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争いがなければ平和は望めなかった

「あー…大分地獄の混乱も収まってきたっての、ったく、誰のせいで俺達がこんなに大変な思いをしなけりゃなんねぇんだっての…」



久須郎はぼやいた。大好きな甘味どころで大好きな団子をいくつも喉へ通しながら。戦いによってできた傷にたくさんの包帯を巻いて、無気力な眼で今日も変わらず真っ赤な地獄の空を仰いで。



「ほんとだぜ…看守どもに説明すんのも、囚人どもに説明すんのも何で俺達任せなんだよこのやろう。あいつら理解力が乏しいから無駄に時間くっちまったぜ」


「それは与太造、お前の説明力がないのもあるっての」


「んだと久須郎このやろう!」



横並びに大きな体を座らせているのは与太造だ。彼もまた重傷を負っていたが流石は番人。というか野生人なのではないか。巻かれていた包帯を無理矢理外し、自力で回復していっている。久須郎の横に積み上がっていく皿の数を見ていくうちに、甘さにおえっと吐きそうになる。与太造は甘いものが苦手だ。



「だ、だからさぁ…ごめんって何回も謝ってんじゃん…ほら、私の分の団子も食べていいからさぁ」


「おっまじで!っしゃぁ全部もらいだっての!」


「食べていいっつーかここの勘定もともと俺がすんだよ風篠さくら、このやろう!」



与太造は私の発言が不服だったらしいが、単純な久須郎はころっと気分を立て直してくれた。あんなにも食べた団子をまだ口いっぱいに頬張っている。可愛いものだ。久須郎の首に巻きついているヘビ達…久須郎曰くサリとウリがそれを羨ましそうに見ていたから団子をあげてみると、ご機嫌に食べていた。あ、久須郎より蛇が可愛い。



「あ!お前サリとウリに勝手にごはんやんなっての!こいつらには俺が毎日特製肉あげてんだからよ!」


「だってすごく欲しそうに見てたんだもん。ご主人様だけご馳走ずるいもんねーっ」



サリウリに同意を求めれば同調してくれるかのように笑顔で首を傾げ、長い舌をピロピロと伸ばした。



「可愛い~~」


「っちぇ…こいつら妙にお前に懐いてるんだよなぁ…」



なんて平和な空間なのだろう。地獄の空気感も変わったものだ。いや、私が多少慣れたのかもしれない。本来新しい閻魔が誕生するはずの日に、閻魔制度を廃止すると地獄にいる全員に説明した。いや、番人である与太造や久須郎に説明してもらった。


1番の原因は勿論私が閻魔の称号を破壊したことにあるが、戦いを勝ち抜いた百鬼が閻魔制度の廃止を進言したのだ。もう、この地獄も変わるべきだって。必要以上に虐げ苦しませることを美徳とするのではなく、人間界で犯した罪を反省し輪廻転生できるような世界にしていくべきだって。この数週間を通して思うところがあったのだろう。それに首を横に振るものはいなかった。あの黄緑でさえ…………。


今となっては鬼ノ街道でも囚人が出入りすることを許された。囚人は毎日の決められた時間に地獄での修練を受けることは変わらないが、恐怖で死んだ眼をした者は少なくなったと思う。まぁ、人間界でいう刑務所に近い感じになったなと私は思う。



「そんでよ…お前はこんなところで油売ってる暇あんのかよ、このやろう」


「え?お腹の傷のこと?大丈夫、手当てしてもらったら治ってきたよ。私も与太造のこと言えないくらい野生人なのかもしれない」


「そうじゃねぇよ。っつーか野生人って何だよこのやろう。そうじゃなくて、あの野郎のことだよ」



あの野郎。名前を言われなくても勘付いた。勿論与太造が言うあの野郎とは、百鬼のことだ。あの戦いが終わり、私達は救急班に運ばれ手当てを受けた。私は3日3晩寝込んだらしいが、久須郎や与太造は1日で回復した、いや、無理矢理病院を出たそうだ。私が目を覚ました時には既に…百鬼の姿もなかった。お見舞いに来てくれたおばあちゃんや英雄にはお礼を言ったし、地獄墓石の横に小さなお墓を作って団寿にお別れを言った。





「おばあちゃん…英雄、団寿と…また会えるかな」


「……勿論さ。団寿は輪廻転生したんだ。きっとまたどこかで出会える」


「ふん…また医者にでもなったりしてな」



私達は3人でお墓の前で手を合わせる。



「さくら…あんたのおかげであちきは地獄でも希望をもって生きて行こうって…そう思えたよ。地獄には本当にたくさんの太陽が上がったさ…ありがとよ」


「…何おばあちゃん、改めてそんな」


「本当の事さ。でもさくら…あんたは人間界に帰れなくなっちまった。本当によかったのかい」


「うん。私もおばあちゃんと同じだよ。地獄でも…大切なものがあるから、生きていける」



私が笑うとおばあちゃんも歯を見せて笑った。



「……英雄?」



笑い合う私達に背を向けてこの場を去ろうとする英雄を私が呼ぶ。英雄は足を止めてそのまま話した。



「……無事に戦いは終わった。百鬼様ももうお前たちを虐げることはない…。俺の役割も終わったさ。俺もここで強く生きていくからよ…」



もう一度歩きはじめる英雄の姿を見て、私とおばあちゃんは目を合わせる。私は英雄が何を考えているかよく分からなかったが、おばあちゃんは全てわかったかのようにため息をついた。



「だから…自分はもう必要ないと?」



おばあちゃんの言葉に英雄は再び足を止める。



「…紫太夫。俺はお前の最愛の旦那を奪った。今やっとそうやって笑い合えるお前たちの横にいていい人間じゃねぇ」


「……あんた、相変わらず鈍い男だねぇ」



おばあちゃんはそう言うものの、その表情は至って優しさにあふれていた。



「確かに私の旦那を殺したこと…許しはしない。でも、あんたはその負い目を感じてこの地獄で必死に私を護ってくれた。私の大事な仲間を護ってくれた」


「……、」


「紛れもない…私の英雄(ヒーロー)さ」


「……!」



英雄の肩がピクリと揺れた。そして背を向けたまま、天を仰いだ。



「だからそんな寂しいこと言わないでさ…これからも私を護っておくれよ。英雄(ヒーロー)。次のミッションだよ」



私の顔にもふ、と笑みが生まれる。何だ、この二人、結局お互いがお互いを必要としているんじゃないか。英雄は暫く黙って天を仰いだままだ。その右手が腰から目元に移動したところで、やっと言葉を発する。



「…いっけねぇなぁ。今日は空気が乾燥して…目に染みやがらぁ」



乾燥、という名目で目を拭う英雄を見て、私とおばあちゃんは再び目を合わせてにっこり笑った。おばあちゃんは英雄の背中へ近付いていく。



「……傷物にしたら、許さないよ」


「……あぁ、。約束する。紫太夫…英雄(ヒーロー)は愛した女を生涯護るものだ…」


「…………ふ、やっと言ったね」



英雄はおばあちゃんに顔を見られないようにしてか、後ろを振り向きながらその大きな体におばあちゃんをすっぽりと納めた。その光景はどこまでも微笑ましき、私も心の奥からの笑顔が生まれた。





「おい、風篠さくら何ニヤニヤしてんだっての」


「あ、思いだしニヤニヤしてただけ」


「はぁ?何だそれ」



おばあちゃんと英雄が報われて本当に良かったなぁと思い返していたら顔に出ていたようだ。久須郎には気持ち悪いと悪口を言われつつも、だからあの野郎のことだよ、と言及された。


あの野郎……百鬼とは目を覚ましてから2日、会えていない。



“……この戦いが終わったら、お前に伝えたいことがある…。聞いてくれるか”


“…勿論。私も改めて話したいことがあるんだ”



百鬼は一体どこにいるんだろう。気になっていないわけでは当然ない。寧ろずっと気がかりだ。ただ、変に足が動かない。ここに来て何を尻込みしているのか…怖いのか?何が?百鬼はもう私のために地獄に縛り付けられることもなくなったよ?百鬼が幸せになれるならもういいじゃんか?



「っだぁー!頭の中がぐるぐるするぅう!」


「ごふっ!い、いきなりでっけぇ声出すなっての風篠さくらぁあ!この団子の串で目ん玉突き刺すぞ……ってサリウリ、ちょ、何で俺に怒るんだってのぉぉお!」


「完全に風篠さくらに懐いてるじゃねぇか…。迷うことなんてないだろ、このやろう」


「え?」



与太造は私の目を真っ直ぐ見てそう言った。



「あの時も言ったろうが…百鬼は間違いなくお前のことを…大事に思ってるに違いねぇってよ」


「…」


「それにお前は人好しすぎるってな。見返りくらい求めたっていいだろーが。それだけお前が百鬼の事を想ってるってことだろ、このやろう」


「……与太造」



あの時、泣いていた私の話を静かに聞いてくれた。



“自分の気持ちを知っておいてほしいだけとか…上っ面の名目だけ立てて心の奥底では百鬼からの見返りを求めてた”



私の自分よがりな話をまだ覚えていてくれた。与太造は鼻をすすって私からふい、と視線を逸らした。私は顔が綻んでいくのを感じる。



「ありがとう…。私、ちゃんと百鬼に伝えてくる」



与太造ににこ、と笑いかけると、与太造もいつもの声で、おう、と言って笑ってくれた。


よし______、!


そうと決まれば、と椅子から立ち上がった私の目の前に、突然物凄い速さで上から何かが落ちてきた。



「「「っ!!??」」」



まるで隕石が落ちてきたかのような衝撃に、地震のような地響き、揺れ。私や久須郎、与太造だけでなく個々の近くにいる誰もが驚きのあまりに反応をした。


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