっと紡いでいる。
やっと脳が理解をし始めた。今のは、正真正銘百鬼から出た言葉だと____。
「…………………………………………え?え、ええ?」
「何度も聞き返すな。もう言わない」
「嘘、え、嘘?何、?今の…」
「……。嘘など、この状況で言うと思うのか?」
「えっ、え、と、て、ことは…」
好、き……。百鬼が、私のこと、を。
「……………………………今のが、俺の話したかったこと、だ」
ドキドキ。いや、ドキドキなんてもんじゃない。バクバクだ。心臓の音が正常な音をしていない。
「……私……私も、改めて、伝えようと思ってたの…」
「…」
膝の上で握り拳を作って意を決す。百鬼の目を見る。私達の赤い顔が、空に浮かぶ赤い血の塊によってより赤さを増した。
「私も……百鬼のことが、好き。大好き」
伝えられた。やっと。自然と頬が綻んだ。百鬼も少し笑った、と感じた瞬間、体が勢いよく百鬼の方へ引き寄せられて、それを確信に変えることができなかった。
「百鬼……」
でもきっと、その感覚は気のせいじゃない。間近にある百鬼の身体から心臓の鼓動が聞こえてくる。それも全部愛しくてたまらなくて、やっとやっと思いが通じ合ったことが嬉しくて、私も強く百鬼を抱きしめ返した。
「……あの時、お前の言葉を遮った」
「え…?」
“私…百鬼と離れるくらいだったら、人間界には_____”
“………………”
“百……鬼、?”
“………………シャワーでも、浴びて来い”
「_________自信がなかった」
私を抱きしめる腕の力が少し強まる。私は百鬼の腕の中で静かに耳を傾けた。
「お前の気持ちを全部聞いてしまったら…閻魔になる覚悟が揺らいで、お前とずっと一緒にいたいと思ってしまいそうだった」
「…………うん」
「お前を俺のせいで地獄に縛り付けたくなかった」
「……うん」
「………俺にとってお前は長く暗い、ただ全てに終わりを待つ世界に光を射してくれた唯一の存在だから…」
ずっと一緒にいたい…百鬼の口からそれが聞けただけで、私はあの時の悲しい気持ちなんて吹き飛ぶくらい心が軽くなったよ。
「…私も、百鬼とずっと一緒にいたいよ…。いつからか人間界に帰れないことよりも百鬼と一緒にいられなくなったらってそのことばっかりが不安になってた。そっちの方が大事だった」
「…称号を破壊して自ら道を閉ざしたもんな」
「あは、ちょっと強引にやりすぎた」
「もしお前が人間界に帰っていたとしても俺も強引な手を使って追いかけていたが」
「……え、そんなことできるの?」
「さぁな。だが何とかする」
百鬼らしからぬ横暴な方法論に思わず笑った。百鬼は何だ、とむっとしたように言ったが、私は嬉しくてたまらない。言葉の節々から百鬼の思いの強さが直接感じ取れる。
「百鬼……好き。ずっとこうしてようね」
「……あぁ。もう離さない」
互いに抱き締め合ったまま、ふ、と視線が交わる。
百鬼の片手が私の頬に移動し、そっと触れた。
百鬼の綺麗な眼に、私の姿がはっきりと映る。そしてだんだんと近付いていく。
それが見えなくなったのは、私がこれから起こることを本能的に理解して、目を閉じたからだ。
やっと______
今ここで、二つの思いが唇の熱と共に、重なった。




