その苦味は大人の味
「なっ…何事だってのぉおお、ごほっ、げほっ、ぅえっ」
久須郎に至っては驚きのあまり団子を喉に詰まらせ嘔吐いていた。もくもくと上がった砂煙から段々と姿を現した人物に、私達は更に驚かされることになる。
「やぁみんな。調子はどう?」
「「おっ…………お、黄緑!!??」」
黄緑だ。いつものように剽軽な態度で、にこにこと笑みを浮かべながら私達の前に姿を現した。私達の驚きなど知ったこっちゃないといった感じで、本人は悠長に手をヒラヒラと振っている。
「お、黄緑てめぇっ…まだ病院で寝込んでたんじゃ!?」
「やだなぁ久須郎。僕だよ?あの程度の怪我3日あれば全回服だよ」
「あの程度って…お前生死を彷徨う感じだっただろ、このやろう!?」
「もう、与太造も僕を見くびりすぎだよ。っていうことで、ちょっとさくらちゃん借りてくね」
「えっ!?ちょ、ぎゃぁあ!?」
「「なっ!?」」
物凄い速さで私の身体を抱えた黄緑はそのまま宙を掛ける。後ろでは久須郎と与太造が蛇やら金棒やら戦闘態勢を取り、叫んでいる。
「てめぇっ、まだ自分の輪廻転生のために風篠さくらを狙ってやがんのかこのやろう!?」
「そうとなれば病人だろうと手加減しねぇっての!」
「ふふ、相変わらず早とちりな子達だなぁ。そうじゃないってば~。って言葉で言っても分かんない連中か」
黄緑さんは笑顔でえーい☆と何かを与太造達の方へ放る。バゴォオオンと音を出して爆発したそれは間違いなく爆弾だ。だって下から二人のぎゃぁあっていう叫び声聞こえるもん。ちょ、そんな笑顔で投げつける物でもないんだが。
「ちょ、ちょ!?黄緑、さん!?浮いてる、空走ってるぅ!?ってか爆弾…!爆弾だよね今の!?ちょ、与太造と久須郎がぁ!」
「安心して、花火だよ」
「花火!?」
言われてみれば確かにそれはバチバチと燃えている。それどころか火がついたまま久須郎の後を追いかけ回しているのもある。ねずみ花火かあれ。
「さくらちゃん、約束する。僕はもう君を狙わない。これは最後のお願いだよ。君に会わせたい奴がいるんだ」
「え…!?」
黄緑さんは私をお姫様抱っこしながらすごい速さで宙を掛けていく。赤い空がいつもよりもすぐ近くにあった。そして私に最後のお願いと言って誰かに会わせるつもりらしい。今すぐに離して……と言おうとしたところだが、黄緑さんの眼を見て分かった。この人、もう私をひどい目に遭わせるつもりも、自分の利益のために動くつもりも全くない。信じてもいいと思える眼をしていた。
「待て黄緑このやろう!」
与太造と久須郎は甘味処から私達のいる上に来ようとしている。え、あの二人も空飛べるの?え、本当に!?
「与太造!久須郎!大丈夫ー!悪いようにはしないはず!信じてる!」
「「!」」
二人の動きがピタリと止まる。良かった、無事に声が届いたようだ。
「ふふ…抜け目ないなぁ。信じてるなんて言われちゃったら本当に悪いこと出来なくなっちゃった」
「……そんなこと言って、そんな気毛頭ない癖に」
私の言葉に、黄緑さんは、やっぱりさくらちゃんには敵わないやと呟いた。そして、飛ばすよ、しっかり捕まって。と言うとグン、と更にスピードが上がる。
「わっ…!」
私はあまりの速さに顔を伏せて、黄緑さんの首に強く腕をしがみつかせた。
「…っち、どういうつもりだ黄緑の奴…このやろう」
金棒をドン、と地面に降ろす与太造と、召喚していた蛇を戻す久須郎は空を見つめた。
「よかったのかよ与太造…あのまま行かせて」
「…………まぁ、風篠さくらがそう言うんなら、大丈夫なんだろうよ…このやろう」
与太造はぶっきら棒に答えると、再びもともと座っていた席に座り直し、更に残っていた団子を口に頬張る。
「って甘いの嫌いなんじゃなかったのかよ!?俺にくれるって…」
「いいんだよ!気分だこのやろう!」
味わうというよりは口に体の中に何かを入れたいだけのようにも見える食べ方をする与太造に、久須郎は何か言いたげな顔で横に座る。
「……………………御人好しすぎんのはお前だっての」
「…………………………………………あぁ!?」
久須郎もヤケになったように団子を口に頬張る。与太造は一瞬何かを考えるかのように止まったが、久須郎から出た予想外の言葉に険しい眼で久須郎を見た。
「何で百鬼のところに行くように促したんだっての。…………自分の気持ちを隠してまで」
だがこれには流石に与太造も目を点にさせた。自分よりも遥かに年下の久須郎に図星をつかれるなんて夢にも思っていなかったわけだ。
「……餓鬼のお前にはまだわかんねぇよ」
与太造の言葉に久須郎はむっとする。しかし与太造の切な表情に言葉をぐっと飲み込んだ。
「自分にとってどんな結果だろうとな、好きんなった女には幸せになってほしいもんなんだよ、このやろう」
嫌いな団子を頬張っている与太造は、久須郎から見て確かに大人のそれに見えた。久須郎は不服そうな顔で眉を潜める。そして残り一本となった団子に手を付け、ゆっくりと口に運んだ。
「……………甘ぇ」
大好きで仕方ないはずの団子に突然甘さを感じたらしい久須郎に、与太造は心無しかふ、と笑った。




